コロナ禍での生活様式の変化やイベント、映画上映の延期などに対応しながら、好調に事業を展開するミクシィのモバイルゲーム『モンスターストライク』(モンスト)。コロナ禍の取り組みを聞いた前編に続き、後編では今後の戦略を探る。さらなる発展の鍵となるのは新たに始めるテレビCMと定番のコラボ。20年の「鬼滅の刃」に続き、21年は「呪術廻戦」とのコラボで、新規ユーザーの開拓や休眠ユーザーの掘り起こしも図る。

『モンスト』事業を率いるミクシィ執⾏役員/モンスト事業本部本部長の根本悠⼦⽒
『モンスト』事業を率いるミクシィ執⾏役員/モンスト事業本部本部長の根本悠⼦⽒
[画像のクリックで拡大表示]
前編はこちら

「XFLAG PARK」もオンライン開催に

――エンタメ事業ブランド「XFLAG」を中心としたイベント「XFLAG PARK」はオンライン開催となりました。

根本悠子氏(以下、根本氏) XFLAG PARKは例年7月に実施してきましたが、20年は東京オリンピック・パラリンピックと重なるため、もともと『モンスト』の周年イベントを行う10月開催で準備を進めていました。

 例年なら夏前にXFLAG PARKの開催内容を告知してきましたが、こちらとしても状況を読み切れず、オンラインへ移行するかどうかの決定と、それに合わせたユーザーへの告知をいつどのような形ですべきか、逡巡(しゅんじゅん)しました。

――オンラインで実施する上での苦労は?

根本氏 リアルで開催していたこれまでのイベントもライブ配信を実施していました。しかし、リアルはなし、配信のみとなったとき、従来と同様、ただステージの様子を配信するだけでいいのかが議論となりました。

 リアルイベントの醍醐味は、友達や同じゲームを好きな人たちが集まって盛り上がる楽しさです。その体験が失われたのに、今までと変わらないライブ配信をするだけというのは違うのではないか。せめて友達と一緒にイベントを体験できるような仕組みが必要だというところに着地しました。

 そこから急ピッチで立ち上げたのが「XFLAG PARK CONNECT」です。1グループ当たり最大20人まで、同じライブ配信を見ながらボイスチャットができるWebサイトで、離れた場所にいても会話を交わしながらイベントを楽しめるのが特徴です。

「XFLAG PARK CONNECT」には、ライブ配信を⾒ながらボイスチャットで友達と話せる機能を組み⼊れた
「XFLAG PARK CONNECT」には、ライブ配信を⾒ながらボイスチャットで友達と話せる機能を組み⼊れた
[画像のクリックで拡大表示]

――手応えは?

根本氏 初めての試みでしたからXFLAG PARK CONNECTでしかイベントを見られないという形にするつもりはなく、ユーザーは通常のライブ配信も選べるようにしました。それでも利用率は高く、インタラクティブなコンテンツにもたくさんの方に参加していただけるなど、楽しんでいただけたと感じています。

 みんなが集まる機会はオンラインになってもやはり不可欠です。ユーザーからの意見で印象的だったのは「(XFLAG PARKを)開催してくれてありがとう」「こういう場をつくってくれてうれしい」といった声でした。中止という選択肢もある中で開催したことに温かい反応がたくさん寄せられました。開催に関わった者にとって「やってよかった」という実感を抱けたことは素直にうれしい体験でした。

ミクシィの持ち味を生かして有事に対応

――オンラインでも例年と変わらない成果を得られたということでしょうか?

根本氏 もちろんオフラインとまったく同じというわけにはいきませんでした。しかし、制約のある中でも、コミュニケーションをハブにして活動するミクシィという企業の持ち味を生かすことはできたと自負しています。

 個人的な話をさせてもらえば、今回の件では11年の東日本大震災での体験を思い出しました。未曽有の災害で電話がつながらない中、SNS「mixi」で安否確認をしようとするユーザーのアクセスが急増したんです。そのとき、社内に残っていたメンバーで、非常時に役立つような機能を盛り込む作業をしました。

 コロナ禍だからこその対策を考えるのは、あのときに通ずるものがあるような気がします。急ごしらえとはいえ、XFLAG PARK CONNECTを実用に足るクオリティーで提供できたことは、SNSを運営し、ものづくりのカルチャーを長年育んできたミクシィの強みであり、DNAだと感じました。

――XFLAG PARK CONNECTのようなシステムはリアルイベントが可能になった後も活用できるでしょう。結果的にイベントを通じたコミュニケーションの幅が広がったのでは?

根本氏 その通りですね。ミクシィは「コミュニケーションを通じて世界を鮮やかに変えていく」ことをミッションとし、中でも『モンスト』は「エンターテインメントを通じて、『ひとりじゃない世界』をつくろう!」というスローガンを掲げています。

 コロナ禍というある種の有事の中でコミュニケーションやエンターテインメントの幅が狭められている現状がありますが、それでもそのミッションやスローガンを達成しようといろいろな方法を模索しています。

 XFLAG PARK CONNECTをはじめとする新たな機能や知見は、コロナ禍だからこそ得られたという面はありますし、新しい生活様式の下での余暇時間の過ごし方として『モンスト』を想起してもらえていることにその努力が報われているとも感じています。

「鬼滅の刃」の次は「呪術廻戦」とコラボ

――20年は2月の「鬼滅の刃」とのコラボレーションが高い収益につながりました。

根本氏 新規ユーザーの増加はもちろん、休眠ユーザーの掘り起こしにも大きく貢献しました。コラボは既存のユーザーに楽しんでもらうことが大前提ですが、それとともに新規ユーザーの開拓、離れていたユーザーを振り向かせるフックとしての役割もあります。

 21年は5月2日から「呪術廻戦」とのコラボを開始しました。こちらも旬なIP(知的財産)ですから盛り上がると期待しています。

2020年の「鬼滅の刃」に続き、21年は「呪術廻戦」とコラボする
2020年の「鬼滅の刃」に続き、21年は「呪術廻戦」とコラボする
[画像のクリックで拡大表示]

――4月からは新たなテレビCMもスタートしましたね。

根本氏 満島真之介さん、染谷将太さん、矢本悠馬さん、志尊淳さんの4人に、それぞれ「ミツ」「ソメ」「ヤモ」「シソ」という宇宙人を演じていただきます。従来はスポット的にCMを仕掛けましたが、今回は年間を通じて展開する予定です。

――大手携帯電話会社のCMのように、連続性を持たせる構成でしょうか。

根本氏 そうですね。同じフレームでCMを重ねていくうちに、音を聴いただけでも「『モンスト』のCMだ」と素早く想起してもらえるようになるはずです。そうなれば、15秒という短い時間でも伝えたいことをストレートに伝えられるのではないかと期待しています。

 『モンスト』は初めてプレーする人にもすぐに楽しさが分かるゲームだと自負していますが、リリースしてから年月を重ねるうちに「名前は知っているけど遊ばない」という人が多くなっているのも事実です。「今さら始めてベテランには追いつけない」というイメージを抱いている人もいると思います。

 『モンスト』はeスポーツ大会を開催しているように、やり込み要素のある奥の深いゲームですが、一方で小学校低学年の子供でもカジュアルに楽しめる間口の広さがあります。そこをもっとアピールしたいと思っています。

 テレビCMのキャラクターを宇宙人という設定にしたのも「初めて地球に降り立った宇宙人がいきなり遊んでも『モンスト』の楽しさは理解できる」と表現するのが狙いです。宇宙人はテレパシーでコミュニケーションするという設定なので、セリフと口の動きがシンクロしません。それでも気持ちが伝わるように、若い世代に人気があるだけでなく、目や表情できちんと伝えられる演技派の俳優さんたちをキャスティングしています。

 かといって、いきなりCM効果が出ることは期待していません。まずはあの4人の宇宙人とCMを好きになってもらうこと。そこから「もしかしたら『モンスト』って面白いのかも?」という流れが生まれればと思っています。

『モンスターストライク』の新CM。左から「シソ」(志尊淳)、「ヤモ」(矢本悠馬)、「ソメ」(染谷将太)、「ミツ」(満島真之介)
『モンスターストライク』の新CM。左から「シソ」(志尊淳)、「ヤモ」(矢本悠馬)、「ソメ」(染谷将太)、「ミツ」(満島真之介)
[画像のクリックで拡大表示]

eスポーツタイトルとしての『モンスト』

――eスポーツタイトルとして見た『モンスト』の展開とその手応えはいかがですか?

根本氏 毎年開催してきた大会「モンストグランプリ」が20年は開催できませんでした。また、競技タイトルとして採用された、第75回国民体育大会(燃ゆる感動かごしま国体)文化プログラムとしてのeスポーツ選手権は、国体自体が延期になってしまいました。

 ですが、21年は「モンストグランプリ 2021」として開催が決定しています。4月末から全国6都市で地方予選大会を行い、決勝は7月。決勝大会まで進めば賞金が授与されることになっており、その総額は8000万円です。

 第76回国民体育大会(三重とこわか国体)の文化プログラムで「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2021 MIE モンスターストライク部門 少年の部」が開催されることも決まりました。これは6歳以上18歳未満、および18歳の高校生が集まる大会。参加選手の年齢層が広いので、認知を広げる効果もあると期待しています。

 『モンスト』は『モンスト』なりのeスポーツのあり方に以前から向き合ってきたつもりです。スマホさえあればすぐプレーヤーになれますし、観戦タイトルとしても展開や勝敗が分かりやすく、詳細なルールを知らなくても楽しめる。この部分を伸ばしていき、ゆくゆくはeスポーツという枠組みを広げる、とっかかりは草野球のような感覚で参加できる存在になれればという思いがあります。

生まれ変わった組織をより強固にした1年

――20年のインタビューでは『モンスト』に関わるスタッフを1部門にまとめる組織改編についても伺いました(関連記事「『鬼滅の刃』コラボも話題 ミクシィ『モンスト』のリブート戦略」)。その成果はどうですか?

根本氏 効果として最も大きかったのは、中長期の目標に向かって一丸となれた点。部署が違うとゴールイメージにブレが生まれることもあったんですが、それが解消されました。中長期の目標を実現するに当たってこの1年は何をすべきかなど、戦略から戦術を導くようなこともやっと体系的にできるようになったのは進歩だと思います。

 コロナ禍など予想外のことが起きる状況では、変更を余儀なくされることもあれば、何があろうと安定的に運営すべきこともあります。たとえ相反する出来事が同時に起こっても、全体の目標がきちんと一致していれば組織は有機的に動く。もともと『モンスト』に関わる現場の一体感は強かったのですが、さらにまとまったと感じます。このカルチャーを細部にまで浸透させ、より強固な組織を作り上げていきたいですね。

(写真/志田彩香、写真提供/ミクシィ)