イノベーション創出・実現のコンサルティングファームi.labの横田幸信マネージングディレクターが先進企業のイノベーション担当者に取材し、どうすれば企業はイノベーションを実現できるかを現場の声から明らかにしていく。3回目と4回目は、LIXIL(リクシル)のイノベーションに向けた新しい組織の事例を取り上げる。

LIXILが開催する技術イベント「Technology Exhibition」が、イノベーションに向けて社内で情報を共有する場にもなる。生活者の新たな価値観とは何か、それによって暮らし方がどう変わるのかなどを考えながら製品開発を続けていく(写真提供/LIXIL)
LIXILが開催する技術イベント「Technology Exhibition」が、イノベーションに向けて社内で情報を共有する場にもなる。生活者の新たな価値観とは何か、それによって暮らし方がどう変わるのかなどを考えながら製品開発を続けていく(写真提供/LIXIL)

横田幸信氏(以下、横田) 私はイノベーションについて10年ぐらい追求していますが、いかに新規事業のアイデアを生み出すかという点から、新規事業のアイデアを持続的に生み出せる組織をどうつくるのかに関心が移ってきています。イノベーションを生み出す組織をどう設計し、方針や戦略をどう共有し、実行していくかが問われています。そこで連載として、イノベーションを打ち出している先進的な企業にお伺いし、どのような組織を、どうマネジメントしているかをお聞きしたいと思いました。

 LIXILは、2016年にテクノロジーリサーチ本部を立ち上げ、現在はテクノロジーイノベーション本部として事業創出活動を行っています。戦略企画部はCTO(最高技術責任者)直下として、テクノロジーイノベーション本部と連携しつつ、生活者や社会の動きを探り事業部側と情報共有していると聞きます。通常、こうした組織はマーケティング部門や経営企画部門などが担当する例が多いので、非常に関心を持った次第です。常務役員CTO&CSO(最高戦略責任者)テクノロジーイノベーション本部リーダーの迎 宇宙氏、戦略企画部リーダーの本村雅洋氏、戦略企画部戦略デザイングループリーダーの桝 泰将氏にお話をお聞きします。i.lab側からもシニアディレクターの杉江周平が参加し、皆さんに質問させていただきます。

迎 宇宙氏(以下、迎) よろしくお願いします。

「製品の新しい価値を考えるとなると、新しいアプローチが必要になる」と話す常務役員CTO&CSOテクノロジーイノベーション本部リーダーの迎 宇宙氏(写真/丸毛 透)
「製品の新しい価値を考えるとなると、新しいアプローチが必要になる」と話す常務役員CTO&CSOテクノロジーイノベーション本部リーダーの迎 宇宙氏(写真/丸毛 透)
「5年先、10年先の社会がどうなっているかをしっかりと洞察していく」と話す戦略企画部リーダーの本村雅洋氏(写真/丸毛 透)
「5年先、10年先の社会がどうなっているかをしっかりと洞察していく」と話す戦略企画部リーダーの本村雅洋氏(写真/丸毛 透)
「事業部の課題をうまく整理するのも我々の仕事になる」と語る戦略企画部戦略デザイングループリーダーの桝 泰将氏(写真/丸毛 透)
「事業部の課題をうまく整理するのも我々の仕事になる」と語る戦略企画部戦略デザイングループリーダーの桝 泰将氏(写真/丸毛 透)

横田 まずは、戦略企画部の役割やミッションについてお聞かせください。

本村雅洋氏(以下、本村) メガトレンドや変化の兆しといったものをリサーチし、5年先、10年先の社会をしっかりと洞察することが目的です。社会と人とテクノロジーの3つの視点で考察をして、新しい世界観、新しい価値観を探り出し、社内で共有しながら、中長期の戦略をつくっていきます。トレンドをまとめた「Technology Report」も毎年作り、社内に配布しています。将来どんなところにどんな価値観が生まれるのか、どんな機能、どんな技術が必要なのかを議論していきます。共有、共感して共働するという3つのステップで進めています。

 なぜ、こんなことを実施しているかといえば、私が以前に研究所の所長を務めていたとき、研究所のテーマがなかなか事業部に引き取ってもらえないという現実があったからです。なぜ引き取ってもらえないのか、それは共感してもらっていないからです。テーマのスタート段階では「いいね」と言われますが、具体的な形や物になってくると次第に「それは難しい」という話になってしまう。

 だから、事業部には先に「未来の飛行場の着陸許可」をもらいに行こうと。飛んだテーマが事業部に着陸できるようにしておかないと、この先うまくいかないのではないかという思いがありました。1つの世界観とか1つの絵というのを共有するためにTechnology Reportを作りながら、事業部と未来をつくり上げている、という感じですね。

「Technology Report」の一例(写真/丸毛透)
「Technology Report」の一例(写真/丸毛透)
メガトレンドや変化の兆しから5年先、10年先の社会の動きを洞察して掲載(写真/丸毛 透)
メガトレンドや変化の兆しから5年先、10年先の社会の動きを洞察して掲載(写真/丸毛 透)
「Technology Report」は各部門に配布し、意識の共有につなげる(写真/丸毛 透)
「Technology Report」は各部門に配布し、意識の共有につなげる(写真/丸毛 透)
事業部と「Technology Report」の内容について共有。現在はコロナ禍のためオンラインで実施しているが、大勢の参加者が集まるほど関心は高い(写真提供/LIXIL)
事業部と「Technology Report」の内容について共有。現在はコロナ禍のためオンラインで実施しているが、大勢の参加者が集まるほど関心は高い(写真提供/LIXIL)

桝 泰将氏(以下、桝) 我々は戦略部とは言いながら、事業戦略的なものをつくっているわけではありません。各部門が戦略をつくるための下地をつくっているという役割です。ベースとなるのは、やはり生活者を見ましょうということです。その前提として社会を見ましょうと。

変化への適応を自分ごととして考えてもらう

横田 そうしたミッションを持った組織を新たにつくった理由は何でしょうか。

「戦略企画部の役割は非常に重要になる」とi.labマネージングディレクターの横田幸信氏(写真/丸毛 透)
「戦略企画部の役割は非常に重要になる」とi.labマネージングディレクターの横田幸信氏(写真/丸毛 透)

 事業部で新たに情報を収集するとなると、そのために人手を割くことは現実問題として難しい。もちろん市場と接している事業部には、自分の耳や目で感じている情報はあるでしょう。重要な点は、両方の情報を持ち寄り、融合させることです。事業部がインスパイアされて、新しいアイデアを生み出せるようにすることが大事です。彼らが自分の腹の底から、納得してもらわないとスムーズには動きません。だから我々がやっているのは、いわば地ならしのようなものです。社内を盛り上げ、自分ごととして考えてもらうわけです。

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