日経クロストレンドがまとめた「トレンドマップ 2022下半期」のマーケティング分野では、「パーソナライゼーション」「CRM(顧客関係管理)」「CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)/DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)」といった、自社のデータを活用した顧客コミュニケーションを高度化する概念やツールが大きくスコアを伸ばした。小売企業が自社のデータを活用した新広告事業「リテールメディア」にも注目が高まるなど、「ファースト・パーティー・データ」の重要性を示す結果となった。
トレンドマップ 2022下半期のマーケティング分野は、注目されている29のキーワードを編集部が選定。それぞれを認知する人に、そのキーワードの現時点での「将来性」と「経済インパクト」を5段階で尋ね、1~5点でスコアリングしたものだ。下図のトレンドマップは右に行くほど経済インパクトが大きく、上に行くほど将来性が高いことを示す。
例えば、将来性スコアが4.78、経済スコアは4.31と共にトップの「EC」は、現時点で多くの企業の収益源として普及していながら、成長の余地も残されているキーワードであると言える。経済産業省によれば、日本のBtoC(消費者向け)消費のEC化率は2021年時点で8.78%にとどまり、諸外国に比べてまだまだ低い。裏を返せば、それだけ伸びしろのある市場と言えるため、両スコアが高水準なのも納得がいく。
今回の調査で注目したいのは、将来性スコアが伸びた上位3キーワードだ。まず、最も将来性スコアを伸ばしたのが「パーソナライゼーション」で0.5ポイント増の4.54となった。パーソナライゼーションは、一人ひとりの顧客に適した商品の提供やコミュニケーションの実施を表す概念だ。
シナリオ型でメールを自動配信する「MA(マーケティングオートメーション)ツール」や、ポップアップ(小さな画像)をブラウザーに表示して購買を促す「Web接客ツール」は、いずれもデータを基に顧客の行動に合わせて適切な情報を出し分ける、パーソナライズされたコミュニケーションのためのツールだ。これらのツールは、BtoB(企業向け)、BtoCといった業態を問わず、幅広い企業で活用が進んでいる。農機や建機など、さまざまな産業機械を製造・販売するヤンマーホールディングスも、それらのツールを使いこなしている。
商品のパーソナライゼーションでも、さまざまなサービスが誕生している。特に「D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)」ブランドでは、顧客のアンケートデータなどを基に適切な商品を提案し、サブスクリプション型で商品を届けるサービスが多い。D2CベンチャーのGreenspoon(東京・渋谷)が展開するスムージーやスープの定期宅配サービス「GREEN SPOON(グリーンスプーン)」もその1つ。初回購入時に食生活や食に対する悩みなどのアンケートを診断形式で実施し、その回答結果に合わせて適した商品を提案する。
ZOZOの計測機器はいずれも利用者数100万人超
大手企業では、ZOZOがパーソナライゼーションに力を入れる1社だ。同社はかつてスマートフォン向けのアプリと計測用のタイツを組み合わせて、一人ひとりの体形に合った商品を提供するPB(プライベートブランド)展開したものの、事業の規模が拡大できずに撤退した。だが、パーソナライゼーションそのものに対する可能性は高いと判断。計測に特化したさまざまなデバイスを開発し、既製品を提案するサービスへと事業モデルを転換した。
▼関連記事 ZOZO澤田社長が語る PB失敗で学んだパーソナライズの勘所足のサイズの測定に特化した計測デバイス「ZOZOMAT」は、2022年2月に計測者数が200万人を超えた。また、21年に提供を開始した、肌の色をAI(人工知能)が診断するデバイス「ZOZOGLASS」の利用者も110万人を突破している。ZOZOはそれらのデータを基に顧客ごとに適した靴や化粧品を提案するサービスを提供している。
2番目に将来性を伸ばしたのは「CRM(顧客関係管理)」で、0.44ポイント増の4.56だった。CRMは、パーソナライゼーションと表裏一体の概念だ。読んで字のごとく、既存の顧客との継続的にコミュニケーションを取ることで、関係性を構築し、LTV(顧客生涯価値)を高めるための活動を指す。言葉自体は1990年代から存在するため、マーケティング業界では“老舗”だ。ただ、時代の変遷と共に実行できる施策は進化している。
以前のCRMといえば、メールや紙のDM(ダイレクトメール)を一律で送る程度にとどまっていた。それが、技術の進歩やデジタル上での顧客との接点が拡大したことで、顧客ごとに送り分けられるようになった。先述したMAツールやWeb接客ツールは、既存顧客とのコミュニケーションに活用し、LTVを高めるツールとしても有効だ。つまり、パーソナライゼーションという概念が登場し、ツールやデータの活用法が進化したことで、CRMは次のフェーズへ進んだと言える。
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