2021年6月に大型タイトル『ファンタシースターオンライン2(PSO2)ニュージェネシス』、格闘ゲーム『Virtua Fighter esports』などのサービスを相次いで開始したセガ(東京・品川)。世界展開を強化している同社の戦略を代表取締役社長COO(最高執行責任者)の杉野行雄氏に聞いた。
――セガ・インタラクティブとセガゲームスが合併して1年半が経過しました。
杉野行雄氏(以下、杉野) 以前の体制からお話ししますと、今から6年ほど前、セガサミーグループの再編の一環として、事業ごとにセガ・インタラクティブ、セガ・ライブクリエイション、セガゲームスの3つに分社化しました。事業ごとのより小さな組織とすることで、遠心力の効いた、スピーディーな経営を実現し、それぞれの会社が自らの領域に対して責任をもって事業に当たれる体制を構築することを目的としていました。その結果、より特化したポジショニングを意識して次の一手を打ち出せるようになり、一定の成果を得ることができたわけです。
そして現在のゲーム業界全体を見回してみると、その当時から状況はかなり変わっています。当初は数千万円程度だったスマホアプリの開発費も十数億円規模になり、コンシューマー機のタイトルは数十億円がかかるようになっています。また世界のゲーム市場は力強く成長し続け、早晩20兆円規模に届くぐらいまできています。その中で戦っていくためには各IP(知的財産)をグローバルに展開できる体制と投資が必要と判断し、合併することでさらに大きな力を生み出して事業展開していくことにしました。
――合併してからはちょうどコロナ禍となり、巣ごもり需要でゲーム業界は上向きになっています。セガのゲーム事業をどう評価していますか。
杉野 コロナ禍の巣ごもり需要で、多くの人にゲームを遊んでいただきました。ユーザーのゲームへの接し方も変わってきています。一度ゲームから離れてしまったけれども、家族とゲーム機を買って一緒に楽しむ、あるいはそこまで至っていなくても、スマホやタブレットでカジュアルゲームやレトロゲームをプレーするなど、ゲームに帰ってきた方も増えています。自分でプレーするだけでなく、配信される動画を見て楽しむ人も増えてきました。
そうした中、セガは昨年60周年を迎え、保有するIPをさらに生かすような施策も打ち出しています。例えばソニック・ザ・ヘッジホッグシリーズは、過去作が世界中で販売されており、2020年度(21年3月期)の売り上げを伸ばしました。映画『ソニック・ザ・ムービー』の欧米での大ヒットも欧米での売り上げを押し上げる大きな要因となりました。
またパソコン(PC)版への初移植となる『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』は100万本を売り上げました。もともとペルソナ自体が海外での人気も高く、今回PC版となったことで、さらにプレーしやすい環境をご提供できたというのもあります。
コロナ禍の影響で言えば、最も顕著だったのが欧州です。ロックダウンなど厳しい環境があり、日本以上に巣ごもりでゲームをする人が増えた印象です。20年度の家庭用ゲームの売り上げとしては海外が80%を超えたと共に、ダウンロード販売の比率が飛躍的に上がりました。
――コロナ禍は開発やマーケティングにも影響をもたらしたと思いますが、いかがでしょうか。
杉野 すでに開発が軌道に乗り量産態勢へと入ったタイトルにはそれほど支障が出ませんでしたが、企画段階や初期の開発段階のものについては影響がありました。オンライン会議ではどうしても対面の会議のように、雑談の中からアイデアが出るようなセレンディピティー(偶然の出合い)が生まれにくかったり、コンセプトをチームで共有するのが難しかったります。コロナ禍の情勢にもよりますが、今後の働き方としてもオンラインとオフラインのハイブリッドでバランスよく進めていくことになるでしょう。
マーケティングに関しては、オフラインのイベントができないことが大きな痛手です。平常時の環境に戻れば体験会なども開催していきたいですが、以前とまったく同じ環境になるのは難しいでしょう。コロナ禍の中でオンラインやデジタルで情報を得る習慣ができた人もいると思いますし、こちらもハイブリッドで展開していくと思います。
今後は、ユーザーとのコミュニケーションが重要になるとみています。弊社もコミュニケーションマネージャーなどの役職を増やし、タイトルごとに世界へ訴求するようにしていきます。ユーザーとコミュニケーションを取り、一緒にゲームを作っていく感覚ですね。コアコンセプト、もともと作りたかったものは貫きつつ、さじ加減を考えながら意見を取り入れていきます。
――セガサミーホールディングスは、アミューズメント施設事業をGENDA(ジェンダ、東京・大田)に売却しました。その影響はありますか。
杉野 アミューズメント施設事業は14.9%を残して、株式を売却しました。セガの看板を残しつつ、成長に尽力してくれるパートナーが見つかり、良い関係を築くことができています。アーケードマシンの開発はこれまでと同様に行っていきます。
コロナ禍ではアーケード業界は厳しいという見方が一般的ですが、実はUFOキャッチャーなどのプライズビジネスはかなり好調でした。市場規模は今や3000億円に届こうとしており、日本の映画産業を超えています。密にならず長居しないので、コロナ禍でも十分に稼働できています。今、街中にカプセルトイのコーナーやプライズ専門店も増えていますね。
長時間遊ぶメダルゲームやビデオゲームなどは厳しい状況でしたが、トータルで見ると、コロナ禍で打撃を受けた他の業種に比べると回復が早い方だと思います。
eスポーツは興行ではなくマーケ視点で
――『Virtua Fighter esports』が始動し、『ぷよぷよeスポーツ』に加えて、eスポーツタイトルが増えました。今後のeスポーツ事業の方針は。
杉野 どちらも弊社のeスポーツ推進室が中心に力を入れていきますが、経営的視点から冷静に見ると、興行としてはまだまだ成り立たない部分があると考えています。
『Virtua Fighter esports』は、セガ60周年記念の一環としてリリースしたものですが、多くのプレーヤーに楽しんでもらうことを考え、PlayStationのサブスクリプションサービス「PlayStation Plus」での期間限定フリープレー及び「PlayStation Now」の対象タイトルとしてリリースしました。『バーチャファイター』はもともと日本で人気が高いタイトルですが、今回は特に北米・欧州でのダウンロード数が非常に多く驚いています。
『ぷよぷよ』も日本での人気が高く、子供からお年寄りまで楽しんでいただいています。最近では、プログラムを学習できる教材として教育にも使われています。3世代で遊べるゲームとして、その世界を広げる1つの取り組みとしてeスポーツを位置づけています。
eスポーツ自体は数千円のチケットを払って観戦してもらう興行というよりは、現状はマーケティングの要素が強い取り組みと考えています。例えばスポーツとしてのサッカーなどは、世界中でプレーをして楽しんでいる人、そしてプレーを積極的にしなくなってもルールを知っていて楽しむ人が多いことから世界の各地でリーグができるわけです。まずはプレーできる環境を広げ、ゲームを面白いと思ってもらえることが大切だと考えています。50万人ほどのコアプレーヤーがいれば、興行として意識することができるかもしれないですね。
――今年度リリース予定で期待しているタイトルはありますか。
杉野 コロナ禍の影響で昨年リリースする予定だったタイトルがずれ込み、今年度はリリースラッシュとなっています。その中でも注目しているのが、21年6月にサービスを開始した『PSO2 ニュージェネシス』ですね。グローバルでも良い滑り出しとなっています。
あとは21年9月9日発売の『ソニックカラーズ アルティメット』。そして「龍が如くスタジオ」が手掛ける21年9月24日発売の『LOST JUDGMENT:裁かれざる記憶』です。PlayStation、Xboxといった複数のプラットフォームかつ多言語で全世界同時発売するということは簡単そうに思えるかもしれませんが、これができているタイトルはそう多くありません。そういった対応が少しずつ実を結んできており、こうした日本を舞台としたゲームも世界でファンを着実に増やしています。
またアトラスブランドとしても、多くの方に支持をいただいている人気シリーズ『真・女神転生V』を21年11月11日に発売します。
――最後に「東京ゲームショウ2021」への意気込みをお聞かせください。
杉野 私個人は、これまでの東京ゲームショウをどちらかと言うとお客さんの立場で見てきました。今年からCESA(コンピュータエンターテインメント協会)の理事も仰せつかっているので、一気に出展者と開催者の両方の立場となり、意識をきちんと変えて準備を進めていきたいと思います。
20年はオンラインでの開催となり、21年も基本的にオンラインで開催されます。20年の良かったところと悪かったところをしっかりと整理し、生かしていきます。オンラインの良さは、空間的な制約を受けないところです。その利点を生かすためにもっとグローバルに発信力を高めていかないとなりません。オフラインとのバランス含めゲーム業界各社もまだ試行錯誤しているところだと思います。どんなものが出てくるのか、ぜひ楽しみにしていただきたいですね。
(写真/菊池くらげ、写真提供/セガ)