
テレワークが急激に浸透した今、チームのリーダーを務める立場にとっては、受難の時代が到来したと言える。「マネジメントがうまくいかない」「メンバーとの意思疎通が普段よりも難しくなった」と感じている人も多いだろう。立教大学経営学部でリーダーシップ開発、チームワークの研究に取り組む中原淳教授に、「テレワーク時代に、リーダーはどんな話し方をするべきか」を聞いた。
※日経トレンディ2021年5月号の記事を再構成
新著『チームワーキング ケースとデータで学ぶ「最強チーム」のつくり方』には、思わず「あるある!」と膝を打つような「失敗」のケーススタディーが数多く出てきます。特に、こうした失敗はテレワークで多く発生しているような印象がありますが、実際、そうでしょうか。

2020年からの新型コロナウイルスの影響で、明らかに働き手のエンゲージメント(企業と従業員の結び付きや貢献し合う関係)の低下が起きています。共通するのは、働き手にとって、会社や経営陣の戦略や目標に対する信頼感が失われていることです。平たく言うと、コロナで揺さぶられた後、「うちの会社、このままの方向でいいの?」と不安が生じているんです。
マネジメント層からすると、「会社の目標なんて、もちろん伝えているじゃないか」と言いたくなるかもしれませんが、びっくりするほど通じていません。働き手にとっては、自分が今やっている仕事が何につながっているのかが分からないということがよく起きています。
このチームは何を目指しているのか、言葉を変えて、何度も何度も言い続けなくてはいけません。そして事あるごとに互いに話し合わせないと、組織の目標を意識できないんです。それがテレワーク時代にはさらに難しくなっています。
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リーダーにとって最も重要な仕事が、目標を口に出して言うということなんですね。
リーダーの役割は、2つしかないんです。目標(ゴール)を設定して、それを状況の変化に応じて見直しながらも握り続ける、「ゴールホールディング」。そして、日々の声かけです。60年代から色々なリーダーシップ論が研究されてきたけれども、結局それに尽きますね。
それができないとどうなるかという例を本にも書かれていて、身につまされるほどリアルでした。
例を言うと、期初に設定したはずの目標を忘れてしまい、それぞれのタスクにいっぱいいっぱいになって期末に振り返るときに困る「目標って何だっけ?病」。
そういうチームは、「役割分担したはずのタスクがまったくつながらない病」にもなってしまいます。ちぐはぐなことをやっていたり抜け漏れが多かったりして、互いの仕事をまとめたときに振り出しに戻るということが起きます。
そうして、誰かがやるはずなのに抜け落ちてしまった仕事をリーダーが代わりにやる「最後はいつもリーダー巻き取り病」に陥っているチームも多いでしょう。
コロナ禍で特に知的労働をしている中間管理職の仕事は膨大になって、実はすごく残業しているというケースが多い。「できる人がたくさんやるしかない」ということを繰り返していると組織は持ちません。この状況、ずっと続くかもしれませんからね。
そういった状況にならないために、リーダーはどういう声かけをするといいでしょうか。
まずは何を伝えるかよりも、「最近どう? 困っていることはない?」「何か僕ができることはある?」と、毎日の状況を「聞く」ということです。
職場で顔を合わせていたときにはそれができていたとしても、テレワークではその機会をつくっていかないといけません。朝15分だけビデオ会議で集まるようにするなどはその例です。
1対1で話して、目標ややるべき仕事を確認する「1on1」は、チームの目標を再確認する機会です。進捗報告を聞いたら、「それは頑張ったね」などとねぎらった後で、「それがチームのこの目標につながったね」と、ひも付けて話すといいでしょう。ただ褒めるのではなく、同じ風景を見て、これに貢献してくれたからありがとうと言うイメージです。
この「同じ風景を見る」という感覚は大事です。目標を設定する際に、売り上げを○%上げるなど数値化することも必要なんですが、定量化できない仕事も多い。このチームは将来どうなっていたいのかという風景を描いて、共有するのは効果的です。
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