
「旧来の“幸せの公式”から脱却し、生き方の多様化が加速する」。こう予測するのは、全国で約90店舗の飲食店を展開するバルニバービ社長の佐藤裕久氏だ。同社は兵庫県・淡路島などの地方創再生プロジェクトも積極的に進める。コロナ禍の長期化で東京を離脱する動きも数字で表れており、働き方に選択肢があると提示された余波は決して小さくないと、佐藤氏は語る。その真意は。
2020年、東京から出て行く人を示す転出者数が前年比4.7%増え、40万1805人に達した。これは、総務省が公表した住民基本台帳の人口移動報告による数字だ。比較可能な14年以降で最大となり、転入者数が転出を上回る「転入超過」は19年比で62%減の3万1125人と大幅に縮小した。月別では20年7月から8カ月連続で転出が上回り、コロナ禍の長期化で近年の東京一極集中に変化の兆しが出ている。
この動きに対し、「以前から消費者が抱えていたモヤモヤが今回の新型コロナウイルス感染症拡大の影響で表出し、実際に人の動きに表れ始めた」と、関東と関西を中心にピッツェリアやカフェ、レストランなどを90店舗以上展開するバルニバービの佐藤裕久社長は語る。同社は、一般的に飲食店には不向きとされる“バッドロケーション”に出店し、様々な繁盛店をつくり上げてきた。さらに、兵庫県・淡路島のエリア開発を進めるなど、実は10年以上も前から地方創生を地道に進めている。21年に入り、都市部では満員電車が再び目立つようになるなど、働き方がコロナ禍前に戻ると指摘する声もあるが、佐藤氏は「自由に住む場所を選択できると一度実感した人は多く、東京依存、都市依存から脱却し、地方へ移動する動きは続く」とみる。
では、消費者が抱えていたモヤモヤとは何か。それは、効率重視の生活、昭和から続くステレオタイプな生き方への疑問だ。
【第2回】 消費者のわがまま化に商機 ゆるい多拠点生活、たまに脱・肉食
【第3回】 56%が「コロナ後も今の生活を維持したい」 在宅中に副業や投資
【第4回】 外食の“異端児”が語る「脱・都市依存」 東京転出者が40万人突破 ←今回はココ
コロナ禍以前は、「多様化の時代と言われてもなお、『都市部に出て、いい大学に入り、大手企業に就職する』といった昭和30~40年代の“幸せ”の公式がいまだに根強く残っていた」と佐藤氏は話す。さらに、最近ではデジタル化やスマートシティー化の推進により、都市をより効率的につくり込もうとする動きが加速。「生活に“余白”や“ため”といったものがなくなりつつあり、何となく息苦しさや生きづらさを感じていた人は多い」(佐藤氏)。今回のコロナ禍は、その疑問に気づくきっかけ、もしくは気づいていたけれど踏み出せなかった人が動き出す端緒になったというのだ。1年以上にもわたるコロナ禍で、いよいよ人の動きが顕在化している。
ライフスタイルの多様性に気づき始めた人の変化とは
多様性とは、「多くのオプションがある状態」と佐藤氏は定義する。オプションが生まれた事例の一つとして、同氏は以下のような例を挙げる。
東京・丸の内の会社に勤める会社員の場合、毎日出社する上で近さこそが住む場所を決める価値基準となり、都心に住むのが理想と擦り込まれていた。だが、テレワークの推進によって出社が週に1回でもよいとなれば、住む場所の制約は一気になくなる。例えば、伊豆半島の一番南の南伊豆に住むことだって可能になる。
この新たなオプションに気づいた会社員は、「金銭的な価値観が変わる可能性がある」と佐藤氏は話す。
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