42年前の昭和ソングが「世界で最も旬な曲」に 謎ヒットの舞台裏(画像)

2020年末、1979年に発売された日本の名曲が、世界の音楽シーンを席巻した。松原みき「真夜中のドア/Stay With Me」が、Spotifyのグローバルバイラルチャートで18日間にわたりトップを記録したのだ。実は2010年代末から、昭和のシティポップは「新しい音楽」として、リリース時を知らない海外の音楽ファンや日本の若者に聴かれる“第2の最盛期”を迎えている。

※日経トレンディ2021年6月号の記事を再構成

42年前の昭和ソングが「世界で最も旬な曲」に 謎ヒットの舞台裏(画像)

前回(第17回)はこちら

 2020年末に突如として世界の音楽シーンを席巻したのが、松原みき「真夜中のドア/Stay With Me」。1979年(昭和54年)に発売された日本の曲が、Spotifyのグローバルバイラルチャートで18日連続1位になったのだ。バイラルチャートとは、SpotifyからSNSなどにシェアされ再生された回数などを基に集計された、「今話題の曲」を反映したもの。つまり2週間以上にわたって、「世界で最も旬な曲」であり続けたといえる。

 実は2010年代末から、昭和を彩ったシティポップは現代の「新しい音楽」として、リリース時を知らない海外の音楽ファンや日本の若者に聴かれる“第2の最盛期”とも呼ぶべき時代を迎えている。「真夜中のドア/Stay With Me」の突然のヒットは、その象徴的な出来事でもある。

Spotifyグローバルバイラルチャートで18日連続トップ
Spotifyグローバルバイラルチャートで18日連続トップ
松原みき「真夜中のドア/Stay With Me」(1979年11月リリース)。松原みきのデビュー曲が世界的ヒット。ポニーキャニオンの「パッケージ・オーダー・プロジェクト(POP)」で7インチ復刻盤もリリースされ、2ndシングル「愛はエネルギー」などの予約・注文受付も21年4月に開始
ブームを受け復刻盤企画が始動
ブームを受け復刻盤企画が始動
松原みき「愛はエネルギー」(1979年12月リリース)
松原みき『Who are you?』(1980年9月リリース)
松原みき『Who are you?』(1980年9月リリース)

 そもそもシティポップとは何か。明確な定義は無いが、音楽ジャーナリストの柴那典氏は、「概念的だが、世界で聴かれているのは1970、80年代の日本で、都会的でおしゃれなイメージの曲として聴かれていたポップソング」と解説する。代表的なアーティストに挙げられるのは山下達郎や竹内まりや、大瀧詠一、大貫妙子など。ここでは、この定義に沿う曲をシティポップと呼ぶ。

 まず海外のコアな音楽ファンの間で、シティポップの認知が広がっていったのは2010年代前半。1980年代頃の日本を含む各国の曲や音源の一部を取り入れ(サンプリングして)、新たな曲を作り上げる「Vaporwave」というジャンルが話題に。派生する形で日本の曲を題材にした「Future Funk」という新たなジャンルも生まれた。

 国内外の音楽トレンド動向に詳しいSpotify Japan コンテンツ統括責任者の芦澤紀子氏は、「VaporwaveやFuture Funkが世界的なトレンドになり、そこでサンプリングする曲の“ネタ探し”を通してシティポップの曲が世界で発掘されていき、ここ数年のストリーミングサービスの普及でメインストリームに広がっていった」と言う。

■シティポップは2010年代初頭からブームの兆候
2010年代初頭~ 音楽ジャンル「Vaporwave」「Future Funk」が世界の音楽ファンの間で注目される
2010年代半ば~ シティポップの影響を感じさせる若手アーティスト・バンドが続けて登場し、「ネオ・シティポップ」としても注目度を高める
2018年ごろ 竹内まりや「Plastic Love」が世界的なブームに
2019年 韓国人プロデューサー兼DJのNight Tempoが「昭和グルーヴ」シリーズを始動
2020年 松原みき「真夜中のドア/Stay With Me」がSpotifyのグローバルバイラルチャートで18日連続1位に

韓国のDJ、インドネシアのシンガーがヒットを後押し

 Future Funkを生んだ立役者として知られるのが、韓国人プロデューサー兼DJのNight Tempoだ。特に竹内まりや「Plastic Love」のリミックス音源が注目されると、後を追うように「Plastic Love」の原曲が18年ごろには世界的なブームに。非公式ではあるが、音源が聴ける動画がYouTube上で世界中に拡散した。柴氏は、「英語圏やアジア圏で突如、『Plastic Love』の動画が、音楽を聴いている人のYouTubeの関連動画に頻出するようになった。これが、シティポップが広く世界の音楽ファンに注目され始めたきっかけの一つ」と言う。

<関連記事:クラブ音楽の常識を覆す 昭和シティポップを盛り上げる韓国人DJ

 「Plastic Love」のヒットに呼応するように、竹内まりや自身も過去のライブのベストシーンを収めた映像作品「souvenir the movie ~MARIYA TAKEUCHI Theater Live~」を18年11月に劇場公開。19年には年末のNHK「紅白歌合戦」に出場するなど、精力的に活動を続けている。

 ブームの発端たる「Plastic Love」のヒットが韓国人DJによるリミックスだったとすれば、それを決定付ける「真夜中のドア/Stay With Me」のヒットはインドネシア人シンガーのカバーによるものだったといえる。1980年代のシティポップや最新アニメソングの日本語カバーを2016年からYouTubeで公開してきたRainychが20年10月末、21年4月中旬時点で登録者数150万人を超えるチャンネル上で「真夜中のドア/Stay With Me」のカバー動画を公開。原曲が世界的にヒットしたのは、その数カ月後の出来事だった。

アジアのアーティストがヒットを牽引
アジアのアーティストがヒットを牽引
【韓国発】Night Tempo
プロデューサー兼DJ。音楽配信サービス「SoundCloud」などにシティポップをサンプリングした音源などを公開し、Future Funk誕生の立役者に。19年からシティポップなどの曲をリミックスする「昭和グルーヴ」シリーズを始動
【インドネシア発】Rainych<br>シンガー。日本語を話せないにもかかわらず、J-POPカバーを中心に動画を上げはじめ、16年からYouTubeでの活動を開始。タワーレコードのコンピレーションCDにも参加
【インドネシア発】Rainych
シンガー。日本語を話せないにもかかわらず、J-POPカバーを中心に動画を上げはじめ、16年からYouTubeでの活動を開始。タワーレコードのコンピレーションCDにも参加

日本でもシティポップがロングセラーに

 では、なぜ海外でこれほどまでにシティポップが受け入れられているのだろうか。芦澤氏は、「シティポップはAORと呼ばれるジャンルなど、当時日本を含め世界的にヒットしていた洋楽がベースにある。そこに日本独特の要素が加わり、海外の人にとっては親しみやすく、どこかエキゾチックな雰囲気を感じさせる点が魅力ではないか」と分析する。

 海外ではバラードより、聴いていると自然に体が動くようなグルーヴ感のある曲が支持されるという。「例えば海外の人気曲だと、竹内まりやさんなら『純愛ラプソディ』や『シングル・アゲイン』より『Plastic Love』、杏里さんなら『オリビアを聴きながら』より『Remember Summer Days』というように、日本での人気や知名度と必ずしも一致しない」(芦澤氏)。Spotifyでは「70's City Pop」など、年代別にシティポップの曲をまとめたプレイリストを公開している。

 日本では、海外の少し前からシティポップを巡る動きが活発化。タワーレコード商品本部の担当者は、「2000年代初頭から、『Light Mellow和モノ669』(監修:金澤寿和)をはじめ、シティポップをテーマにした新ガイド本などの出版が目立つように。山下達郎さんの『MELODIES 30th Anniversary Edition』、大瀧詠一さんの『A LONG VACATION 20th Anniversary Edition』など名盤の最新リマスターが出ると、他の新作と共にチャートインし、ロングセラー化する現象も珍しくなくなった」と言う。

 10年代に入ると、シティポップを知らない若者の間にも裾野が広がる。ceroやSuchmosらネオ・シティポップとも呼ばれることがある新ジャンルのアーティストが登場してきたのだ。シティポップに通ずるしゃれた空気感、グルーヴ感を持つヒット曲が続けて誕生。アーティストが影響を受けた音楽にシティポップを挙げることなどが、若者がシティポップを聴くようになる入り口になった。

 レコード会社や音楽ショップもシティポップブームに注目している。ポニーキャニオンは松原みきの作品も含む、入手困難な商品や廃盤に一定のオーダーが入ると商品化する「パッケージ・オーダー・プロジェクト(POP)」を始動。タワーレコードは21年5月5日まで「CITY POP Voyage」キャンペーンを開催。人気のオリジナル音源やカバー曲を収録したコンピレーションアルバム『CITY POP Voyage - STANDARD BEST』も発売した。

音楽ショップも大々的に展開
音楽ショップも大々的に展開
タワーレコードでは近年、シティポップコーナーや山下達郎など関連アーティストのコーナーを強化。独自のコンピレーションアルバムや名盤の復刻リリースも企画
『CITY POP Voyage - STANDARD BEST』(21年3月21日リリース)。吉田美奈子「TOWN」、米光美保「恋は流星~SHOOTING STAR OF LOVE~」、大貫妙子「都会」、岡村靖幸+坂本龍一「都会」、早見優「恋のブギウギトレイン」など
『CITY POP Voyage - STANDARD BEST』(21年3月21日リリース)。吉田美奈子「TOWN」、米光美保「恋は流星~SHOOTING STAR OF LOVE~」、大貫妙子「都会」、岡村靖幸+坂本龍一「都会」、早見優「恋のブギウギトレイン」など
■Spotifyプレイリストに見る、世界で聴かれるシティポップの名曲
【City Pop '70s】松原みき「真夜中のドア/Stay With Me」、荒井由実「中央フリーウェイ」、大貫妙子「都会」、サディスティックス「The Tokyo Taste」、南佳孝 duet with 大貫妙子「日付変更線」、ティン・パン・アレー「ソバカスのある少女」、小坂忠「流星都市」、Char「SHININ' YOU,SHININ'DAY」、鈴木茂「砂の女」など
【City Pop '70s】松原みき「真夜中のドア/Stay With Me」、荒井由実「中央フリーウェイ」、大貫妙子「都会」、サディスティックス「The Tokyo Taste」、南佳孝 duet with 大貫妙子「日付変更線」、ティン・パン・アレー「ソバカスのある少女」、小坂忠「流星都市」、Char「SHININ' YOU,SHININ'DAY」、鈴木茂「砂の女」など
【City Pop '80s】竹内まりや「プラスティック・ラヴ」、杏里「Remember Summer Days」、大橋純子「テレフォン・ナンバー」、吉田美奈子「LIGHT'N UP」、EPO「DOWN TOWN」、菊池桃子「Blind Curve」、1986オメガトライブ「Older Girl」、サザンオールスターズ「EMANON」、稲垣潤一「サザンクロス」など
【City Pop '80s】竹内まりや「プラスティック・ラヴ」、杏里「Remember Summer Days」、大橋純子「テレフォン・ナンバー」、吉田美奈子「LIGHT'N UP」、EPO「DOWN TOWN」、菊池桃子「Blind Curve」、1986オメガトライブ「Older Girl」、サザンオールスターズ「EMANON」、稲垣潤一「サザンクロス」など
注)作品の発売時期は、原則オリジナル作品のタイミングを示す。Spotifyのプレイリスト収録曲は21年4月中旬時点で編集部が抜粋
30
この記事をいいね!する