日本マイクロソフトは近年、ゲーム分野での存在感を再び高めている。2020年11月には、新世代家庭用ゲーム機「Xbox Series X」「同S」を発売。Xbox用のゲームタイトルをモバイル端末やタブレットでプレーできるようにするクラウドゲームサービス「Project xCloud」のプレビュープログラムも日本でスタートさせた。また、「東京ゲームショウ2020 オンライン」(20年9月に開催)に6年ぶりに出展するなど、ゲーム市場へのアプローチも積極性を増している。同社がゲームに懸ける思いや、日本市場にどのように取り組んでいくのかを、日本におけるコンシューマー事業の責任者である竹内洋平氏に聞いた。

日本マイクロソフト執行役員コンシューマー事業本部長の竹内洋平氏
日本マイクロソフト執行役員コンシューマー事業本部長の竹内洋平氏
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――マイクロソフトのビジネスにおいて、ゲームの存在感が高まっています。

竹内洋平氏(以下、竹内氏) マイクロソフトにとってゲームは非常に重要です。2014年にサティア(・ナデラ)がCEO(最高経営責任者)に就任した際、マイクロソフトの注力分野として、「モダンライフ」「モダンワークプレイス」「ビジネスアプリケーション」「インフラストラクチャー」「データ&AI」という5つの分野を掲げました。17年、そこに「ゲーミング」が加わりました。

 それまでゲーム機を中心にゲームをお届けしていましたが、ほかのデバイスを見据えたプラットフォームとしてXboxを展開していくことを旗揚げしたのが17年なんです。マイクロソフトの戦略について社内で話すときも、ゲームは非常に大きなものと捉えています。

――20年は、「東京ゲームショウ」に6年ぶりに出展しました。日本市場に再び力を入れている印象です。

竹内氏 東京ゲームショウ2020 オンラインの開催時期(20年9月23~27日)が、新ゲーム機「Xbox Series X」「同S」の発売直前という良いタイミングだったので、日本のゲーマーに直接熱いメッセージを発信したいという思いで参加しました。日本はゲーム機が成熟した国ですし、多くの開発パートナーがいるので、非常に重要なマーケットと捉えています。

――新ゲーム機の発売に加え、ゲームのサブスクリプションサービス「Xbox Game Pass」(以下、Game Pass)が20年4月に、ストリーミングでゲームがプレーできる「Project xCloud」(以下、xCloud)のプレビュープログラム(テスト運用)が20年11月に日本でも開始されました。これらの手応えはいかがですか?

竹内氏 ゲーム機のうち、Xbox Series Xは4Kの高精細な映像を大画面で最大限楽しんでいただく最高のゲームプラットフォームという位置付け、同Sは幅広くゲームを楽しんでいただくために手に取りやすい価格で用意したものです。ご要望に全てお応えするだけの数を出荷できていないので申し訳ない思いでいっぱいですが、製品の価値をお伝えする中で日本のゲーマーの皆さんが待っていたプラットフォームを提供できているという実感はあります。

2020年11月に発売されたマイクロソフトの家庭用ゲーム機「Xbox」シリーズ。左がハイエンド版の「Xbox Series X」(税別4万9980円)、右が価格を抑えたコンパクト版の「Xbox Series S」(同2万9980円)
2020年11月に発売されたマイクロソフトの家庭用ゲーム機「Xbox」シリーズ。左がハイエンド版の「Xbox Series X」(税別4万9980円)、右が価格を抑えたコンパクト版の「Xbox Series S」(同2万9980円)
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 20年4月から展開しているGame Passについても、高い評価をいただいています。つい最近、米エレクトロニック・アーツ社のゲームがサブスクリプションで楽しめる「EA Play」もサービスの1つに追加されました。Game Passは「ちょっとプレーしてみたかった」というゲームにも気軽にアクセスできるところが魅力。日本でGame Passを開始した頃のデータでは、90%以上の会員がそれまで試さなかったゲームを遊んでいるという結果が出ています。

ゲームのサブスクリプションサービス「Xbox Game Pass」。最上位の「Ultimate」プランは月額1100円(税込み)で、マイクロソフト(Xbox Game Studios)などの100を超えるタイトルや、エレクトロニック・アーツのゲームをプレーできるほか、マルチプレーヤー機能や会員向け特典なども利用できる
ゲームのサブスクリプションサービス「Xbox Game Pass」。最上位の「Ultimate」プランは月額1100円(税込み)で、マイクロソフト(Xbox Game Studios)などの100を超えるタイトルや、エレクトロニック・アーツのゲームをプレーできるほか、マルチプレーヤー機能や会員向け特典なども利用できる
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 Game Passは、われわれのスタジオ「Xbox Game Studios」で作っている最新のゲームを発売日当日から追加料金なしに遊べます。先日、米ベセスダ・ソフトワークスがグループに加わったことで、われわれのゲームスタジオは23に拡充しました。クリエーティブな開発会社の最新ゲームを発売日から提供できるのは、大きなポイントだと思っています。

マイクロソフトは、ゼニマックス・メディアの買収を21年3月に完了。これにより、『エルダー・スクロールズ』や『フォールアウト』など人気タイトルで知られる、傘下のベセスダ・ソフトワークスも、Xbox Game Studiosに加わった
マイクロソフトは、ゼニマックス・メディアの買収を21年3月に完了。これにより、『エルダー・スクロールズ』や『フォールアウト』など人気タイトルで知られる、傘下のベセスダ・ソフトワークスも、Xbox Game Studiosに加わった
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 われわれは全ての人に、どんな場所からも、いろいろなゲームをプレーしていただくことをモットーに、「ゲーミング・フォー・エブリワン」というビジョンを掲げています。このGame Passを通じて、今まで購入に至らなかったタイトルをプレーしていただいているようになったことは、お客様にゲームの遊びの幅を提供できるようになったということです。このサービスを今後もしっかりとやっていきたいと考えています。

 また、xCloudは現在プレビュープログラムという形で取り組んでいますが、反応が非常にいい。プラットフォームが違うユーザー同士がプレーしたり、家で遊んでいるゲームを通勤などの移動中も継続して遊べたりすることを考えると、Game Passやクラウドゲームはより重要になってくると感じています。

「Project xCloud」は欧米を中心に「Xbox Game Pass Ultimate」会員向けに始まっているクラウド ゲームのサービス。100以上のタイトルをスマートフォンやタブレット端末、PCにストリーミングしてプレーできる。日本では、20年11月からプレビュープログラムを開始(本番運用の開始時期は未定)
「Project xCloud」は欧米を中心に「Xbox Game Pass Ultimate」会員向けに始まっているクラウド ゲームのサービス。100以上のタイトルをスマートフォンやタブレット端末、PCにストリーミングしてプレーできる。日本では、20年11月からプレビュープログラムを開始(本番運用の開始時期は未定)
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ビジネス分野の強みはゲームにも生きる

――日本市場において、今後、Xboxをどのようにプロモーションしていきますか?

竹内氏 ゲーム機の販売台数のシェアだけで成果を測ることが正しいとは考えていませんが、ゲーム機としてのXboxを正統進化させていくことには取り組んでいきます。

 さらに、プレーヤーを中心にゲームを楽しんでいただける環境をつくる中で、いろいろな場所で、さまざまなゲームを、いつでもプレーできるようにすることに注力していきます。Xboxのゲーム機を買わなくても、われわれのゲーム環境に入っていただけるようなサービスを提供し、幅広いお客様にゲームに触れていただきたい。日本でも「ゲーミング・フォー・エブリワン」という発想の下、マーケティング活動を展開していきたいと思っています。

――マイクロソフトはビジネス分野で圧倒的なブランド力がありますが、この強さはゲームにも生きていますか?

竹内氏 ビジネスアプリケーションや、法人向けクラウドサービス「Microsoft Azure」のようなバックエンドのインフラストラクチャーを持っているということは、われわれの強みだと思っています。今後、xCloudなどが普及していくと、サーバーを含めて、どれだけ快適なゲーム環境を準備できるかが重要になります。コンシューマー向けサービスだけでクラウドを提供しようとするとなかなか大変なところ、こうしたインフラをうまく活用する中で安全で安定したゲーム環境を日本のお客様に提供できるのは、マイクロソフトならではだと思います。

――xCloudプレビュープログラムを進める中で、課題として見えてきていることは?

竹内氏 われわれが一番気をつけているのは、開発会社様が意図したゲームの動きが、さまざまなプラットフォーム上で実現できているかということ。ゲームをストリーミングで提供するうえで、ネットワークの帯域は非常に重要です。いろいろなデバイスからゲームをプレーしたときの動きを検証し、安定したゲーム環境を提供できるよう改善を進めています。

 また、電車の中でプレーしたときのタッチUIの体験などもとても重要ですので、総合的に検証しています。日本のお客様はユーザビリティーやゲーム画面の動きなどに、いい意味で厳しい目を持っていますから、そのフィードバックをきちんと反映して、最適な環境でネットワーク上のプレーができるように取り組んでいます。

 もちろんxCloudで遊べるタイトルの拡充にも力を入れています。日本のパートナー様とも、継続的にお話をさせていただいているところです。

――技術が進化し、ゲームの楽しまれ方も変わっています。こうした環境の変化にはどう取り組んでいきますか?

竹内氏 いつでもどこでも誰とでも、ゲームを楽しめる環境を提供するのが我々のわれわれの使命だと思っていますから、いろいろな技術を取り入れながら、それを実現させていきます。

 その1つが、「Xbox アダプティブ コントローラー」です。障害によって通常のコントローラー操作に制限があるゲーマーを補助するために設計しました。

「Xbox アダプティブ コントローラー」は、通常のコントローラー操作に制限があるゲーマーのため、スイッチ、ボタン、マウント、ジョイスティックなどの外部デバイスを接続してカスタマイズできる設計
「Xbox アダプティブ コントローラー」は、通常のコントローラー操作に制限があるゲーマーのため、スイッチ、ボタン、マウント、ジョイスティックなどの外部デバイスを接続してカスタマイズできる設計
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 PC環境でゲームができるようにすることも「誰とでもどんなデバイスでも」という取り組みの1つです。レノボさんをはじめ、多くのPCメーカーがゲーミングPCブランドを持っています。主たるPCメーカーと引き続き連携しながら、PC環境でのクラウド活用なども展開していきます。

 また、(ゲーム機やゲームタイトルを通じて)4KのHDR映像を大画面でプレーできるような環境を提供していくことは、ゲーム機を作っているメーカーの醍醐味だと思っています。Xbox Series Xの4K映像を4K対応スクリーンで見ていただくと、水の表現だったり、水に映っている建物の反射だったりが非常にきれいで没入感がある。そうした映像表現での没入感はゲームにおいて重要なポイントだと考えています。

――eスポーツやゲーム実況など、ゲームの新しい楽しみ方が広がっています。

竹内氏 ゲームプレーを視聴する人は、今、とても増えています。視聴を楽しんでいる人たちは、ゲーマー予備軍だと思っているので、そういうお客さんを増やしていくこともやっていきたい。eスポーツはその最たる例なので、若い世代がゲームを始めてくれるような環境を、しっかりと提供できればと思っています。

――この先、ファーストパーティーとして力を入れていくタイトルを教えてください。

竹内氏 20年に発表した『Halo Infinite』は最高のグラフィックスクオリティーで、マルチプレーヤーで対戦できる、最新テクノロジーの全部載せみたいなタイトルです。発売日は決まっていませんが、なるべく早くお届けできればと、準備を進めています。新たに社内スタジオとして加わったベセスダ・ソフトワークスのタイトルなどは、私個人としてもとても楽しみにしています。

『Halo Infinite』は初代Xboxからの人気シリーズ最新作で、ファーストパーソン・シューティング(FPS)のアクションゲーム。発売が延期され、2021年秋のリリースが予定されている
『Halo Infinite』は初代Xboxからの人気シリーズ最新作で、ファーストパーソン・シューティング(FPS)のアクションゲーム。発売が延期され、2021年秋のリリースが予定されている
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 もう1つ、『Microsoft Flight Simulator』は非常に面白いし、新しい楽しみ方だと思います。『Flight Simulator』は、マイクロソフトのさまざまなシリーズの中で「Word」を押さえて第1位の長寿シリーズ。技術の変化は『Flight Simulator』を見ることで分かるというぐらい、その時々の最新テクノロジーを使ってユーザー体験を提供しているフラッグシップタイトルです。Xbox Series X|S版は夏ごろにリリース予定です。

 幅広いゲームを提供できるのはファーストパーティーの強み。21年も、新しいゲーム体験をさまざまなアプローチから提供していければと考えています。

『Microsoft Flight Simulator』は自分の好きな飛行機を操作し、世界の観光名所などを自由に飛び回ることができるフライトシミュレーター。これまでPC用にリリースされていたが、21年夏にXbox Series X|S版が登場予定
『Microsoft Flight Simulator』は自分の好きな飛行機を操作し、世界の観光名所などを自由に飛び回ることができるフライトシミュレーター。これまでPC用にリリースされていたが、21年夏にXbox Series X|S版が登場予定
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(写真提供/日本マイクロソフト)