
学校の制服にジェンダーレスの動きが拡大している。Z世代の中学・高校生に詰め襟やセーラー服以外の選択肢が増え、マーケターにとっても商品開発のヒントになるだろう。「トンボ学生服」のブランドで知られ、学生服を製造・販売するトンボ(岡山市)は「ジェンダーレス制服」を他社に先駆け2015年からいち早く開発。特に、そのうちの1つとしてデザインした女子用スラックスが、21年4月から1000の中学・高校が採用するヒット商品になった。
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トンボのジェンダーレス制服とは1つの制服を意味するのではなく、男子用や女子用といった性差を感じさせない制服アイテムの総称であり、さまざまな種類を備えている。女子用スラックスの他、校内着用に独自のブルゾン風ジャケット、男女共通の柄にした服などもある。通常のブレザーやスカートなどに加え、それらから学校が自由に選択できるようにした。
女子用スラックスは、男女の性差を問わないジェンダーレスという言葉が18年ごろからメディアに登場するにつれ、多様性に配慮した学校が注目した。トンボ全体の売上高は約384億円(20年6月期)で、このうち女子用スラックスも含めたジェンダーレス制服の割合は非公開だが、今後にさらなる期待がかかる。
アパレルや美容関連に比べ、学校の制服はマーケターにとってはニッチな市場かもしれない。だが中学・高校生にとっては避けて通れず、しかも社会性や公共性が問われる分野といえる。一般のアパレルには誰が何を着てもよいという自由さがあるが、制服はそうはいかない。
男子生徒は詰め襟だったり女子生徒はセーラー服が多かったりする傾向が強く、制服での性差は歴然としている。上がブレザーの場合でも、男子生徒はスラックスで、女子生徒はスカートがほとんどだろう。しかし今後、新たに制服を導入しようとする学校の多くは、多様性の流れを強く意識している。他分野のマーケターにとっても今後、ジェンダーレスというキーワードで商品開発するときのポイントを学べるに違いない。
例えば、ジェンダーレス制服というと一部の生徒向けのように思われるが、トンボが目指すのは性差を問わず、すべての生徒が自分の好きな制服を楽しく着てもらうこと。開発するに当たり「制服は何のためにあるのか」「ジェンダーレスなら男女同じ制服でいいのでは」「生徒にとって心地よい制服とは何か」を考えたり調査したりしたという。
結果、「制服はフォーマルウエア」であり「ユニセックスのデザインでは体形の男女差に対応できない」とし、「すべての生徒が満足できる制服」が重要と判断。すべての生徒に精神的な負担をかけず、さりげない配慮があり、最良の着心地を提供することを目標にした。そこで「制服の選択肢を増やす」ことや、「性差を感じさせない制服のデザイン」にする、さらに「多様性を受け入れるための環境づくり」を念頭に置いて推進した。
ジェンダーレス制服の一例として、女子用スラックスを見てみよう。同様な女子用スラックスは他社も発売しているが、トンボは絶対的な自信があるという。それはデザインが独特だからだ。
男子用に見える女子用スラックス
トンボは女子用スラックスのデザインに、さまざまな工夫を盛り込んだ。男子と女子ではウエストやヒップなど体形が異なるため、男子用スラックスをそのまま女子生徒が着用するのは難しいからだ。一般的な女子用スラックスは「女性らしさ」を強調したデザインが多く、むしろ性差を強調しかねない。
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