イノベーションを起こそうとしても、実際はなかなか進まない。その理由は手法ばかりに注目し、社員の知的活力を呼び起こして生かすことをおろそかにしてきたからだろう。本連載では企業革新を推進する人材を「ダイナモ(発電機)」と呼び、日本企業が進むべき今後の方向を示す。書籍『企業変革を牽引する新世代リーダー ダイナモ人を呼び起こせ』の内容を一部抜粋して紹介する。
イノベーション物語や企業変革を推進する人材には、利他的な目的を掲げ、できない理由よりもできる可能性に着目し、圧倒的熱量と行動力を伝染させながら人を巻き込む力がある。本著では、これらの人材を「ダイナモ」(dynamo:直接には「発電機」の意)と呼んでいる。
ダイナモは、一言で言えば「元気なヤツ」。著者が会ってきた変革リーダーやイノベーション物語の先頭に立つ人は、ほぼ例外なくダイナモ人材である。彼らの話は面白く、自然とひきつけられる。明るい未来に向かい、できると信じて疑わず、本気度を基に一人称で語り、行動を伴う。聞いている側に直接関係のない話でも、ついつい「お供します!」と言いたくなるような伝染力が、ダイナモにはあるのだ。目的に突き動かされ、分析よりも主観(思い)を大切にし、証明(確かめる)よりも実験(やってみる)を好む。決められたことを決められた通りに実行することは、必ずしも得意ではなかったりするが、人が気づかない困りごとを探し出し、その解決を目的として掲げ、人を巻き込みながら新たな活動を連続的に起こしていくのである。
企業変革やイノベーションの実現に迫られた今、あなたの組織が最も必要としているのは、言われたことをそつなくこなす従来型の「優秀な人材」ではなく、目的に向かって自ら行動を起こし、必要とあらば計画やルールから逸脱できる「元気なヤツ(ダイナモ)」ではないか。
しかし、もともと希少とはいえ一定数存在したダイナモは、今の日本の組織には、ほとんど見られなくなってしまった。一体なぜだろうか。
経営者がダイナモを登用してこなかった、組織文化になじまなかった、いろいろな答え方があるだろう。筆者は、「日本企業が重視してきた経営原則には、ダイナモを排除する強力な力学が働いていたからだ」と考える。経営者や管理職が悪意を持ってダイナモを排除したのではなく、現在の経営原則と経営システムが強化されるうちに、ダイナモの居場所が奪われ、次世代のダイナモが育つ機会を摘み取ってしまったのだ。失われた30年とは、イノベーションや変革の原動力となる人材を、知らず知らずのうちに一掃してしまった年月でもある。
現在と5年後の課題認識にほとんど変わりがない
日本経済が低空飛行を続けた平成の間、日本企業は大きく地盤沈下した。企業の時価総額を見ても、平成元年には世界のトップ5を日本企業が独占し、上位30社の約7割を日本企業が占めていたが、平成31年(平成最後の年)に上位30社に残った日本企業は1社もない(最高位はトヨタ自動車の43位)。まさに、隔世の感がある。
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