富士通の社員で、「Ontenna」の開発者である本多達也氏による全10回の連載「共感から生まれるイノベーション」。今回は特別編として、「共感経営」を提唱する一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏に、本多達也氏が「共感」の本質について聞いた。
一橋大学名誉教授
・連載「共感から生まれるイノベーション」はこちら
一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏とジャーナリスト勝見明氏の著書『共感経営「物語戦略」で輝く現場』で、「共感経営において、共感に基づく上層部の支援が何より必要である」という参考事例として、Ontennaの開発プロセスが紹介されている。リクルートの研究機関「リクルートワークス研究所」でも、野中氏自らOntennaについて読み解いている。
本多達也氏(以下、本多) Ontennaは多くの方の共感を集めて、製品化することができました。Ontennaの本質的な意義や意味について、野中先生はどう思われますか。
野中郁次郎氏(以下、野中) 私は耳が聞こえづらくなったので、少し前からオーティコンというデンマークのメーカーの補聴器を利用しています。この会社は、補聴器を世界最小のコンピュータとして捉えており「ライフ・チェンジング・テクノロジー/Life-Changing Technology」というミッションを掲げています。補聴器を使うことは創造的人生のための手段であり、難聴による制限のない世界を目指していくという内容です。難聴に悩む人の心に寄り添いながら、ユーザーごとの聴力に合わせてカスタマイズしており、クオリティー・オブ・ライフのための解決策を提供する会社として進化し続けています。Ontennaも、オーティコンのようになってきたのではないでしょうか。
本多 ありがとうございます。私の研究のテーマは「聴覚の拡張」で、Ontennaは聴覚障害によるマイナスをゼロにするのではなく、マイナスをプラスにしていくイメージで聴覚障害者と共に開発しました。開発を進める中で、耳が聞こえる方でも活用できる可能性があると気づきました。例えば、高速道路などコンクリート構造物の安全点検は、ハンマーでたたいた音で劣化具合を判断しています。安全な音とそうじゃない音を聞き分けられるようになるまで、10年はかかるそうです。その音の違いをOntennaに学習させることができれば、経験が浅い人でも安全点検が可能になります。
あと、オーティコンの補聴器のパーソナライゼーションのお話も、Ontennaが目指していることの1つです。聴覚障害といっても、人それぞれ状況は違います。生まれたときから聞こえない方もいれば、何かきっかけがあって途中で聞こえづらくなった方もいる。聞こえ方についても、まったく聞こえない方もいれば、ほんの少し聞こえているという方もいる。そうした様々な方とお会いして、1つのプロダクトだけで全員を幸せにするのは不可能だと気づきました。そこで、プログラミングの機能を持たせ、一人ひとりに寄り添ってそれぞれの問題を解決していく手がかりになれば、と思っています。
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