
コロナ禍にもかかわらず、2020年度に最高益を達成したアイリスオーヤマ。「ナノエアーマスク」などのヒット商品を次々に生む源泉には、週1回、1日かけて行われる「社長プレゼン会議」がある。新商品のプレゼンをする現場に実際に立ち合い、どんなやり取りが行われるのかを取材した。
※日経トレンディ2021年5月号の記事を再構成
発売する新商品は年間1000点以上。2万5000点に上る商品の新商品比率は、何と60%超――。手ごろな価格とスピード開発を武器に、2020年12月期決算では、グループ全体で売上高6900億円、経常利益621億円と共に過去最高の数字を記録したのが、アイリスオーヤマだ。
スピード開発できる秘密が、毎週月曜にある「新商品開発会議」だ。朝9時ごろから17時すぎまで、昼休憩を挟んでぶっ通し。社長の大山晃弘氏以下、各部門の責任者が参加する中で、新商品案などを抱えた各事業の担当者が次々に登壇し、プレゼンを繰り返していく。
会議は工場を併設する宮城県の「角田I.T.P.」で行われ、モニターを通して宮城県内の本社や東京本部などもつなぐ。アイリスオーヤマから発売される商品は、すべてこの会議から世に出ている。
1日の会議で議論する案件は50~60件に上り、それぞれの持ち時間は5~10分。1つの商品について、最初の商品コンセプト提案から発売の決裁に至るまで、このプレゼンで議論されるのは基本的に3~4回だ。
僅かな時間で新商品のコンセプトや魅力を伝え切り、社長の決裁を得る。発売を決める社長のハンコもこの場で押される。まさに、新商品をアピールしたい社員と社長との真剣勝負の場だ。

一つの会議に丸1日を費やすのは思い切った時間の使い方。大山社長は、その意図をこう説明する。
「責任者が一堂に会して議論するので、即断即決ができる。長々議論しているのではなく、様々な調整作業を一気に1日で終える場と考えている。開発やマーケティングの現場で働く人から直接プレゼンを受けることで、私の方針を伝えられたり、私が現実を直接聞けたりするなど、相互理解が深まるというメリットもある」
スピード感を持ってプロジェクトを進められるシステムが確立されていることで、コロナ禍を受けて急遽マスク工場の新設に踏み切れたり、テレワークに必要なグッズをいち早く発売したりといった戦略も可能になった。
プレゼン会議に潜入。「緊張で汗びっしょり」の努力
今回、21年5月下旬に発売予定の「充電式サイクロンスティッククリーナー マルチツールセット SCD-L1P-B」のプレゼンへの潜入取材がかなった。

潜入したのは、それまで市場分析を踏まえた構想や原価の議論など2回のプレゼンを経て、最初の構想から4~5カ月が過ぎた最終段階だった。
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