アフターコロナの消費者はこう変わる 2021

消費者は従来の当たり前から解き放たれ、わがままになる――。特集の第2回は、withコロナ時代のキーワードとして「4つのY」を提唱したD4DR社長の藤元健太郎氏が、アフターコロナの消費者像を予測する。わがままな消費者とは一体どういうものか、そして企業はどう対応すべきか、その真意を聞いた。

移住や多拠点生活、ワーケーションなど、住み方・働き方に変革が起きつつある。多拠点生活を支援するプラットフォームサービスが成長し、交通機関との連携などもスタート
移住や多拠点生活、ワーケーションなど、住み方・働き方に変革が起きつつある。多拠点生活を支援するプラットフォームサービスが成長し、交通機関との連携などもスタート

 withコロナ時代のキーワードとして、「トレーサビリティー」「フレキシビリティー」「ミックスドリアリティー」「ダイバーシティー」の4つのY(詳細は、「『コロナ前』にはもう引き返せない 未来を読み解く『4つのY』」)を挙げたD4DR社長の藤元健太郎氏。アフターコロナの消費者像に関して、「わがままになる」と予測する。

前回(第1回)はこちら

 「わがまま」というのは、決して無理難題を押しつけるモンスター的な消費者という意味ではない。

 従来、常識とされた画一的なライフスタイルではなく、そこから解き放たれた多様な生き方を自らの意思で選択をしていくということ。「意識のあるなしを問わず、ビジネスパーソンはこうあるべき、正しい生き方はこれだ、といった心理的な圧力を誰もが感じていた。いわば常識が抑止力となっていたが、コロナ禍によって旧来の価値観が崩壊し、本当に自分にとって快適なものを選んでもいいという意識が広がった」(藤元氏)というのだ。従来の消費者像に慣れた企業から見れば、“わがままな消費者像”ということになるだろう。

 わがままな消費者を分析する上で、藤元氏がカギと語るのが「マルチ化」だ。

【特集】アフターコロナの消費者はこう変わる 2021
【第1回】 メルカリに幸せ見いだす60代 コロナ禍でシニアが“デジタル化”
【第2回】 消費者のわがまま化に商機 ゆるい多拠点生活、たまに脱・肉食 ←今回はココ

ガチじゃない、ゆるい多拠点生活が広がる?

 特に大きな動きが、ライフスタイルのマルチ化。中でも住む場所の多様化、つまり多拠点生活への意識が高まると藤元氏は見る。従来、会社への出勤を前提としたライフスタイルが一般的だったため、都市近郊に住まざるを得ない、もしくは無意識のうちに住むべきだと考える人が多かった。だが、コロナ禍によるテレワークの推進や遠隔コミュニケーションツールの発達、社会の意識変化により、多様な勤務形態を許容する動きが加速。住み方の自由度が高まっている。

 新しい住み方というと、地方移住や、定住拠点を持たないアドレスホッパーを想像する人も少なくないはずだ。だが、どちらもハードルが高く、踏み出せない人が多いのが現実。事実、新型コロナウイルス感染症の拡大がやや鈍化したタイミングでは、テレワークが後退する動きも見られた。ただし、藤元氏はこう指摘する。「完全に新しいライフスタイルに移行するのは難しいものの、一度自由なライフスタイルの可能性を知った消費者は、多拠点生活のエッセンスをうまく取り入れるようになる」。

 そこで、これから注目されそうなのが、拠点を持ちながら自由に移動の場所を確保する“ゆるい多拠点生活”だ。

 実は、ハードルを下げた多拠点生活に対応するサービスは、すでに拡大の兆しを見せている。例えば、KabuK Style(カブクスタイル、長崎市)が展開する「HafH(ハフ)」。世界36カ国、500都市以上の宿泊施設を定額で利用できるサービスで、2019年4月に開始された。同じく多拠点プラットフォームサービスを展開するアドレス(東京・千代田)が1カ月の住み放題プランのみなのに対し、HafHは1カ月のうち、1日、5日、10日、1カ月と予算に合わせて期間を選べる多様なプランを用意する。

HafHは、月に1泊から1カ月の利用まで多様なプランを用意
HafHは、月に1泊から1カ月の利用まで多様なプランを用意
HafHは、36の国と地域、500都市以上のゲストハウスやホテル、旅館などが利用可能。コロナ禍後には、海外施設の開拓もさらに加速する計画
HafHは、36の国と地域、500都市以上のゲストハウスやホテル、旅館などが利用可能。コロナ禍後には、海外施設の開拓もさらに加速する計画

 「従来は、フリーランスなど、時間的な自由度が高い人の利用が多かったが、最近では会社員の登録が増加し、半数以上が給与所得者になっている」と、KabuK Style創業者の大瀬良亮氏は話す。利用者も急増しており、単月の新規登録者数は20年7月から12月まで6カ月連続で過去最高を記録。予約受付数も20年8月から同年12月まで5カ月連続で過去最高となるなど、大幅に伸びている。20年12月の予約数は、前年同月比6倍に達するほどだ。月間利用可能日数が5日や10日程度のプランの利用率が高く、「アドレスホッパー的な使い方の人だけでなく、家庭で落ち着いて仕事をする場所が確保できない、気分転換としてたまに使うといった、利用目的の多様性も広がっている」(大瀬良氏)という。都内でのビジネスの第2拠点として、また地方でのワーケーション用途に、さらには観光時の宿泊などにも活用されている。

 多拠点生活の広がりを受け、賃貸物件にも変化が起きている。Unito(東京・千代田)が展開するのが、外泊をした分だけ安く住める「リレント型賃貸」をうたう「unito(ユニット)」だ。

 居住者が家に帰らない日に空き室として他者に貸し出すことで、家賃を下げる仕組み。例えば、東京都心の1カ月の利用料が10万8000円(税込み、以下同)の部屋では、5日間帰らない場合は1万2500円、同10日間なら2万5000円も安くなる場合がある。その日数を、HafHなどの多拠点サービスを組み合わせることで、コストを抑えながらマルチな生活が可能になる。「勤務地に近いなどという利便性の引力が弱くなったことで、何でこの街に住んでいるのか消費者は考えるようになる。1拠点+サブ多拠点の組み合わせで、多様なライフスタイルに対応していく」と、Unito CEO(最高経営責任者)の近藤佑太朗氏は話す。

unitoは、独自に運営する物件に加え、コロナ禍で苦境に陥っているホテルの部屋をunito用に転換して展開。今後は、リレント機能付きのマンションの開発などもデベロッパーと組んで進めていく計画。現時点では東京都市部が中心だが、地方への展開も見込む。住民票の取得や郵便物の受け取りにも対応
unitoは、独自に運営する物件に加え、コロナ禍で苦境に陥っているホテルの部屋をunito用に転換して展開。今後は、リレント機能付きのマンションの開発などもデベロッパーと組んで進めていく計画。現時点では東京都市部が中心だが、地方への展開も見込む。住民票の取得や郵便物の受け取りにも対応

オフィスに必要なのは、スナックとサウナ?

 居住や生き方の自由度が増したことで、ビジネスパーソンがオフィスに求めるものも変わっていくと藤元氏は指摘する。「テレワークの推進や兼業・副業の広がりを受け、自由に働き方を選ぶ社員が増えてくると、社員同士の物理的な接触時間は激減する。社外とのコミュニケーション量も減り、そこに危機感を持った人は雑談やセレンディピティーが生まれる空間を求めるようになる」(藤元氏)というのだ。「執務スペースとしての必要性が低下したオフィスを、いかに『集う場』に転換できるかが、社員のエンゲージメントを高める重要な要素になる」と藤元氏は話す。

 では、集う場に必要なものは何か。藤元氏は大胆な提案をする。それが、「スナック」と「サウナ」だ。

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