2019年にはモバイルゲームの国内売り上げランキングの2位に転じた『モンスターストライク』(モンスト)だったが、20年には1位へと返り咲いた。激動のコロナ禍をミクシィはどう乗り切ったのか。『モンスト』事業を率いるミクシィ執⾏役員/モンスト事業本部本部長の根本悠子氏に話を聞いた。
――2020年から今も続くコロナ禍は『モンスト』の事業にどんな影響を与えましたか?
根本悠子氏(以下、根本氏) 東京オリンピック・パラリンピックに連動させたメディア展開など、コロナ前に予定していた計画への影響は大きく、例年との違いを痛感しました。
ユーザーの生活様式が変わり、特に通勤通学の機会が激減したことで「電車内で遊ぶ」というモバイルゲームならではのプレースタイルにも変化が表れることは予測していました。
ただ、そうした変化の中でも臨機応変に対応できたと思います。結果、決算が終わっている20年12月までの数字に大きな影響はありませんでした。
広告施策ではテレビCMの撮影に苦労した程度で、『モンスト』への直接的な影響は軽微でした。一方で、リアルイベントは延期や中止を余儀なくされ、オンラインイベントへの転換などを強いられました。
離れていても一緒に遊べるゲームの特性が生きた
――通勤通学時に電車内で遊ぶケースが減ったことは、実際どう影響したのでしょう。
根本氏 通勤通学時のプレー機会が失われたことは事実としてあると思います。物理的に対面で人と会えないという時間が増えたことによって、プレー環境が生み出す「楽しさ」の部分が失われてしまうのではという懸念もありました。『モンスト』は友達同士で集まって声を上げながら楽しむような部分に、私たち自身、提供価値を感じていましたから、自粛が長期化することで、そのことがボディーブローのようにダメージになるのではと不安に感じていたのです。
それでもプレー時間に数字上の大きな変化はありませんでした。コロナ禍前と変わらず、寝る前やちょっとした休憩時間など様々な時間帯で遊んでもらえたのだと思います。『モンスト』には、もともと離れた場所の友達と一緒に遊ぶ機能がありますから、混乱もなく、現状に即した遊び方にスイッチしてもらえたのではないでしょうか。
19年にはモバイルゲームの国内売り上げランキングで2位に転じてしまいましたが、20年は1位に返り咲いています。結果を見ると、マイナス方向への予想はおおむね外れたと言えますね。
――『モンスト』に限らず「会えなくても遊べる」という今のゲームの強さを実感した1年でした。
根本氏 海外のゲーム事業者がコロナ禍の外出自粛に合わせて始めたキャンペーン「#PlayApartTogether」の日本版を、「#離れていっしょに遊ぼう」プロジェクトとしてミラティブ(東京・目黒)と弊社が幹事になって執り行いました。国内のゲームメーカー各社やグーグルにも賛同いただき、かなり大きな規模で展開することができました。
ゲームを通じて社会に貢献するこうした活動は、新型コロナウイルスの感染拡大がなければできなかったですし、ゲームが持つ価値を示せたと思います。
映画公開が延期されるも代替施策が奏功
――3作目に当たる映画『モンスターストライク THE MOVIE ルシファー 絶望の夜明け』も20年6月から11月に公開が延期されました。
根本氏 映画を中心にグッズの販売やゲーム内キャンペーンをメディアミックス的に展開する予定でしたから、公開延期に合わせてこれらの施策をやめるのか、ずらすのかといった判断は非常に難しかったです。
結局、6月に映画のダイジェスト版を流すオンライン試写会を実施し、周辺施策をやりきる判断を下したんですが、それによって公開時の動員減につながるかもしれないという懸念はありました。
それに、6月の時点ではいつまで延期になるかが見えなかったのも怖かったです。でも、だからこそ、きちんと期待に応えてユーザーに驚きを届ける「ユーザーサプライズファースト」という企業理念を体現する意味も込めて決断に踏み切ったんです。
結果的には、6月公開として準備したものとほぼ変わらない体験をユーザーにお届けできたと思っています。数字的にも目標を達成できて、事業部としてもトライできたことに後悔はありません。
現場の機動力の高さなど、イレギュラーな状況だからこそ見えたものもあります。社内を見ても、事業部が挙げた対応策に経営層が理解を示し、全社一丸となって取り組めました。難しい状況の中、果敢にトライするからこそエポックメーキングなものが生まれると実感できたことは大きな成果ですし、それが数字にも表れたということは、施策がユーザーの皆様にも受け入れていただけたのだと信じています。
※後編「『鬼滅』の次は『呪術廻戦』 コラボで仕込む『モンスト』拡大策」に続きます。
(写真/志田彩香、写真提供/ミクシィ)