キャンプ用品メーカーとして築き上げた頑強な土台はそのままに、「衣」「食」「住」に「働」「遊」を加えた幅広いカテゴリーでの事業展開が勢いを増しているスノーピーク。各事業は何のために、どんな戦略で推進していくのか──。同社の新ステージ「スノーピーク3.0」をひもとく連載の第1回は、3代目社長山井梨沙氏が未来を語る。
キャンプの力で、人間性の回復をしたい
先代社長の父・山井太(現会長)が築いてきた日本屈指のキャンプメーカーという大きな看板。それを背負いながら、「衣」「食」「住」「働」「遊」と様々なカテゴリーで新規事業を推進している第3世代のスノーピーク。それぞれの事業が垂直展開しているように思われるかもしれないが、すべての根底にあるのは一貫してキャンプだ。
「キャンプが当たり前の家庭に育った私にとって、キャンプはすべての人に体験してもらいたいと思っている素晴らしい行為なんです」と、3代目の山井梨沙社長は言う。
「自然の中でキャンプをしていると、性別も年代も役職も関係なく、本当に一人ひとりの人間同士として付き合える。この人間関係こそが、ライフバリューの向上につながると思っています」
第3世代のスノーピークが描いているのは、アウトドアブランドからライフバリューブランドへの進化だ。そのためには、非キャンパーへのアプローチが欠かせないし、新規事業の展開も必然だという。
「日本のキャンプ人口は微増を続けていて、当社の試算では国民の約7%がキャンパー。この数字は自然との関わりの重要性に気づいている人と気づけていない人の割合ではないかという仮説を持っています。東京でビジネスパーソンに会っても、『なんでわざわざキャンプに行くんですか』と聞いてくる人もたくさんいらっしゃるんです。この文明社会で自然から遠ざかっていて、そのことに気づいてすらいない人は多いのだと感じました。スノーピークがこれからできることは、まだ自然との関わりを持てていない人たちに、そのきっかけをつくり続けることだと思っています」
山井社長が特に世の中に伝えたいというのが、「豊かに生きることの大切さ」。それを実現するためには、自然の中でのキャンプ体験が近道だという。
「文明社会は発展しましたが、余白を許さない社会構造や企業文化もできてしまったと思います。ITやデバイスが進歩することによって、何でも最短で効率的に目的を達成しなきゃいけない風潮がありますよね? でも、生活に余白があれば、主体的に行動したり、自分で考えたりする余裕が生まれます。それこそ人間が活動する本来の意義だと思うんです。ある意味、キャンプや自然の中での生活って余白だらけ(笑)。人間性を回復するにはぴったりの行為なんです」
キャンプの価値に早くから気づき、その魅力を様々な事業へと成長させてきたスノーピーク3代目だけに、この言葉には説得力がある。では、具体的にこれからのスノーピークはどのように進化していくのだろうか?
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