ヘアピンのように髪の毛に装着し、振動と光によって音の特徴をユーザーに伝える新しいデバイス「Ontenna」の開発者である富士通の本多達也氏は、「夢を実現させるためには、周りの“共感”を生み出すことが大切」という。多くの人々を巻き込み、動かすための「共感」を生み出すヒントを紹介する連載の第8回は、「ストーリーを添える」ことの重要性について。

(イラスト/Han Yun Liang)
(イラスト/Han Yun Liang)

「Ontenna」は、振動と光によって音の特徴を体で感じるアクセサリー型の装置。髪の毛や耳たぶ、えり元やそで口などに付けて使う。特徴は、音の大きさを振動と光の強さにリアルタイムに変換し、リズムやパターン、大きさといった音の特徴をユーザーに伝達できること。さらに、コントローラーを使うと複数のOntennaを同時に制御でき、ユーザーごとに任意にリズムを伝えることも可能。

 前回の記事では、「それぞれの得意を生かす」ということについてお話しさせていただきました。Ontennaプロジェクトのメンバー全員が力を合わせ、「本当にろう学校の子供たちに使ってもらえるものを作ろう」と必死になって開発しました。量産のフェーズに入っても、ギリギリまで自分たちが作ったものをろう学校の子供たちや先生に見てもらい、フィードバックをもらってはまた作り直すということを繰り返しました。チームのメンバーのスペシャリティーを信じ、それぞれが思いを持って開発に取り組める雰囲気づくりが、よりよいアウトプットを生み出すための秘訣です。

 こうして、ようやく誕生したOntennaが、いよいよ全国のろう学校に届けられることとなりました。今回は、Ontennaプロジェクトの魅力を最大限に発信するためのプロモーション制作から、ローンチ記者発表、そしてエキシビションに至るまで、プロジェクトへの共感を最大限引き出すためのヒント「ストーリーを添える」についてお伝えします。

全国聾学校長会との連携

 ろう学校の先生方、子供たちに支えられ、ようやく製品版のOntennaが完成しました。「これでやっと子供たちにOntennaを届けられる!」と、気持ちが高まる一方、どのようにして全国にあるろう学校に届けるのが効果的かつ効率的であるかを考えました。そこで、テストマーケティングにご協力いただいたろう学校の校長先生にご相談したところ、「全国聾学校長会と連携しながら配布を進めるのはどうだろう」という案が上がりました。

 全国聾学校長会の会長である、立川ろう学校の村野一臣校長先生をご紹介いただき、実際にお会いしてプレゼンテーションをさせていただきました。村野校長先生に「Ontennaを全国のろう学校に届けたいんです」ということを伝えたところ、「学生時代に手話を学んだことがきっかけで、このような機器の開発につながったこと、とてもすばらしいと思います。本来であれば、特定の企業活動に対して何かするということは難しいのですが、Ontennaを広めるためにお力添えをさせてください」とおっしゃってくれました。

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