ヘアピンのように髪の毛に装着し、振動と光によって音の特徴をユーザーに伝える新しいデバイス「Ontenna」の開発者である富士通の本多達也氏は、「夢を実現させるためには、周りの“共感”を生み出すことが大切」という。多くの人々を巻き込み、動かすための「共感」を生み出すヒントを紹介する連載の第4回は、「笑顔を創造する」ことの重要性について。

(イラスト/Han Yun Liang)
(イラスト/Han Yun Liang)

 前回の記事では、共感を生み出すために「外部評価を獲得する」効果やメリットについてお伝えしました。社外から社内にもたらす影響力の法則を活用することで、プロジェクトを推進させ、協力してくれる関係者を増やしていけるという内容です。

 プロジェクトを立ち上げてから約1年。「Ontenna」に関するお問い合わせやコラボレーションに関する声掛けも、外部評価が高まるに比例して少しずつ増えていきました。特に引き合いが多かったのは、映画、スポーツ、伝統芸能、音楽といったエンターテインメント分野からの問い合わせです。

 様々なコラボレーションを多く生み出すために、プレゼンテーションやWebサイト、展示会などで意識的に行っていたことがあります。それは、単なるOntennaの機能説明だけではなく、Ontennaを使うことでユーザーがどのように「笑顔」になるのかを伝えることです。

 つまり、機能的価値よりも情緒的価値を伝えるようにしていたのです。商品やサービスを評価する指標は世の中にたくさんあります。様々なケースに応じてアンケートやインタビューをし、ロジカルにユーザーにアプローチする行為はとても大切です。しかし、最後はユーザーがどのような反応をしているかが一番の説得力であり、ユーザーの「笑顔」が多くの共感を生み出すことができると考えていたからです。

「Ontenna」は、振動と光によって音の特徴を体で感じるアクセサリー型の装置。髪の毛や耳たぶ、えり元やそで口などに付けて使う。特徴は、音の大きさを振動と光の強さにリアルタイムに変換し、リズムやパターン、大きさといった音の特徴をユーザーに伝達できること。さらに、コントローラーを使うと複数のOntennaを同時に制御でき、ユーザーごとに任意にリズムを伝えることも可能。

 生まれたての赤ちゃんが、新生児微笑といって無意識にニコッと笑うように、人間の遺伝子の中には本能的に「笑顔」が刻まれているのかもしれません。ユーザーが心から笑顔になっている姿は、周りの人まで笑顔にして、パワーを与えてくれるものです。そのため、どのようにしたらユーザーが心から笑顔になれるのかということを考え、体験をデザインするようにしていました。

 例えば、サッカー好きのろう者から、「サッカー会場の盛り上がりや応援の音を感じたい」という意見をインタビューで得ていました。そこで「Ontennaを使うことでろう者の方がエンターテインメント会場の雰囲気を感じることができ、笑顔になれる体験をつくり出す」というコンセプトを打ち出し、展示会ではユーザーの意見や使用シーンをイメージできるイラストで説明するようにしました。

 Ontennaを使えば聴覚障がい者の方が笑顔になれる体験をつくり出せる「可能性」を言語化・可視化し、まずは存在を知ってもらうきっかけをつくりました。

Ontennaで会場の雰囲気を感じることができる、新しい映画体験ができるという可能性をイラストで可視化し、Webや展示会にて展開
Ontennaで会場の雰囲気を感じることができる、新しい映画体験ができるという可能性をイラストで可視化し、Webや展示会にて展開

 その結果、川崎フロンターレのサッカー観戦で、Ontennaを活用するチャンスを得ることができました。きっかけは、社内の展示会を通じて、当時、富士通マーケティング(現:富士通ジャパン)の執行役員をしていた浅香直也執行役がOntennaに興味を持ってくれたことです。川崎フロンターレの関係者を紹介してもらうことができました。

 2017年9月30日、川崎フロンターレのホームスタジアムである等々力陸上競技場に、招待したサッカー好きのろう者6人とともに、Ontennaを付けてサッカーを観戦しました。Ontennaは、会場の音の大きさに応じて振動・発光するように設定。サッカー観戦におけるOntennaの可能性を検証することが、私たちのミッションの1つでした。

 試合が始まると会場の歓声や応援のリズム、太鼓の音に合わせてOntennaがリアルタイムに振動し、それらの音の特徴をOntennaユーザーに伝えていきます。選手がシュートを打つと、「うわー!」と会場が盛り上がり、そのたびにOntennaが強く振動します。

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