NTTドコモは「eスポーツ」事業へ参入し、2021年1月からリーグブランド「X-MOMENT(エックスモーメント)」を立ち上げた。大会をどう活性化し、さらには次世代通信「5G」の普及拡大や同社のブランド浸透にどうつなげていくのか。同社のeスポーツ事業をけん引する森永宏二氏に聞いた。

NTTドコモのeスポーツリーグ「X-MOMENT(エックスモーメント)」のWebサイト
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――NTTドコモが2019年に東京ゲームショウ(TGS)で見せた5Gと組み合わせた展示ブースは印象的でした。それを含め、ここ数年のゲーム業界との関わりについてお聞かせください。

森永宏二氏(以下、森永氏) 19年のTGSにNTTドコモとしては数年ぶりにブースを出し、eスポーツという文脈で参加しました。ちょうどラグビーワールドカップ(W杯)があり、そこでは5Gを使ったさまざまな試みをすることになっていました。そこでTGSでも、eスポーツを通して5Gの実証実験をしようと考えたのがきっかけです。

NTTドコモ ビジネスクリエーションeスポーツビジネス推進担当課長の森永宏二氏
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 5Gのメリットを来場者に理解してもらうために、ゲームは最適です。カプコンと共同で『ストリートファイターV』の対戦をAR(拡張現実)で視聴する展示をしました。他にも格闘ゲームの大会『EVO Japan 2018』『EVO Japan 2019』にスポンサーとして参加しました。『EVO Japan 2018』では、5G回線と有線とを比較したブースを展示しました。

5Gなら快適にプレーできる

――なぜeスポーツに注目したのでしょうか。リーグ立ち上げの背景と狙いを教えてください。

森永氏 高速大容量・低遅延・多接続という特長を持つ5Gと、eスポーツは親和性が高く、一緒に普及拡大していく可能性が高いと思っています。例えば、現在は無観客試合でeスポーツの大会を実施していますが、視聴者の中には、その場で一緒に観戦したいというニーズはあるはずです。

 5Gの能力を活用し、例えばVR(仮想現実)やARで視聴するとなれば、大容量通信が必要となります。低遅延についてはゲームプレーヤーにモバイル通信でも対戦ゲームが快適にプレーできることを伝えていきたいですね。

 5G回線が普及していくことで、アプリケーション側も変わっていくと思われます。現状は4Gに合わせてアプリ開発やサービス運用が進んでいますが、5G回線や5G対応スマホが広がっていくことで、それを前提として開発された進化した高度なアプリが登場してくるでしょう。

――eスポーツリーグによってビジネス上ではどんな成果が期待できるとお考えでしょうか。

森永氏 5Gの認知度を上げることや、NTTドコモがアプローチしきれていなかった若者層へのアピールという目的もありますが、リアルスポーツと同様に、スポンサー収益や放映権の収入、グッズ、チケットの販売などでしっかりとしたビジネスにつなげていきたいと考えています。ゆくゆくは単体での黒字化を狙います。

――具体的にeスポーツリーグの取り組みをどう進めていきますか。

森永氏 X-MOMENTというブランドで、さまざまなタイトルのeスポーツ大会を開催していきます。第1弾として『PUBG MOBILE』のプロリーグ「PUBG MOBILE JAPAN LEAGUE(PMJL)」というリーグを21年2月から開始しました。イメージとしてはサッカーのJリーグ、バスケットボールのBリーグ、卓球のTリーグと一緒で、プロのチームに参加してもらい、1年を通じて優勝を争ってもらいます。21年3月からは『レインボーシックス シージ』のプロリーグ「Rainbow Six Japan League(RJL)」も始まっています。

シューティングゲーム『PUBG MOBILE』のプロリーグ「PUBG MOBILE JAPAN LEAGUE(PMJL)」の画面例
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 PMJLとRJLでは、年間を通じて争われるリーグを勝ち抜いたチームが世界大会への出場権を得ることができます。各地域の代表チームが争う世界大会とX-MOMENTがつながり、日本のチームが世界へ進出するための懸け橋となるわけです。

 世界で日本のチームが活躍し、日本にこんなすごいリーグがあるのかと世界から注目されるようになれば、海外から参加したいという選手も出てくるでしょう。海外の有力選手がX-MOMENTに参加することで、さらにリーグの魅力が高まっていくと思います。

 現段階では、多くの人に見てもらうことが最も重要な課題です。そのために複数のプロモーションも行っています。コロナ禍でオフラインのイベントはなかなかできない状況ですが、VRやARの視聴体験など、見に行きたいと感じさせる新機軸にも取り組んでいきたいですね。

――『PUBG MOBILE』はスマホのタイトルですが、『レインボーシックス シージ』はPCのタイトルです。NTTドコモが取り組む目的は何でしょうか。

森永氏 『レインボーシックス シージ』は、PCベースのゲームではありますが、5Gを活用する方法はたくさんあると思っています。5Gのデータ通信端末を使ってPCにつなぐことで、オフラインのイベントを開催しやすくできるでしょう。通信回線のない会場でイベントをする場合は、光回線を引くことから始めないといけませんが、5G回線を使えばインフラ設備のコストを削減できます。そういったイベント開催のパッケージをつくり上げていくこともNTTドコモとしては重要な事業であると考えています。

オンラインですべては代替できない

――withコロナという状況が、eスポーツに与える影響は。

森永氏 eスポーツは、オンラインと親和性が高く、緊急事態宣言下でもリーグが開催できるのは、他のスポーツやライブエンターテインメントにはない強みと言えます。とはいえ、みんな一緒に観戦したいという意見は多く、オンラインですべてが代替できているわけでもありません。

 eスポーツにはいろんな見方があると思います。純粋にゲームが好きな人、eスポーツ選手が好きな人、プロのプレーが見たい人など、そういった多様な視聴目的に、5Gを活用していきます。例えば、マルチアングルで配信された動画を基に、自分が好きなように見る、特定の選手だけを見続ける、ゲーム画面だけを見続けるといった、さまざまな視聴環境をつくれるのが5Gの強みです。それをeスポーツに取り込んでいきたいと思っています。

――X-MOMENT開始後の現状での評価はいかがですか。

森永氏 X-MOMENTの視聴者は同時接続で1万人くらい。コロナ禍で選手をスタジオに呼ぶことができず、完全オンラインの配信になっているという状況を考えれば、よい滑り出しです。現状に満足しているわけではなく、今以上に選手の熱い思いを伝え、もっと選手を知ってもらい、選手にファンが付くようにしていきたいと考えています。

現在は選手をスタジオに呼ばずにリーグの大会を開催している
現在は選手をスタジオに呼ばずにリーグの大会を開催している
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 次のステップは選手をスタジオに呼ぶこと。その先は、もちろん観客の皆さんにも来場して頂きたい。19年に東京ゲームショウのドコモブースでeスポーツイベントを開催したときに感じたことですが、やはり会場の熱量はすごい。それを多くの人に体感してほしいのです。

 将来的には、高校野球で言えば「甲子園」のような、eスポーツのホームグラウンドもつくっていきたいですね。

――eスポーツリーグで21年に目指すことと、21年秋の東京ゲームショウへの期待を教えてください。

森永氏 X-MOMENTを世界的リーグに押し上げ、輩出した選手が世界で活躍できるような舞台を整えることで、eスポーツを盛り上げていきたいです。X-MOMENTを展開してから、多くの人からeスポーツ市場を拡大することへの期待の声をもらっています。まずは、しっかりとしたリーグ運営をやっていくことがその期待に応えることだと思っています。

 社内でも好評で、X-MOMENTに関わりたいという社員が増えています。今や若い社員にも人気の部署になっていて「実はこういった大会に出ているんです」とアピールをしてくる社員もいるほどです。社内全体の活気につながっています。

 東京ゲームショウは、国内のみならず世界的にみても有数のゲームイベントで、19年などは大勢のゲームファンが来場しているのを目の当たりにして、熱狂を肌で感じてきました。21年の東京ゲームショウも、そんな盛り上がりを実感できるイベントになることを期待しています。