AI(人工知能)やビッグデータを活用した未来都市の実現を目指す「スーパーシティ」構想。2021年4月に政府が締め切ったスーパーシティ型国家戦略特別区域の公募には、全国の自治体31組が名乗りを上げた。都市のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、人々の暮らしをどう変えるのか。全業種のビジネスパーソンが知っておくべきスーパーシティ構想を丸裸にする。

生活全般に関わる分野での先端テクノロジーの導入で、「丸ごと未来都市」の実現をうたうスーパーシティ構想が前進し始めた(写真/Shutterstock)
生活全般に関わる分野での先端テクノロジーの導入で、「丸ごと未来都市」の実現をうたうスーパーシティ構想が前進し始めた(写真/Shutterstock)

 体調が優れないある日、スマートフォンアプリでかかりつけ医師の診断を受け、そのまま自宅で静養していると、ドローンが軒先まで医薬品を届けてくれた。

 別のある日、仕事で市役所に行く時間がなかったが、デジタル化された住民IDを使って必要な行政手続きはスマホで完結。町中に導入された自動運転バスによる移動もスーパーマーケットでの買い物も、すべて顔パス(顔認証)、デジタル地域通貨によるキャッシュレス決済で済んだ――。

 これは何十年も先の未来都市の話ではない。国が強力に後押しをし、2030年ごろの社会を先行して実現するスーパーシティ構想にあるものだ。今まさに全国の自治体が動き出している。

【特集】スーパーシティ 近未来都市の実像
【第1回】 スーパーシティ“動く”全国マップ 「丸ごと未来都市」の中身とは? ←今回はココ
【第2回】 大阪スーパーシティはどうなる? 「大阪版デジタル庁」の構想も

ツールの使い方 地名をクリックすると「スーパーシティ型国家戦略特別区域」に応募した各自治体の提案概要が表示される(出典:内閣府資料、「グリーンフィールド」「ブラウンフィールド」アイコンは編集部作成)

 21年4月16日を締め切りに政府が募ったスーパーシティ型国家戦略特別区域の公募には、全国の自治体31組が手を挙げた。その顔ぶれと提案概要は、上の動くデータビジュアライズ全国マップを確認してほしい。

 応募自治体の内訳は、北海道1件、東北4件、関東4件、中部7件、近畿6件、中国・四国5件、九州・沖縄4件と、全エリアで満遍なく出そろった。自治体の規模はさまざまで、北海道の十勝地方南部にある人口わずか約3200人の更別村から、25年国際博覧会(大阪・関西万博)を控える大阪府と大阪市の共同提案まである。

 エリアの特性で大別すると、「新規開発型(グリーンフィールド型)」「既存都市型(ブラウンフィールド型)」の2つに分かれる。グリーンフィールドの代表例は、万博の開催予定地である人工島「夢洲(ゆめしま)」などを舞台にした提案を行った大阪府・市だ。他にも、石垣空港の隣接地や石垣港クルーズターミナルの整備計画地を活用する沖縄県石垣市などの提案がある。また、神奈川県鎌倉市や山口市などのように、既存の市街地とグリーンフィールドを組み合わせた「ハイブリッド型」も存在する。こうしたグリーンフィールドを含む提案は全7件で、少数派だ。

 その他過半を占めるブラウンフィールドは、既存の都市に先端テクノロジーを実装する提案になる分、鍵となるデータ収集において住民合意のプロセスが難しいといわれる。だが、「国内でグリーンフィールドの開拓余地は少ない。結局はブラウンフィールドでいかに未来都市を実現するかが重要なので、どちらが有利ということはないのではないか」(スーパーシティに応募したある自治体)という。

 政府は今後、専門調査会や諮問会議を経て、21年6月以降に5都市(区域)程度をスーパーシティとして指定する見込みだが、「力の入った応募が多いため、5都市(区域)以上になる可能性もある」(内閣府)という。また、今回の公募に間に合わなかった自治体や指定を受けられなかった自治体が再チャレンジできるよう、「21年秋以降に2回目の公募を行う予定」(内閣府)と話す。

スーパーシティとは何か?

 今回31組もの自治体が、こぞってスーパーシティに名乗りを上げたのは、政府の指定を勝ち取ることで、それぞれの未来都市構想が飛躍的に前進する期待があるからだ。スーパーシティは「丸ごと未来都市」といううたい文句通り、行政手続きや移動、医療、教育といった複数分野での先端的サービスの実現、異なる分野間でのデータ連携・共有を可能にすべく、複数の規制改革を一体的、包括的に推進できるようになる。

 実は、スーパーシティに応募した自治体の多くは、すでに先端的なテクノロジーを活用するスマートシティの取り組みも進めている。いずれも目指す未来社会の姿は共通したものがあるが、従来のスマートシティの枠組みでは複数の省庁がバラバラに必要となる規制改革を検討する仕組み。実現に向けたスピード感や横串を通した連携に乏しい面があった。それに対して、生活全般にわたる分野で技術の実証ではなく社会実装を進め、住民目線での都市DXを一気に推進できるのが、スーパーシティというわけだ。

 ただし、スーパーシティの先行実施が決まるのは、限られた都市(区域)だ。そのため、スーパーシティを推進する自治体担当者らは、「万が一指定されなくても、基本的な構想は変わらない。デジタルの活用によって住民の暮らしをよりよくする取り組みは続けていく」と口をそろえる。

 では、スーパーシティに名乗りを上げた自治体は、どんな構想を打ち上げたのだろうか。

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