オルタナティブデータを使って、ヒットの法則を分析できる。連載6回目は「SDGs(持続可能な開発目標)」が日本国内でどう浸透したか。テレビメタデータ(テレビ放送記録)を提供するエム・データ(東京・千代田)のライフログ総合研究所所長を務める梅田仁氏が露出トレンドを時系列で追った。

テレビメタデータ(テレビ放送記録)を分析すれば、その話題性指標からヒットを仕掛けることもできる(画像/Shutterstock)
テレビメタデータ(テレビ放送記録)を分析すれば、その話題性指標からヒットを仕掛けることもできる(画像/Shutterstock)

SDGsはどう「ワード」としてヒットしたか

 SDGsは、2015年9月の国連(国際連合)サミットで採択された“持続可能でよりよい世界の実現”を目指す30年までの国際的な到達目標だ。早速、図1のグラフを見てほしい。SDGsの日本国内でのGoogle検索件数(推計値)とテレビ放送秒数のトレンドを表したグラフだ。

図1:日本国内でのGoogle検索件数(推計値)とテレビ放送秒数のトレンド
図1:日本国内でのGoogle検索件数(推計値)とテレビ放送秒数のトレンド
出典:エム・データ テレビメタデータ、Google Trendsより筆者作成

 赤の折れ線で示した検索数を見ると、SDGsの検索量が21年5月に100万件を超えているのが分かる。月間10万件を超えればビッグワードとして扱われる検索の世界で、SDGsは21年の流行語にも選ばれる可能性があるバズワードの1つなのだ。

 青の棒グラフはSDGsがテレビ番組で紹介された放送秒数だ。これはテレビ民放各局が出資するエム・データのテレビメタデータ(テレビ放送記録)を集計したもの。テレビ放送記録には放送内容がテキストで記録されているので、「SDGs」というワードで抽出をかければ、そのトピックが、いつ、どの局の、どの番組で、どのような内容で、何秒間放送されたのかが分かる。

 例えば、SDGsが最初にテレビで放映されたのは15年9月。国連での採択を受けてすぐにNHKの「視点・論点」と「クローズアップ現代」がSDGsを紹介した。このときは、「国連で“持続可能な開発目標”が採択されました」という客観的なファクトのみの報道であった。

 SDGsがテレビ放映された最初の大きな山は、17年7月の週5000秒を超える集中露出だ。この週、あのピコ太郎が国連で「PPAP」を披露した。これは当時の岸田文雄外務大臣の依頼を受けたピコ太郎が、国連のSDGsフォーラムで行ったPRパフォーマンスだった。「ピコ太郎が国連!?」というサプライズは、週21番組、延べ5157秒(86分)というテレビの露出集中をもたらした。

 「ピコ太郎×SDGs」のトピックは、この時点でSDGsが持っていた潜在テレビ露出力(テレビ露出7週移動平均値)の32倍というニュース価値をもたらした。検索数も同じ週に初の4万件を記録。SDGsの検索トレンドはここから上昇に転じることになる。

 ピコ太郎のパフォーマンスのニュースはテレビだけではなく、SNSやWeb、紙媒体でも大きく取り上げられたはずだ。テレビデータを活用する上で重要なのは、このテレビの露出量を、その情報の他媒体での露出やそれに連動して喚起されたバズの規模と関連付けて評価すること。つまりテレビの露出量がそのトピックの話題性の定量的な価値を表していると捉えるのだ。

 決してテレビの実視聴者のみに限定された影響度という狭義の視点ではない。日本を代表する報道機関が取材して編成した情報の重み付けであり、トピックの情報価値が定量的に数値化されたものとして扱う。いわば、トピックの話題性指標(=ポピュラリティ・インデックス)だ。ここにテレビデータをオルタナティブデータとして活用する意味と面白さ、可能性がある。

 図2のグラフをご覧いただきたい。

図2:日本国内でのGoogle検索件数(推計値)とテレビ放送秒数のトレンド(散布図)
図2:日本国内でのGoogle検索件数(推計値)とテレビ放送秒数のトレンド(散布図)

 これは図1のトレンドデータを散布図にしたものだ。縦軸はSDGsの週あたりの検索件数、横軸はSDGsのテレビ露出の7週移動平均値、円の大きさはSDGsが露出した週あたりのテレビ番組本数である。右肩上がりの直線は検索とテレビ露出移動平均の回帰式であり、検索とテレビ露出という2つの変数は片方が増えればもう片方も増えるという正の相関があることを表している。この回帰式の寄与率は0.77。これはSDGsの検索とテレビ露出の値の変動の約77%はこの回帰モデルによって説明できることを示している。

 この回帰モデルを使えば、SDGsの検索量をあるレベルにまで押し上げたい場合、どのくらいのテレビ露出が必要となるのかが77%の精度で算出できる。ある検索量を目標として設定した場合、どのくらいのテレビ露出が必要か、そのトピックがどのくらいの話題性指標を獲得すべきかが分かるのだ。対象のワードを変えてこのモデルで算出することで、ブランドや商品、カテゴリーなど、さまざまなコミュニケーション戦略を立案、検証することが可能になる。

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