本連載では、方法論としてのデザイン思考をどうやって企業の具体的なイノベーションに結び付けるかを学んでいく。これまではイノベーションの種類、不確実性というイノベーションの本質、オペレーションとの違いについて取り上げた。今回から、どのようにしてイノベーション戦略を構築するかを解説していく。

前回(第6回)はこちら

 前回までは、戦略構築の際に重要となるイノベーション環境の理解や戦略についての考え方を紹介しました。今回からは、これまで紹介した知見を踏まえながら効果的にイノベーション戦略を構築するためのフレームワークを説明していきます。具体的には、戦略構築のためのフレームワーク、フレームワークを活用する際のポイントなどに焦点を当てます。これらの要素を押さえることで、イノベーション活動に対するやみくもな投資や実行を避けながら、効果的な活動が期待できます。

 イノベーション戦略を構築するための枠組みとして、「NCS理論」と呼ぶ考え方を紹介します。NCSは”Nature - Culture - Structure”(特質-文化-構造)の略称です。この理論の源流は、社会学のシステム理論と経済学のゲーム理論が土台となっています[1]。まずNCS理論について説明したうえで、この理論を活用してどのようにイノベーション戦略を構築するのかに触れます。

イノベーション戦略は統合的な視点で構築する

 連載の1回目で掲載した下の図は、イノベーションという現象を社外の環境と社内の環境の両方の視点で整理したものです。社外か社内のどちらか一方だけの状況に焦点を当てたイノベーション戦略は役に立たない可能性が高く、組織の外にあるものと、組織の中にあるものの両方をうまく取り込む必要があります。例えば、ドローンのビジネスを始めるのであれば、社会や業界の動向に目を向けつつ、組織内でドローン事業を展開するチームをうまくつくる必要があります。この図の示唆は「単一の視点のみで戦略を構築することはできない」ということです。

イノベーションにおける3つの活動単位(筆者作成)
イノベーションにおける3つの活動単位(筆者作成)

 イノベーション領域の整理を踏まえつつ、NCS理論ではイノベーション自体を「新しい市場をつくるゲーム」と捉えます。そして、そのゲームで高得点を取るためには、どんな要素が必要なのかを記述しています。

 例えば、サッカーという競技を1つのゲームとして考えてみましょう。どんなにサッカー選手としての優れた素養がある人でも、サッカーというゲームの特質(試合時間の長さやフィールドの広さ、サッカーは足を使うゲームである、といった基本的なこと)、つまりネイチャー(Nature)を理解していなければ、継続的に成果を出すことはできません。

 たとえネイチャーを理解していても、メンバーのやる気が低く、「強いチームにはどうせ勝てない」という考え、つまりカルチャー(Culture)が浸透していると、勝てたはずの試合に負けてしまう可能性が高くなります。ルールを理解し前向きな選手がいたとしても、監督が考えたチームのフォーメーションや監督の出す指示、つまりストラクチャー(Structure)がいいかげんであれば、やはり点を取りづらくなります。

ネイチャー、カルチャー、ストラクチャーの3点のバランスを取りながら戦略構築すべき(筆者作成)
ネイチャー、カルチャー、ストラクチャーの3点のバランスを取りながら戦略構築すべき(筆者作成)

一貫性がないから成果を出せない

 それでは、イノベーションというゲームで成果を出すには何が必要でしょうか。ここでも同様に、ネイチャー、カルチャー、ストラクチャーの3点のバランスを取りながら戦略構築すべきだと言えます。

 具体的には、組織の外で動いている社会や業界動態を踏まえながら、客観的な態度で世の中の状況を把握する必要があります。これがネイチャーに当たります。そして、ネイチャーとは逆の環境である社内の様子も重要です。

 社内の環境において大きな影響を与える要素は2つあります。1つが、言語化されていないが、集団の信念を土台とした非公式ルール、つまりカルチャーです。リスクを取ることを「好ましい」「ぜひやるべきだ」と考えている人たちだけで構成される組織では、「リスクを取ることは正しいこと」だと暗黙的に理解され、実際にそのような行動が多く見られるようになります。

 もう1つがカルチャーとは異なり、言語化され共有されている集団の公式ルール、つまりストラクチャーになります。就業規則や昇進基準といった会社の正式ルールに「リスクを取ってチャレンジすること」という項目があれば、その行動を守った人は社内で公式に評価されます。

 カルチャーとストラクチャーの相乗効果によって高い成果を期待できる一方、両者がかみ合っていないと組織のパフォーマンス発揮は阻害されます。極めて保守的な人たちが集まっていて「リスクは取らないほうが正しい」というカルチャーが強い組織において、挑戦した人を肯定的に評価するストラクチャーを導入しても、誰も何もしないということが起こり得ます。なぜなら、カルチャーのほうがストラクチャーより影響力は強いからです。

 チャレンジしなければ罰則を与えるといった強力な公式ルールを導入すれば、ある程度のチャレンジは促せるかもしれません。しかし、最終的には「この会社は合わないので辞めたい」ということにもなり得ます。成果を出せる企業と頑張っても成果が出ない企業の違いは、3つの要素において一貫性があるかどうかでしょう。一貫性を持たせることが、組織のパフォーマンスを高めるうえでとても重要です。

NCSの各要素の特徴やポイントを整理した表(筆者作成)
NCSの各要素の特徴やポイントを整理した表(筆者作成)

参考文献
  • [1] NCS理論は以下の資料を土台に記載しています。
    • Kashino、T. & Sawatani、Y. (2020) The Nature-Culture-Structure Paradigm of How Design Contributes to Sustainable Advantages at the Organizational Level. Strategic Management Society Special Conference: Designing the Future: Strategy、Technology、and Society in the 4th Industrial Revolution、Berkeley、USA、25-27 March、2020.
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