「ものづくり」から「ことづくり」まで、自然体験のきっかけを様々な切り口で提案し続けるスノーピーク。約20年前に入社後、スノーピークの新製品・新サービスの創出をけん引してきた未来開発本部長の吉野真紀夫氏に、「新たな価値」を生み出すスノーピークのものづくりの神髄を聞いた。
長く使ってもらえる商品を作る秘訣
キャンプ用品はもちろん、家具「TUGUCA(ツグカ)」から体験型ツアーまで、事業領域の拡大に合わせ、新たな商品やサービスを続々投入しているスノーピーク。その企画・実行部隊として2020年、山井梨沙社長の就任時に新設されたのが、未来開発本部だ。
「ギアやアパレルといったモノの開発だけでなく、グランピング施設での体験コンテンツや地域体験型ツアーといったコトの開発も手掛けてきました。スノーピークのデザインやクリエイティブを担う人材が集結している組織です」と、未来開発本部長の吉野真紀夫氏は説明する。自身も入社から12年までの10年間、ギア開発を担当した経験を持つ。
「スノーピークは10年前、20年前に作った商品を今でも売っています。数十年来の商品が新製品と組み合わされることもあります。これこそが、スノーピークのものづくりのDNAの1つだと考えています」と吉野氏。
取材をしたのは本社屋にあるスノーピークミュージアム内。創業時からこれまで開発してきたギアがずらりと並んでおり、若い開発者たちはここに来て、過去の商品の組み立てや構造を参考にすることもあるという。先人の知恵が、すぐに手の届くところに存在し、現在も生きているというわけだ。
「スノーピークに受け継がれているのは、自分が欲しいものを作る、という精神です。ですから企画担当者の情熱はすごい。こうした熱い思いは、社内はもちろん、取引先やお客さんにも伝わります。数値化できない部分ですが、何度も仮説検証して完成した商品は自信を持って薦められますし、なぜ必要なのかと本質的に考え抜いたからこそ、長く使われて廃れないのだと思います」(吉野氏)
毎年、ギアの新製品として追加提案されるのは約30品目。トレンドに乗って「他社が作っているから」「売れているから」と会議室で提案される商品はない。
「基本的に、他社の製品とか流行はあまり意識していません。常に自分がどういう商品が欲しいかを最優先して開発しています。最終的に、価格を設定する段階で競合のチェックはしますが、それが最初ではありません」(吉野氏)
キャンプの「間取り」を変える新製品
そんなスノーピークのものづくりを象徴する商品がある。22年4月に発売した、ブランド史上最大のシェルターとなる「ゼッカ」だ。
「眺望絶佳という四字熟語の一部から名付けました。その名の通り、景色を楽しむことがコンセプトです」と吉野氏。ゼッカは、見たこともないフレーム形状だ。スノーピークが独自の仮説検証で、自分たちが作りたいものを作るという精神をあたかも体現した商品だ。
「ファミリー向けのテントはこのところ、2ルーム(テント)が主流です。確かに広くて使いやすいのですが、リビング部分はどうしても閉鎖的で、せっかく外にいても景色を堪能できません。そこで、間取りを変えました」(吉野氏)
通常、2ルームテントの間取りは寝室とリビングが入り口に対して、前後で分割されているケースが多い。しかしゼッカでは、寝室の位置を両脇の斜め後方にずらし、リビング部分を大きく確保。正面のパネル(大きな扉)はフルクローズ(すべて閉める)、メッシュ(網目状のものにする)と天候に合わせてアレンジ可能で、天窓もある。従来の2ルームテントではかなわなかった、家族皆が横並びで室内にいながらも壮大な景色を楽しむことができる。
「表面的なデザインを変えるのではなく、キャンプの概念を変えた商品です。新しいキャンプスタイルのきっかけになると思っています」(吉野氏)
価格は28万8000円(税込み)と高額だが、展示会などで顧客からの評判は良い。ただ「こういった新しいコンセプトの商品はすぐには浸透しにくい」と吉野氏。実際、今では同社の定番となっている商品の多くも、発売から2~3年は売れない時期もあったという。
「もちろん会社としては、売り上げの初速は気になるところではあります。ですが、こういった提案型の商品は、一部のコアなスノーピークファンの方がまず使い始めてくれて、そこからほかのユーザーに浸透していく。過去にこうした経験を何度もしてきているからこそ、じっくりと育てていくという気概があるんです」(吉野氏)
今でこそ、キャンプでたき火をする際はたき火台を使うのが当たり前となったが、このスタイルを築き上げたのもスノーピーク。ギアをきっかけに新しいキャンプ文化をつくる。ゼッカもそんな未来を予感させるアイテムだ。
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