
DX(デジタルトランスフォーメーション)人材を育成するため、企業はどうすべきか。本特集では、小売りや流通、消費財などの主に顧客を起点にしてDXを推進するケースを「マーケティングDX」と呼び、先進企業がどうやってマーケDXを社員に学ばせているかを取材した。各社ともデジタル技術のスキルだけでなく、ビジネスデザインのスキルも重視していることが分かった。他の業種にも参考になるはずだ。
企業戦略でDX(デジタルトランスフォーメーション)が重視されるなか、これを推進するための人材、いわゆる「DX人材」の育成が急務になっている。
例えば三越伊勢丹は、百貨店の店頭のような接客をオンラインでも受けられるようにするなど、店頭とオンラインをつなぐ「シームレス」をキーワードにサービスのデジタル化を推進。2020年4月にはDX推進の中核となる「デジタル推進グループ」を発足させ、社内体制をデジタルシフトに変えた。同グループは現在「オンラインクリエーショングループ」となり、現場を巻き込みながらさまざまなサービスを開発している。「DXの推進にはテクノロジーの知識だけでなく、現場スタッフの知見が欠かせない」(三越伊勢丹ホールディングス執行役員情報システム統括部長の三部智英氏)
ヤマトグループは21年4月から「Yamato Digital Academy」を本格的にスタートさせた。経営層や各部門のリーダー、社員など階層ごとにデジタル化に向けた教育プログラムを用意し、全社を挙げてDX人材の育成に取り組んでいる。「経営層も含むグループ全社員のデジタルリテラシーを向上させる」(ヤマト運輸執行役員デジタル機能本部デジタルデータ戦略担当の中林紀彦氏)
両社のアプローチは異なるが、目指す方向は同じ。デジタル時代のなか、さらなる成長につなげることにある。そのためには、顧客の状況を素早くつかみ、新たなサービスの開発に結び付けたり、社内の業務を見直したりすることが求められる。流通と運輸といった業種は違うが、顧客を起点にする姿勢は同じだろう。このような顧客を軸にDXを推進するケースを、本特集では「マーケティングDX」と呼ぶ。マーケティングDXの成功は、マーケティングDX人材(以下、DX人材)の存在にかかっていると言っても過言ではない。
DXを顧客への提供価値を見つめ直すきっかけと捉える
だが、DXの重要性は認識していても、どんな人材をどう育成すればいいか。多くの企業は悩んできたはずだ。「現場の社員も最先端のAI(人工知能)知識を身に付けないといけないのだろうか」「データ分析が重要になるから、データサイエンティストのスキルが必要になるのだろうか」といった声が出てくるかもしれない。実際に「DX人材育成プログラム」などとネットで検索すると、デジタル技術に関する教育コースばかりが出てくるはずだ。今回の取材を重ねるなか、多くのDX担当者たちが直面した壁が「いったい何を、どこまで学ぶべきか」という点だった。こうした悩みが出てきたのは、各社におけるDXの定義が明確ではなかったからだろう。
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