イノベーション創出・実現のコンサルティングファーム、i.labのマネージングディレクターである横田幸信氏が先進企業のイノベーション担当者に取材し、どうすれば企業はイノベーションを実現できるかを現場の声から明らかにしていく。5回目からは3回にわたり、ポーラ・オルビスグループの研究開発体制について4人のキーパーソンに聞いた。今回は前編。

ポーラ・オルビスホールディングスのグループ研究・知財薬事センター担当執行役員の末延則子氏(写真/丸毛 透)
ポーラ・オルビスホールディングスのグループ研究・知財薬事センター担当執行役員の末延則子氏(写真/丸毛 透)
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横田幸信氏(以下、横田) 今回はポーラ・オルビスグループのイノベーション組織について、お聞きしたいと思います。化粧品メーカーとして知られるポーラ・オルビスグループですが、化粧品だけにとらわれることなく、さまざまな研究によって新しい価値創出を行っているとお聞きしています。

 新たな価値創出のため、グループ全体における研究統括の戦略機能をポーラ・オルビスホールディングスの「Multiple Intelligence Research Center」(以下、MIRC)に集約し、グループ企業であるポーラ化成工業の「Frontier Research Center」(以下、FRC)でMIRCで決定した戦略に基づき研究開発することで、新規事業へと展開しています。その両組織の双子のような関係性はとても特徴的だと思いますので、今回のインタビューでは両組織の役割の違いや連携方法について、徐々に深堀りしていきたいと思っています。まずはイノベーション推進に関するお考えから教えてください。

ポーラ・オルビスグループ研究部門のイノベーション推進体制。グループ全体の研究統括はポーラ・オルビスホールディングスの「Multiple Intelligence Research Center(MIRC)」が担い、ポーラ化成工業の「Frontier Research Center(FRC)」で基礎的な研究を行い、製品開発は製品設計開発部など別の部門で実施。MIRCやFRCは化粧品以外の新規事業も手がける(ポーラ・オルビスホールディングスのサイトより)
ポーラ・オルビスグループ研究部門のイノベーション推進体制。グループ全体の研究統括はポーラ・オルビスホールディングスの「Multiple Intelligence Research Center(MIRC)」が担い、ポーラ化成工業の「Frontier Research Center(FRC)」で基礎的な研究を行い、製品開発は製品設計開発部など別の部門で実施。MIRCやFRCは化粧品以外の新規事業も手がける(ポーラ・オルビスホールディングスのサイトより)
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末延則子氏(以下、末延) イノベーション実現に向けて当社には大きく2つの流れがあります。1つはポーラ・オルビスホールディングスの総合企画室が推進している流れで、例えばD2C(Direct to Consumer)の事業展開や美容関連、流通関連の技術投資などを手がけています。外部と当社グループのシナジーを生み出す新価値創出を行っており、ウェブマーケティングなどを得意とする人材などが在籍しています。もう1つの流れは私たちが所属する研究部門の流れで、新技術を開発するために研究統括のMIRCや、基盤研究のFRCと呼ぶ組織を置いています。

横田 なるほど。そうした複数の研究部門間の強い相互作用を前提としたイノベーションの組織は、日本の大手メーカーではまだ珍しいですね。

末延 そうですね。MIRCとFRCによって、私たちは当社の強みである技術に立脚しながら、化粧品の枠を超えた新しい価値を生み出していこうとしています。私たちが生み出してきた技術は今まで、まずは化粧品として使うというアプローチでした。しかし切り口を変えたら、まだ皆さんが知らないような、化粧品とは違う感動をお届けできるのではないか、新しい価値に変えていけるかもしれないと考えて2018年に同時にMIRCとFRCを新たに設立し、新しい価値の創出に向けて取り組んでいます。

 世の中にない新たな問いを立て、それを技術力で解決することで、感性あふれる独自価値を創出するプロ集団になる、というのが私たちのビジョンです。このため従来、ポーラ化成工業の研究部門で手がけてきた業務を見直し、ホールディングスとポーラ化粧品工業に役割を分けました。グループ全体の研究戦略をつくる部門としてホールディングスにMIRCを置き、実現していく部門をポーラ化成工業のFRCに置きました。MIRCではグループの研究戦略や次世代ニーズの探索などを主に手がけ、FRCでは皮膚科学やデジタル関連などの最先端技術を研究しており、両部門が連携しながら価値創造を行っています。設立以来、現在も私は執行役員および取締役として両部門を統括しています。

横田 「化粧品の枠を超える」というキーワードを意識した組織とすると、化粧品の枠の中は、ほかの部門が担当するのでしょうか。

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