「まだ異性と付き合ったことのない、初恋に恋い焦がれている人」を思い浮かべてみてほしい。昼夜問わず相手のことを考えに考え、好きな食べ物や趣味を徹底的に調べ、失敗のないように入念に準備し、盛りだくさんの計画とプレゼントを持って告白という戦いに臨んでいく。だが、相手は「狩る対象」でしかなく、相手不在の計画しか立てられない故に失敗する――。そんな姿が、日本企業と顧客の関係と重なるのは私だけではないだろう。それは相手を思ってはいても、あくまで自己満足。これこそが、日本企業が掲げる「顧客至上主義」と通じるのである。

(画像/Shutterstock)
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なぜ今さら「顧客」がキーワードになるのか

 最近、「顧客」への注目度が上がっている。例えば2020年末に刊行されたボストンコンサルティンググループによる「論点2021」でも、より包括的な顧客体験の提供が重要な変革テーマとして挙げられている。グローバルブランドを率いるトップの声からも、延べ100人を超える日本のCEOやCMOと私が20年に交わした議論の中からも、コロナ禍の混乱から浮き彫りになった今後の重要経営テーマの一つに、「顧客を経営の意思決定にどれだけ近づけられるか」が浮かび上がってきている。

 「日本企業ほど顧客を“大切”にしている企業は世界を見渡してもあまりない」と言っても過言ではないのに、なぜ海外の企業のみならず日本の企業トップからも「顧客との関係を見直す必要性」が上がってくるのだろうか。それは、多くのトップは「顧客至上主義」と「顧客中心主義」の間にある“溝”の重大さを直感的に感じていることに由来していると考えられる。

顧客中心主義をひもとく3つの問い(1)今どのステージにいるか

 まずは、この顧客中心主義の必要性への直感を、構造化してひもとくことから始めたいと思う。ここからは、あえて顧客中心主義を「カスタマーセントリシティー(以下、CC)」と言い換えて話を進めたい。というのも、顧客○○主義はあまりにもあふれかえっており、日本語にすると固定観念に引っ張られてしまうリスクが高い。今回は横文字にお付き合いいただきたい。

 まずは、CCには5つのステージがある(図1参照)。

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