note(東京・港)のnoteプロデューサー/ブロガー徳力基彦が、企業のSNS巧者を直撃する本連載。第1回には、チョコレートブランド「Minimal(ミニマル)」を展開するβace(東京・渋谷)代表取締役の山下貴嗣氏と、日本製の工場直結ファッションブランド「ファクトリエ」を展開するライフスタイルアクセント(熊本市)代表取締役の山田敏夫氏が登場。D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)事業における、SNSを活用した顧客との関係性づくりについて話を聞いた。
徳力基彦(以下、徳力) まずは、お2人はどのSNSをお使いなのかというところから聞いていきたいです。Minimalが顧客とのコミュニケーションで、最も注力しているSNSはどれですか?
山下貴嗣氏(以下、山下氏) TwitterとInstagramです。シズル感のある、食べ物のきれいな写真とInstagramはやはり相性がいいです。
βace 代表取締役
山田敏夫氏(以下、山田氏) ファクトリエはTwitterとFacebookですね。30代から40代後半くらいが顧客層の中心なので、相性がいいのがこの2つだと感じています。
徳力 ビジネスの面で、SNSの重要性はどのように感じていますか?
山下氏 SNSに本腰を入れ出したのはここ1年~1年半くらいのことです。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で店舗の閉店を経験しました。コロナ禍以前はリアル店舗でのコミュニケーションが中心でしたが、(外出自粛などが広がったことから)ECサイトやSNSにも注力する必要が高まり、コミュニケーションのDX(デジタルトランスフォーメーション)にかじを切っているところです。
徳力 お2人とも、個人としてもTwitterとnoteをされてますね。それぞれのSNSの役割や目的はありますか?
山田氏 ファクトリエでは最近、こんまりさん(片づけコンサルタントとして活動する近藤麻理恵氏)など、いろいろな人とコラボレーションして洋服や収納グッズなどの商品開発をしています。その経緯をきちんと伝えたかったというのが、noteを書き始めた一番の理由です。ただ有名人だからという理由でコラボしているのではなくて、意図があることを伝えたかった。noteはさまざまなプロジェクトの“B面”をきちんと書いて残しておきたい場所として使っています。
ライフスタイルアクセント 代表取締役
山下氏 僕はこれまでSNSを全く使ってませんでした。Twitterを使い始めたのも2018年と遅いほうです。Minimalにはシェフやパティシエのような役割の人を置いておらず、「チョコレートをこういう気持ちで、こんなふうにつくっています」と伝える個人人格のメディアがありませんでした。そういう、ブランドにぬくもりを与えるような情報を発信することが大切だよねという話に社内でなり、創業から4年がたったころ、個人としてTwitterとnoteを始めることにしました。
ただ、SNSを始めるのには葛藤もありました。Minimalは洗練されたブランドイメージを目指していたため、あとから暑苦しい(見た目の)僕が顔を出して情報発信することでマイナスになるのではないかと(笑)。ですが、会社のフェーズとして、ものづくりをきちんとやるというブランドのアイデンティティーが出来上がってきた時期でもあったので、今なら大丈夫だろうと判断しました。
徳力 山下さんがSNSに苦手意識があったとは意外でした。お2人がSNSをやる上でこだわっているポイントや、やってよかった取り組みはありますか?
コットンの栽培が生んだ顧客との一体感
山田氏 僕が印象的だったのは「COTTON PROJECT」ですね。ファクトリエでは2年前から山梨にオーガニックコットンの農場をつくり、試行錯誤しながら自社生産でコットンを育てています。毎年、お客さんと一緒に種まきをしたり、汗をかきながら雑草を取ったりして、自分たちでつくったコットンが入ったアイテムを着るという、ゼロから洋服づくりが体験できるプロジェクトです。
それがコロナ禍で、お客さんと一緒にファームでイベントをすることができなくなってしまいました。そこで、コットンの種をお客さんに買ってもらい、みなさんの自宅で育ててもらう取り組みを始めました。
「リアルでできなくなったから」という気持ちで小さく始めた企画でしたが、およそ1000人が種を買ってくださり、TwitterやInstagramなどに「芽が出た」とか「牛乳と酢を混ぜてかけたら虫が逃げた」といった栽培の過程を投稿してくれるようになりました。僕も含め、みんなで一斉に育て始めたので、お客さん同士で情報交換しながら助け合ったり、途中で栽培を諦めて「あとは頼みます」みたいな人が出てきたりしています。それを含めてすごく楽しかったんですよね。自然発生的でしたが、SNSでお客さんと一緒に何かに取り組んでいる、お客さんが喜んでくれているという実感を持てた、初めての体験でした。
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