レベルファイブ(福岡市)が2021年11月11日に発売した新作ゲームタイトル『メガトン級ムサシ』。先行するアニメと合わせ、ファン開拓を狙う。ターゲットは若者に加えて、昔のロボットものにハマったより上の世代。子供には新鮮で、親世代には懐かしい世界観を目指した。同社の日野晃博社長に話を聞いた。

レベルファイブの日野晃博社長
レベルファイブの日野晃博社長

制作はより自分に合ったスピード感で

――この連載でのインタビューは2019年以来、2年ぶりとなります。レベルファイブにとってどのような2年間でしたか?

日野晃博氏(以下、日野) 会社の理念という点では、あまり変わりなかったと思います。もちろんビジネスに対する新型コロナウイルス感染症の影響はありました。イベントなど、従来だったらもっと大きく展開できていたものができなくなるなどの変化はたくさんありました。

――コロナ禍でのリモートワークの影響は?

日野 リモートワークに向いている部署と難しい部署があることが見えてきました。例えば、機材や通信環境、セキュリティーの面から、開発部門はリモートワーク推進期間中も出社せざるを得ないところがありました。一方、デザイナーからは「リモートワークのほうが効率がいい」という声も多く、緊急事態宣言が解除された今もリモートワークを続けている社員もいます。会社としては、社員の状況に合わせて柔軟に対応しています。そういう意味では、緊急事態宣言中に、今までなかった制作体制をいろいろ試せたのはいい経験になりました。

 ただ、全体で見ると効率はやはり悪くなっています。例えばアニメの音声収録では、感染予防を考えて、スタジオに入れる人数を最大4人と制限しています。メンバーを入れ替えながら回数を分けてレコーディングする必要があるので、以前に比べれば、どうしても時間がかかっています。でも、スタッフの安全を守るためには必要な処置ですからね。外部の方々を守るためという目的もあるので、この体制は緊急事態宣言解除後も続けていきます。

――コロナ禍の変化の中で、何かプラス面はありましたか?

日野 会食などをやりづらくなった分、ものづくりに対して考える時間が取れるようになり、集中できたことも確かです。行動が制限されて何かができなくなった代わりに、今までできていなかったことに時間を割けるようになったのは大きいですね。

 今までは5作品を同時に企画して制作を進めるなど、たくさん来るオーダーに応えるために速度優先みたいなところがありました。いろんなことをたくさんの会議を重ねて勢いで決めていくのはある意味、商業生産的な作りとも言えますし、これはこれでメリットもあります。

 でも、今はコロナ禍の影響で、そうしたやり方ができなくなり、結果的に時間をかけてしっかりと考えながらものづくりができるようになった。僕にとってはこのぐらいのスピード感のほうがいいものを作れるかもしれないと感じています。

 コロナ禍で行動が制限されたことも手伝って、やっと自分ができることをしっかりやっていけるペースをつくれたような状況です。今ならいろいろ考えて、ダメと思ったらまたやり直すことができます。

 例えば以前はアニメを作る場合は粗く編集された状態、声が入った状態、最終的に完成した状態を見るくらいでしたけど、現在放送中の新作アニメ『メガトン級ムサシ』では1話が完成するまでに10回以上見ています。今までだったら諦めていたセリフの間や音楽のハマり具合なんかも納得がいくまで何度でもやり直すなど、作り方の丁寧さがだいぶ変わりましたね。

 ムサシをはじめとしたロボットのカスタマイズの幅の広さなど、ゲーム『メガトン級ムサシ』のクオリティーをテレビシリーズで再現するのはかなり難しいんです。アニメとフルCGを混在させるためにすごく手間もかかりますし、普通のアニメではしなくてもいいような苦労もしています。『メガトン級ムサシ』はゲームに関してはかなり満足いくものになりましたが、アニメについても多くの人たちの手間がかかったぜいたくな作品に仕上がっています。それもある意味、コロナ禍がもたらしたプラス面と言えるかもしれません。

新作はかつてのロボットアニメファンも狙う

――お話に出たアニメ『メガトン級ムサシ』ですが、主人公たちは高校生という設定です。従来のレベルファイブ作品よりも年齢が少し上がっていますが、そこにはターゲットの年齢層を上げたいという意向があるのでしょうか?

日野 これまで子供たちがたくさん遊んでくれるコンテンツを作ってきましたが、僕はある時点からコンテンツを「子供向け」にはしていません。お父さんもお母さんも見ていて楽しいと思えるような「ファミリー向け」に作っているんです。親の世代は昔のコンテンツを思い出して楽しめるし、子供たちは今の視点で楽しめる。親子で会話を交わしながら楽しめるような作りにしています。

テレビアニメ『メガトン級ムサシ』©LEVEL-5/ムサシプロジェクト
テレビアニメ『メガトン級ムサシ』©LEVEL-5/ムサシプロジェクト

 『メガトン級ムサシ』は、今の高校生をはじめとした若者と、昔のロボットものにハマった、年齢が比較的高い世代がターゲットです。自分がロボットアニメでカッコいいと思った要素を入れているので、上の世代の少年心もくすぐるようなものになっていると思います。

――どんな作品がお好きだったんですか?

日野 幼少期に見た『マジンガーZ』からはじまって、『超電磁ロボ コン・バトラーV』、それと『機動戦士ガンダム』より前の富野由悠季作品は熱いと思っていましたね。あとはロボットものではないんですが、『宇宙戦艦ヤマト』にもハマりました。

 『宇宙戦艦ヤマト』には『メガトン級ムサシ』というタイトルをはじめ、相当影響を受けています。例えば、機械の計器が丸くてアナログチックであるところとか。遠い未来のことを描いたSFだから、古いも新しいもないわけですよね。ただ当時のSF感がどうだったかというだけの話で。おじさんたちが見れば「いや、これだよ、これ!」という感じになるのではないかと思いますし、10代の子たちは新鮮な気持ちで見られるかもしれない。どちらにもアピールできる要素を秘めていると思うんですよね。

――21年11月11日発売の『メガトン級ムサシ』はどんなゲームになるのでしょうか。

日野 僕は「ハックアンドスラッシュ」(ハクスラ、レアアイテムの収集などを目的に、現れる敵と戦い、倒すタイプのゲーム)と呼ばれるジャンルが好きなのですが、それを踏襲したものになっています。ひたすら敵との戦闘を繰り返して、そこで手に入った素材からパーツを作って自分のロボットを強化していったり、協力プレーで敵を倒したり。

ゲーム『メガトン級ムサシ』©2021 LEVEL-5 Inc.
ゲーム『メガトン級ムサシ』©2021 LEVEL-5 Inc.

――「ディアブロ」シリーズ、「モンスターハンター」シリーズみたいなタイプですね。

日野 そうですね。まだ確定ではないのですが、22年に放映されるアニメ第2シーズンでは、ストーリーの方向性が少し変わります。ゲームではその変化に合わせた要素をDLC(ダウンロードコンテンツ)として追加する予定です。

「マンガ5」はゲーム原作を作るルート

――アニメ『メガトン級ムサシ』のスタッフロールに「週刊少年ジャンプ」の名前がありますが、コミカライズも進んでいるんですか?

日野 レベルファイブが運営する「マンガ5」というサイトでは、すでにギャグ漫画(『空想劇場 ぷちっと級ムサシ』)が公開されていますが、それとは別に、週刊少年ジャンプとの企画も進んでいます。

 今はよりよい作品にすべく、いくつもの国民的ヒット作品を生み出してきた週刊少年ジャンプが持つ漫画論と、『メガトン級ムサシ』の魅力であるロボットのカッコよさを見せたいレベルファイブの漫画論をぶつけ合っている状態です。今後、お互いが納得した漫画を出せればいいと思っています。

――その「マンガ5」ですが、スタートして1年がたちました。

日野 規模が小さくてまだまだこれからの状態ですが、当社内のスタッフは育ってきている実感があります。作家さんとコミュニケーションを取りつつ作品をまとめ上げるスキルを身に付けてきているので、これからさらにクオリティーが高くなっていくと思っています。

レベルファイブが運営する「マンガ5」©LEVEL-5 Inc.
レベルファイブが運営する「マンガ5」©LEVEL-5 Inc.

 「マンガ5」はゲームの原作を作るためのルートの1つと考えています。例えば漫画単体で何かちょっとした現象が起きるようなものが生まれたら、それを起点にアニメ化など別メディアへ展開していく可能性もあります。

 実はマンガ5の編集については監修としてKADOKAWAデジタルエンタテインメント担当シニアアドバイザーの浜村弘一氏に入っていただいているんです。その効用がプロジェクト全体に及んでくればまた少し状況が変わるかもしれないですね。

スマホでもクオリティー高いゲームが作れる

――ゲーム制作に関してコロナ禍はプラスの面もあったということですが、ビジネス面への影響はどうでしたか?

日野 この2年間を見ると、スマートフォン向けRPGの『二ノ国:Cross Worlds』などが好調で、会社として利益はしっかり出しています。ただ、僕らとしてはコンシューマーゲーム(家庭用ゲーム)をヒットさせたいという思いももちろんありますので、どちらでもヒットを打ち出せるようになっていきたいですね。

――コンシューマーゲームをメインにするという方針は今後も変えないのですか?

日野 そんなことはありません。これまでも、コンシューマーとスマホ、両方のコンテンツに力を入れてきました。僕は自分がハマれないゲームは作れないんですが、近年はスマホゲームでもどっぷりハマるようなものがたくさんあって、スマホゲームでも納得のいくクオリティーが出せる時代になったなと感じているところです。

『二ノ国:Cross Worlds』©LEVEL-5 Inc. ©Netmarble Corp. & Netmarble Neo Inc. All Rights Reserved.
『二ノ国:Cross Worlds』©LEVEL-5 Inc. ©Netmarble Corp. & Netmarble Neo Inc. All Rights Reserved.

――『二ノ国:Cross Worlds』はネットマーブルとタッグを組んだゲームですが、どのような経緯で制作されることになったのでしょう?

日野 このゲームを制作しているチームの1つ前の作品がとても気に入っていたんです。「このチームが作ってくれるなら、『二ノ国』のスマホゲームも面白くなるだろう」と思ったのが、そもそもの発端です。自分が作った世界観を利用して、自分の好きなゲームシステムが入っているので、僕自身もけっこうハマりました。

 このゲームの制作に当たっては、僕らは基本的に音楽やグラフィックデータなどを提供して監修しているだけなので、またゼロからのオリジナルも作ってみたいと思うくらいです。

 今までのスマホゲームって、ガチャの高揚感というか、ギャンブル性が先に立っていて、ゲーム性の追求がいまひとつなものが多いという印象が僕の中にありました。でも最近は、ゲームとして攻略の要素や遊び応えなど、ゲーム本来の楽しさを追求したコンテンツが増えています。課金を誘う構造だけでなく、ゲームとしてもしっかり遊べるものになって、コンシューマーとの差がなくなってきている実感があるからこそ、これからのスマホタイトルの運営・開発は楽しみですね。

――これからのゲーム産業をどう見ていますか?

日野 こういう時期だからこそ予想以上のヒットをしている作品が生まれたりもしていて、インドアで遊べるエンターテインメントとして、ゲームはさらに地位を上げていく気はしています。図らずも1つの大きなチャンスが訪れているとも言えるわけで、僕らとしてもその波になんとか乗り遅れないように作品を作っていきたいと思っています。

(写真提供/レベルファイブ)

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