ヘアピンのように髪の毛に装着し、振動と光によって音の特徴をユーザーに伝える新しいデバイス「Ontenna」の開発者である富士通の本多達也氏は、「夢を実現させるためには、周りの“共感”を生み出すことが大切」という。多くの人々を巻き込み、動かすための「共感」を生み出すヒントを紹介する連載の第9回は、「可能性の余白をつくる」ことの重要性について。
前回の記事では、「ストーリーを添える」ということについてお話しさせていただきました。記者発表のプレゼンテーションで学生時代から製品化までの道のりを伝えたこと、メインビジュアルにはろう学校に通う子どもたちを起用したこと、コピーライトは聴覚障がいがあるコピーライターの方にお願いしたことなど、プロジェクトの背景にあるストーリーを添えることで、より強い共感を生み出すことができました。
今回は、「可能性の余白をつくる」ことについて、2017年から落合陽一さんをはじめ、仲間と共に行っている国の研究プロジェクト「xDiversity(クロス・ダイバーシティ)」の活動を通してお伝えします。
「Ontenna」は、振動と光によって音の特徴を体で感じるアクセサリー型の装置。髪の毛や耳たぶ、えり元やそで口などに付けて使う。特徴は、音の大きさを振動と光の強さにリアルタイムに変換し、リズムやパターン、大きさといった音の特徴をユーザーに伝達できること。さらに、コントローラーを使うと複数のOntennaを同時に制御でき、ユーザーごとに任意にリズムを伝えることも可能。
Ontennaは、機能がとてもシンプルなので、発展の余地があります。つまり「将来的に、こんなこともできるようになるかもしれない」という「可能性の余白」がある商品ともいえるでしょう。そのためOntennaを使ってみると、新しい使い方やアイデアがひらめきやすく、異業種の方々からコラボレーションのご相談を頂くことも多いのだと思います。その結果、より多くの人々の共感を引き出せると考えています。
ポイントは、Ontennaの可能性の余白を示すこと。その実例として、AI(人工知能)とOntennaを組み合わせた研究活動や、Ontennaを好きな色や振動の強さにプログラミングできる機能をご紹介します。
xDiversityの始まり
17年5月、突然、筑波大学の落合陽一さんから「本多さん! 一緒にCREST(クレスト)出しませんか?」とFacebookのメッセンジャーで連絡がありました。CRESTとは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が推進する国のプロジェクトで、科学技術イノベーションにつながる卓越した成果を生み出すネットワーク型の研究です。研究期間は5.5年以内、研究費は1チーム当たり1.5億~5億円です。
落合さんと私は、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が行う「未踏IT人材発掘・育成事業」において先輩後輩の関係で、学生時代からお世話になっていました。社会人になってもイベントで一緒に登壇する機会があったり、海外のカンファレンスに出席したり、交流を続けていました。その関係で声をかけていただき、落合さんと一緒にCRESTの書類審査とプレゼンテーション審査に挑むこととなりました。採択率は約10%という狭き門でしたが、無事に審査を通過し、17年10月からプロジェクトをスタートさせました。
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