個人消費の動きを捉えるオルタナティブデータ──POS(販売時点情報管理)データ、位置情報、衛星画像などデータの見方や活用法を紹介する連載の第9回。緊急事態宣言が2021年10月1日に全面的に解除となった。決済データ、人流データから見る消費動向の変化とは。
夏場にかけて猛威を振るい、第5波を形成した新型コロナウイルス感染症。その後は急速に新規感染者数が減少し、先行きが不透明であった国内経済にとっても明るい兆しが見えつつある。緊急事態宣言が2021年10月1日に全面的に解除となり、その後も感染状況の改善を背景に行動制限も幅広く緩和されている。
それに伴い消費者の活動も回復傾向となり、ナウキャスト(東京・千代田)の提供する「JCB消費NOW(i)」によれば、21年10月後半には総合消費の指数においてコロナ禍前比でプラス圏へと回復している。
今回は「JCB消費NOW」で公開する消費統計のうち、「From to指数」のデータを主に用いて、新型コロナ禍が与えた消費への影響について見ていく。
オルタナティブデータにおける、人流データの注目の高まり
分析に入る前に、今回扱うFrom to指数について触れる。このデータは簡単に言うと「どこに住む人が(ii)」「どこで(iii)」「何人/いくら(iv)」消費したかが分かるものである。
一般的に提供されている消費関連のデータは、特定の業種を指数化してトレンドを読み解くものが多い。From to指数では、特定の業種の動向をさらにブレークダウンし、ある地点で行われた消費を消費者の居住都道府県別で分析ができる。
コロナ禍において、デジタル化など社会システムの変革が起こってきたが、オルタナティブデータの領域でも変化が起きている。とりわけ注目度が上がったのは位置情報を用いた人流データであり、主要駅の人流情報などがニュースで取り扱われるようになったのも実は最近のことだ。From to指数は決済データに加えて人流データの要素も加えたものであり、決済データ、人流データ単体のものとは異なる観点でのインサイトが見られる可能性が高い。
新型コロナ感染動向が人々の行動に与えた影響は?
それでは、From to指数のデータを用いて、消費動向を見ていこう。
新型コロナの流行以降、感染動向に応じてたびたび緊急事態宣言が出されたが、回数を重ねるごとに内容や効果も変わっていき、宣言によるアナウンス効果よりも、新規感染者数の増減のほうが行動抑制に影響を与えているのではないかという声も出ていた。今回は特定の業種を取り上げて、新型コロナの感染動向と消費の関連性について、見てみたい。
東京都での消費に注目し、人の移動の影響が出やすい百貨店、ホテル、居酒屋についてグラフにして見てみると特徴が分かる。ここでは、各業種指数のベースライン比の消費人数データと、消費者は少し前の感染状況を踏まえた上で行動を決定していると想定し、2週間前の新型コロナ新規感染者数のデータを用いて、グラフ化している。
グラフを見ると、感染者数(棒グラフ)が減少したときに消費(線グラフ)が改善し、感染者数が増加したときに消費も悪化していることが見て取れる。また感染状況が急速に落ち着き、かつ行動制限が抑制された10月に入り、各業種共に回復基調であることにも触れておきたい。
両者の関係性を見るために、消費人数と新規感染者の相関係数を算出すると、百貨店が-0.22、居酒屋が-0.26、ホテルが-0.37、と負の相関がある。百貨店と居酒屋はそこまで大きな値ではないものの、長距離の移動が関係するホテルにおいては、一定程度の逆相関があると言える。つまり、データ分析の観点でもグラフから読み取れるような関係性であると言えよう。このように、データを単一ではなく、複数用いて関係性を探っていくことが先行きの仮説を立てる上で重要である。
消費に影響を与えている要因は、新型コロナウイルス感染症の感染状況だけではないため、一概には言えない。だが、感染状況が落ち着いている状態は消費にとって明確にプラスであり、現在の状況が続くのであれば、11月以降もサービス関連の消費回復は期待できるのではないだろうか。
新型コロナが引き起こした人々の行動範囲の変化
続いては、From to指数の特徴である、「どこから来た人」が消費しているのか、の観点で特定の業種について見ていきたい。
行動抑制が行われるに当たり、大きな打撃を受けたのが旅行・宿泊の領域である。ここではホテルの地域別の消費を見ることによる、コロナ禍での変化について捉えたい。
主に観光利用される宿泊施設を対象としているホテル業種において、東京都、大阪府、京都府、福岡県の自都道府県で発生した消費の比率について見ていこう。
コロナ禍では、都道府県をまたぐ移動・長距離の移動は控えられたため、自地域内にとどまる範囲での消費が相対的に増加した。特に自地域内での消費比率は、日本国内で初めて緊急事態宣言が発令された20年4月ごろから急激に水準を上げた。その後感染状況が落ち着くと他地域からの流入が回復し、拡大局面ではまた自地域内の消費が増えるという動きが続いた。
ところが、感染状況が明確に改善した10月前半以降では自都道府県比率も低下傾向にあり、京都府・大阪府・福岡県ではコロナ禍前の水準に戻ってきていることが分かる。これは周辺地域を中心とした他地域からの流入が戻りつつあることの結果であり、厳しい状況に置かれていた宿泊業界にとっても明るい兆しの一つと言えるのではないだろうか。
一方、東京都ではコロナ禍前と比べ、現在も10ポイントほど自地域内での消費比率が多い状態となっている。このように、地域によって回復度合いが異なってくることが予想されるため、経済回復が進む中では一層、地域ごとの特徴に着目しながら分析していくことが求められるだろう。
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