ガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下、ガンホー)のNintendo Switch向けゲーム『ニンジャラ』が2021年1月に世界累計600万ダウンロードを記録した。近年、力を入れてきたグローバル戦略が実を結び、20年6月の発売以来、売れ行きは好調で、特に米国で成功を収めているという。同社の森下一喜社長に、20年を振り返ってもらうとともに、今後の展望を聞いた。

ガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下一喜社長
ガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下一喜社長

コロナ禍で見えてきた新たな仕事のあり方

――2020年、新型コロナウイルス感染症の感染拡大は御社の事業にどのような影響がありましたか?

森下一喜社長(以下、森下氏) 「ゲーム業界はコロナ禍でも好調」とよくいわれますが、当社の場合そうでもありませんでした。確かに、コンソールゲーム(家庭用ゲーム)は巣ごもり需要で好影響を受けたかもしれません。ですが、当社はスマートフォンゲームからの収益が大きいので、プラスの影響もマイナスの影響もそれほどなかったです。

 ただ、仕事のやり方について非常に深く考えさせられる1年でした。コロナ禍でネガティブな気分になりがちですが、あえてこれをポジティブに捉えるなら、新常態(ニューノーマル)の会社のあり方について考えるきっかけを与えてくれたと思います。

 当社は早くから在宅勤務を推進しており、20年春の緊急事態宣言を受けて全社的に在宅勤務へと切り替えました。現在、社員の出社率は10~20%くらいです。開発に携わる社員が数多くいるのですが、通勤がなくなり、自宅で集中して作業ができるというメリットは確かにあります。しかし、こうした状況が1年も続くと逆に「無駄も大事だな」と思える部分が見えてきたんです。

――具体的にどのようなことでしょう。

森下氏 例えば、誰かが面白いアイデアを出した時、他の社員が身を乗り出すようにして「めっちゃ面白そう!」と反応するのか、割と冷静に「面白そう」と言うのか、リアルの会議だと細かいニュアンスまで、その場にいる全員に伝わりますよね。漫才のノリとツッコミのような、人間同士がリアルで交わるからこそ生まれる肌感、空気感というか。そういう大事な部分がオンライン会議だと伝わりにくい。在宅勤務で一人ひとりの作業パフォーマンスが上がるのは良いことですが、特にチーム全体でビルドしていく場面では、リアルで集まってやるほうが断然、効率が良いと思います。

 雑談も意外と大事です。「集中して作業したい」と言いながら、上司や仲間からマメに話しかけてもらいたいという社員もいるからです。一人ひとりの体調やストレスの状況も、会社にいれば周りが見て何となく察知できますが、リモートだと分かりにくいです。

 いつも、ゲームをリリースする日にはケーキを用意してみんなでお祝いするんですよ。ゲームが完成した節目であると同時に、事業としてスタートする節目ですから。こういうささやかなお祝い事は大切です。でも、20年に『ニンジャラ』をリリースした時は、オフィスで私とディレクターの2人だけでケーキ入刀をしました。2人で拍手して、他のメンバーはオンラインでその様子を見ているという(笑)。ちょっと寂しかったですね。

米国で最もダウンロード数が多い『ニンジャラ』

――その『ニンジャラ』は20年6月にリリースされ、21年1月までに世界累計600万ダウンロードを達成しました(編集部注:5月15日に同700万ダウンロードを突破)。これは想定通りでしょうか。

森下氏 (プレーできるのが)Nintendo Switchシリーズだけなのでスマホゲームの伸びと比べると穏やかではありますが、結構、速いペースで伸びていると思います。特に良かったのは、海外ユーザーに受け入れられている点です。ダウンロード数は米国が最も多く、次いで日本、フランス、イギリス、スペインという順番。我々が目指す「グローバルファースト」、世界で同時にリリースして世界で売っていく作品として、順調な滑り出しとなりました。

『ニンジャラ』は海外ユーザーにも広く受け入れられている © GungHo Online Entertainment, Inc.
『ニンジャラ』は海外ユーザーにも広く受け入れられている © GungHo Online Entertainment, Inc.

 中でも、ダウンロード数が最も多い米国で、幅広い層に受け入れられた点が良かったと思います。米国でヒットしたとされるゲームでも、蓋を開けてみるとユーザーの大半が日系・アジア系の人々というケースは少なくありません。もちろん、それはそれで相当な人数になるわけですが。その点、『ニンジャラ』のユーザーはネーティブの米国人を含め多種多様で、本当の意味で米国市場に食い込んだゲームと言えると思います。これは大きな成果でした。

米国でも生涯顧客となる低年齢層に人気

――想定外だったことはありますか。

森下氏 まんべんなく広い世代に受け入れられると思ってはいましたが、小学生や低年齢層のユーザーが非常に多いのは想定外でした。米国でもクリスマス前までは、割と20代が多かったのに、クリスマス以降は一気に10代が増えました。

 ユーザーがお子様だと課金収入が伸びにくいという側面はありますが、生涯顧客となり得る低年齢層ユーザーを獲得できたのは、当社にとって中長期的に見て、とても良いことだと捉えています。私はファミコン世代ですが、当時、大ヒットしたゲームがいまだに人気シリーズとして続いているじゃないですか。『ニンジャラ』も同様、末永く愛されるゲームとして育てていきたいです。

 低年齢層を対象としたゲーム大会にも力を入れており、国内では次世代ワールドホビーフェアオンラインにて中学生以下の全国大会「ニンジャラ次世代GP2021」を開催しました。ビデオ会議システム「Zoom」を使ってオンラインでやるという、当社としても初の試みで、参加者が集まるか心配しましたが、500人強の参加枠がすぐに埋まり、大盛況でした。

『ニンジャラ』では中学生以下を対象としたゲーム大会にも力を入れている。画像はリモートで開催された「ニンジャラ次世代GP2021」の模様 © GungHo Online Entertainment, Inc.
『ニンジャラ』では中学生以下を対象としたゲーム大会にも力を入れている。画像はリモートで開催された「ニンジャラ次世代GP2021」の模様 © GungHo Online Entertainment, Inc.

――米国で低年齢層に受けた要因は何でしょう?

森下氏 『ニンジャラ』ではキャラクターごとに10~15分程度のショートアニメを作って、日本語版・英語版をYouTubeで同時公開しました。寄せられたコメントを見るとほとんど英語でしたね。米国のテレビは多チャンネルですが、そこにYouTubeも加わり、子供たちがその中から選んで見てくれた、ということだと思います。

 ちなみに国内では『ニンジャラ』のテレビCMを打ちましたが、米国ではやりませんでした。あとは、意外な掛け合わせでしょうか。忍者は海外でよく知られていますが、そこにガムという、米国でとても人気のあるお菓子を掛け合わせたところが、うまく刺さったのかなと思います。

プロモーションの1つとして、『ニンジャラ』各キャラクターのショートアニメを作成。日本語版と英語版をYouTubeで同時公開した © GungHo Online Entertainment, Inc.
プロモーションの1つとして、『ニンジャラ』各キャラクターのショートアニメを作成。日本語版と英語版をYouTubeで同時公開した © GungHo Online Entertainment, Inc.

『パズドラ』は人気アニメとのコラボが話題に

――『パズル&ドラゴンズ』(パズドラ)は『鬼滅の刃』とのコラボレーションが話題になりました。

森下氏 20年10月から始まった「パズドラ大感謝祭」の中で『鬼滅の刃』とのコラボを実現することができました。21年2月からは9周年イベントも実施。さまざまな施策を打つことで、休眠ユーザーの掘り起こしに成功しました。

『パズル&ドラゴンズ』ではアニメ『鬼滅の刃』とのコラボを実現 © GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved. ©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
『パズル&ドラゴンズ』ではアニメ『鬼滅の刃』とのコラボを実現 © GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved. ©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

――冒頭、新型コロナウイルスの影響について伺いましたが、社会全体がコロナ禍で一変しました。このような変化が今後、開発するゲームの内容に影響すると思いますか?

森下氏 当社の場合、それはないですね。もちろん、開発する上で市場環境や世の中の流れを知っておく必要はありますが、大前提として、ゲームは社会のニーズに合わせて作るものではなく、提案するものだと思うんです。

 『ニンジャラ』も直感的アイデアから開発がスタートしました。「最近、シューティングゲームばかりでアクションゲームが少ないな」と思っていたところ、偶然、棒で遊んでいる子供を見かけたんです。子供って、棒を持つとなぜか振り回すじゃないですか(笑)。ああいう本能的な部分をゲームで表現できたらというのが発端でした。今後も自分たちが作りたいものを作っていきます。

ゲームもジェンダーレス対応が当然

――現在、開発中のゲームが7つあるとのことですが、いずれも世界で同時にリリースすることになりますか?

森下氏 その通りです。これまでグローバルファーストの経験を積み重ねてきて、新たな改善点も見えてきました。社員全員にグローバルな意識と目線も備わってきたと思います。

 また『ニンジャラ』の話になりますが、このゲームはジェンダーレスにも対応しています。さまざまな人種のキャラクターがいて、さらに、ユーザーの好みでカスタマイズができる。男の子のキャラクターに女の子の服を着せたり、女の子のキャラクターを男の子の声にしたり。グローバルな視点に立つと、このような機能は当然のものなのです。

『ニンジャラ』はユーザーの好みで、キャラクターの顔、ヘアスタイル、衣装などを自由にカスタマイズ可能。ジェンダーレスにも対応している © GungHo Online Entertainment, Inc.
『ニンジャラ』はユーザーの好みで、キャラクターの顔、ヘアスタイル、衣装などを自由にカスタマイズ可能。ジェンダーレスにも対応している © GungHo Online Entertainment, Inc.

 グローバルでものを売るというのはなかなか勇気がいります。言語をローカライズするのはもちろん、欧州各国ではGDPR(EU一般データ保護規則)対応をしたり、世界同時に告知をする際、「世界中のみんなに平等な時間帯っていつなんだ?」と頭を悩ませたり……。細かい部分まで全部きっちりチェックしなければうまくはいきません。しかし、企業としてさらに成長していくためには必要なことですし、今後もチャレンジを続けていきます。

(写真/稲垣純也)

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