事業領域を急拡大しているアウトドアメーカー「スノーピーク」の山井梨沙社長は、自社の飛躍の理由をどう捉えているのか。創業者の祖父、オートキャンプブームを牽引した父に続く3代目の思いと抱負を2022年6月末に発売した『経営は、焚き火のように Snow Peak 飛躍の源泉』(日経BP)の「はじめに」から、その一部を公開する。

 スノーピークの歩みは、1958年に先代(祖父)が立ち上げた金物問屋からはじまります。地元新潟県と群馬県の境にある谷川岳を愛した登山家でもあった先代は、当時売られていた道具に満足できず「自分の欲しいものをつくる」という志でオリジナルの登山用品を開発しました。燕三条の優れた職人技術を生かした、使いやすくてクオリティの高い製品は、山好きの間で注目を集めたそうです。その後、63年にスノーピークの名称を商標登録。76年には自社工場を設立し、ブランドの基盤を固めていきました。

 キャンプ用品をつくりはじめたのは、86年に会長(父)が入社して、社内ベンチャーとしてオートキャンプ事業を立ち上げてからです。この事業は80年代のオートキャンプブームを牽引し、それまでなかったおしゃれでラグジュアリーなキャンプスタイルを確立しました。今ではキャンプに欠かせないギアのひとつ「焚火台」を世に送り出したのは96年です。

 30年以上にわたってキャンプ用品をつくってきているので「スノーピーク=キャンプ用品メーカー」と思っている方が多いかもしれません。もちろん、事業別の売り上げを見ると、キャンプ用品は全体の約80%を占めています。ですが、2014年に私が立ち上げたアパレルをはじめ、キャンピングオフィスや地方創生、レストランから住宅まで、新規事業が次々と立ち上がってきているのが、いまのスノーピークです。

山井 梨沙(やまい・りさ)氏
スノーピーク代表取締役 社長執行役員
1987年、新潟県生まれ。創立者の祖父・幸雄、現代表取締役会長の父・太から代々続くスノーピークの3代目。幼いころからキャンプや釣りなどのアウトドアに触れて育つ。文化ファッション大学院大学卒業後、ドメスティックブランドに勤務。2012年、スノーピーク入社。14年にアパレル事業を立ち上げ、スノーピークが培ってきた「ないものはつくる」というDNAを受け継いだものづくりを次世代のフィルターを通して発信。企画開発本部長を経て19年に代表取締役副社長、20年3月より現職

 現在、スノーピークが属するアウトドア業界では、「密を避けるレジャー」として世界的に高い需要が継続しています。スノーピークは2021年度の売り上げが約257億円を計上し、前年比53%増となりました。

 キャンプブームの影響による卸売先での売り場拡充や取扱商品の拡大によって、販売が伸びたことが要因のひとつです。海外拠点でも、ブランドの認知が進み、すべての地域で増収を達成しました。ここ2年の間に新規のユーザー数も急激に増え、ポイントカードの会員数は、70万人を超えました。05年以降、スノーピークは16期連続で増収を達成しています。

 と、駆け足でスノーピークの歴史と現状を書いてきましたが、これだけ読むと、創業以来、スノーピークは順調に推移しているように思うかもしれません。ですが、90年代前半にキャンプブームが終焉を迎えたときには、25億円あった売り上げが15億円まで下落したことがありました。そんな危機的な状況で学んだのが「ユーザー視点」でした。ユーザーに寄り添うのはもちろん、ユーザーになりきることの大切さに気がついたのです。

 スノーピークという会社は社員全員がキャンパーであるということが最大の特徴です。社員数が600人を超えた現在でも、採用基準ではキャンプが好きかどうかを重視しています。どんなに良い人材であっても、キャンプの楽しさを知らなければ採用しません。職種によっては、この条件があることでなかなか人が見つからないということもありますが、そこは徹底しています。

 なぜここまでキャンパーであることにこだわるかといえば、ユーザー視点を持てるかどうかを重視しているからです。キャンパーでないと、スノーピークらしい価値に共感できないでしょうし、結果的に、会社が求めている仕事と合わずに辞めてしまうこともあるからです。これはほかのキャンプ用品メーカーと大きく違うところだと思います。

 私が12年にスノーピークに入社して一番驚いたのが、性格の悪い人が一人もいないというところ。本気で人のため、自然のために仕事をしている人ばかりです。アウトドアパーソンが持っている共通項なのかもしれませんが、遊びと仕事をいい意味で区別を付けない人たちの集まり。仕事も本気でやりますし、その反面、遊びも本気でやっているキャンパーの集まりだからこそ、新しいアイデアも生まれやすいのかもしれません。

 先代が登山用品をつくり、会長がキャンプ用品をつくってきたように、スノーピークはこの先も「何かをやらかし続ける会社でありたい」と思っています。そのためにも、社員には自分がやりたいことがあったらどんどんチャレンジにして欲しいですし、私の想像を大きく超えるような提案も大歓迎です。キャンパーが自分の寝床をつくって自分の居場所をつくるように、スノーピークパーソンは仕事においても、自分の仕事をクリエイトし、自分の価値観をクリエイトして欲しい。社長として、この点はもっとブラッシュアップしていきたいと思っています。

 私たちはキャンプの力を誰よりも信じています。でも、日本のキャンプ人口はおよそ7%しかいません。より多くの人にキャンプの価値観を広めるために、衣・食・住・働・遊・学にちなんだ体験価値を創り、自然指向のライフバリューを提供していくのがこれからのスノーピークの使命だと考えています。

 本書は、現在のスノーピークを紹介する目的でつくりました。1章では、デザイン経営について、2章では業績好調の理由、3章ではキャンプで育った経営者について、4章では、事業を支える社員たちを紹介します。スノーピークの飛躍の源泉は何なのか。スノーピークはこの先どんな未来を描いていくのか。ご理解いただくきっかけになれば幸いです。

16期連続で増収のアウトドアメーカー「スノーピーク」。キャンプで育ち、服飾デザイナーから3代目社長に就任した山井梨沙氏が、事業領域を「衣食住働遊学」へと急拡大しています。

スノーピークは今注目されるビジョン経営、デザイン経営を1988年から続けるお手本のような企業でもあります。事業構想や人材育成などスノーピークの強さの理由を、社長自らが語り尽くします。

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『経営は、焚き火のように Snow Peak 飛躍の源泉』(日経BP)

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