自らを“IPデベロッパー”と位置付け、「BanG Dream!(バンドリ!)」「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」「D4DJ」などのIP(キャラクターやゲームなど知的財産)を中心にゲーム、アニメ、舞台、音楽ライブなどを展開し、ビジネスの拡大を図るブシロード。これまでスマホゲームを核としてきたが、2021年はNintendo Switch向けゲームも投入する予定だ。同社のゲームビジネスを一貫して率いている広瀬和彦取締役にその狙いを聞いた。
――ブシロードの代表的IPといえる「BanG Dream!(バンドリ!)」のゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(以下『ガルパ』)を、Nintendo Switch版として2021年中に発売すると発表しました。トレーディングカードゲームを除く、いわゆる「デジタル」のゲームは、これまでスマートフォン向けを基本としていたブシロードだけに、パッケージタイトルを発売するのは意外でした。
広瀬和彦氏(以下、広瀬氏) Nintendo Switch向けにまずは『ガルパ』を展開しますが、年内にあと1~2タイトル出せたらいいなと思っています。背景には、スマホゲーム市場が成熟してきた中でマルチデバイスに対応していこうという考えがあります。
コロナ禍でゲームの需要が高まり、スマホゲームの業界全体の売り上げは、20%ぐらい上がっているようですが、マーケットとしては、18年、19年ぐらいから成熟してきていて、基本無料のアプリのインストール数が伸びなくなっています。
弊社としても、ゲームの売り上げの期待値を以前通りには設定できません。また、ゲームを何百万とインストールしてもらうことで、IPに広く触れてもらうという基本戦略において、(数の)上限は重くのしかかってきています。弊社はゲーム専業ではないので、他の事業を含めてゲームの展開を考えていかなければいけない。ゲームのマルチデバイス対応も戦略の1つです。
一方で、スマホゲームには新規性がより求められているとも感じています。実は、20年に新しく日本でリリースされたスマホゲームの売り上げトップ100を調べてみると、半数が海外メーカーのゲームでした。地域別では中国が多いのですが、成熟してきたといわれるマーケットの中で、より大きく売り上げを伸ばしているのは、単にユーザーのニーズに沿ったものというより、それを超えた新規性や技術的な革新があるタイトルです。高い開発能力を持った中国企業は、日本のマーケットにも通用するゲームの開発がハイレベルでできてきているので、今後、需要がますます高まっていくと思っています。
――ブシロードでは中国で開発された『ロストディケイド』を日本語にローカライズしてリリースするということもしていますね。
広瀬氏 日本と東アジアのマーケットは、マネタイズの形やキャラクターなどのコンテンツ面で共通する部分が多いので、中国、日本を中心にゲームを展開するのは、欧米を含めたワールドワイドで展開するよりも、規模は小さくなってしまいますが、やりやすい。
中国は、ゲームのリリースに当たって、政府の認可を取らないといけないので、(ローンチまでに)すごく時間がかかります。中国企業がつくったゲームにもかかわらず、リリースは中国が最後になるケースもある。当然、中国側としては早くサービスをスタートして売り上げを回収したいという気持ちがありますから、日本で先にリリースして、マネタイズを含めたところをしっかり調整してから、中国でも出すというケースもあるんです。
ただ、中国の有望なタイトルは、中国側が自社で日本でも直接配信することが増えてきているので、ブシロードがライセンスを受けて展開するという方法は難しくなってきています。
――マーケットとしての中国はいかがですか?
広瀬氏 ブシロードでは以前から、海外事業として、日本のゲームをローカライズし、英語、簡体字、繁体字、韓国語でリリースすることをしています。しかし、日本のゲームを中国に持っていっても、正直あまり売り上げは大きくならないと思っています。
日本で開発されたゲームが中国でも数多くリリースされていますが、成功したタイトルは少ないですよね。ブシロードも日本で人気が高い『ガルパ』をbilibiliさんと一緒に中国で展開し、現地でのプロモーションを非常に手厚く実施いただいていますが、ユーザー数では比較的成功しているものの、売り上げはもう少し伸びてほしいというのが正直なところです。
――日本のゲームと中国のゲームの違いはどんな点ですか?
広瀬氏 一番の違いは、ゲームシステムです。中国で成功している日本系IPのゲームというと、「聖闘士星矢」や「ドラゴンボール」、少し前ではコナミデジタルエンタテインメントさんの「魂斗羅」が挙げられますが、IPは日本側からライセンスされていて、開発は中国の会社というケースが圧倒的に多い。やはり中国のマーケットに合ったゲーム開発は、中国の会社が担当したほうがうまくいくと思っています。
逆に、日本のマーケットでは中国で開発したゲームも比較的受け入れられています。先ほどお話しした通り、中国開発のタイトルが日本で成功しているので、日本のユーザーのほうがゲームシステムに関する寛容度が高いように思います。日本人は、コンシューマーゲームもプレーし、さまざまなゲームシステムに触れてきているので、受容範囲が比較的広いのかもしれません。中国側で開発したゲームを中国および日本に展開したほうが、トータルでは受け入れられやすいのかなと思います。
こうしたことからも、将来的には中国の会社とパートナーとしてやっていくことが重要だと考えています。日本のゲームを中国に持っていく、中国のゲームを日本に持ってくるではなくて、最初からゲームを一緒につくりましょうというところまで踏み込まなくてはいけないでしょうね。
コロナでオンライン視聴が定着
――ブシロードは“IPデベロッパー”を掲げ、IPを軸にさまざまなコンテンツを展開しています。20年は新たなIPとしてDJをテーマにした「D4DJ(ディーフォーディージェー)」を立ち上げました。コロナ禍ということで、IP拡大のカギを握るライブなどのイベントが開催しにくい状況が続きましたが、今後、どのように展開していきますか?(関連記事「80年代懐メロで20代も40代も取る ブシロード新作は『DJ』で勝負」)
広瀬氏 今後、新型コロナウイルスの感染拡大が収束したとしても、オフラインのイベントの動員数は以前通りというわけにはいかないでしょう。一方で、ユーザーの皆さんがオンラインライブを視聴することへの抵抗感は下がりました。有料のオンラインライブは、ある程度、形になっていますね。舞台など劇場にお客さんが入っていただく場合でも、オンライン視聴にもお客さんが付いてきているなと感じています。
オフラインのライブイベントや舞台系コンテンツの問題点は、収容人数が限られることです。東京ドームでライブをやったとしても、見られるのは数万人。それがオンラインであればより多くの人に見てもらえます。オンライン視聴に対する皆さんのハードルが下がっていること自体は、コンテンツを広げる意味ですごくいい。今後は、オフラインとオンラインのハイブリッドでやっていくのが基本になっていくだろうなと思っています。
――オンラインを含めたイベント展開が“ニューノーマル”ということですね。
広瀬氏 なおかつ、それにより即したコンテンツづくりをしていったほうがいいと思っています。ライブだったら、今までは来てくださっているお客様に向けたつくりになっていました。でも、オンラインで、画面越しに視聴することが普通になるのなら、画面にカメラの映像を映すだけでなく、もう少し情報とか演出を乗せるなど、オンラインを意識したコンテンツづくりが必要になるでしょう。
それにゲームでいえば、ゲーム実況の流れが圧倒的に大きいわけです。特にコンシューマーゲームでは、そこでの広がりやすさを考えたゲームづくりを各社がしている。スマホゲームについては、RPGなどジャンル的に(ゲーム実況に)あまり向かない面がありますが、ユーザー数を増やしていくためには、そうした視点も必要になってくるだろうなとは思います。
マルチデバイスとWebコミックに注力
――それらを踏まえて、21年の注力ポイントを教えてください。
広瀬氏 21年は、ゲームについてもっと幅広くチャレンジしていきます。スマホゲーム市場の成熟化を踏まえると、中期的には東アジアを含めたグローバル展開がポイントですが、その前段階としてやらないといけないのが、コンシューマー向けタイトルなどのマルチデバイス事業です。コンテンツのつくり方もさらに広げたいと思っています。
また別次元の話ですが、この2~3年、電子書籍の伸びがゲームに比べても圧倒的に大きい。スマホで漫画を読むことへの抵抗が一気に下がったのだと思います。IPを広げていくうえで、電子書籍でも皆さんにより触れてもらう機会をつくっていく必要があるのかなと思います。弊社のグループ会社、ブシロードメディアでもWebコミックを21年から始めており、IPデベロッパーとして、原作の開発方法を広げているところです。
「バンドリ!」や「D4DJ」のように、ゲームだけではなくアニメやライブも含めた展開になると、一つひとつの規模が大きく、開発費は、5億円ではききません。2桁近くになるのがほとんどです。アニメの制作を押さえるという観点では、5~10年ぐらいIPを運営するつもりでないとできません。
ですから、リードタイムをかけず、もう少しコンパクトに勝負できるところを増やしたい。例えばWebコミックから人気が出てきたIPを、次はこういう展開ができるよねと大きくしていってもいい。いきなりスマホゲームを何億円もかけて開発するのは無理かもしれないけど、Nintendo Switch版のダウンロードコンテンツから始めるならできるとか。IPを生み出すところで、小粒だったり断続的な展開になったりしたとしても、クイックに取り組めるようにしていきたいですね。
ブシロード 取締役
(写真/辺見真也、写真提供/ブシロード)