ヘアピンのように髪の毛に装着し、振動と光によって音の特徴をユーザーに伝える新しいデバイス「Ontenna」の開発者である富士通の本多達也氏は、「夢を実現させるためには、周りの“共感”を生み出すことが大切」という。多くの人々を巻き込み、動かすための「共感」を生み出すヒントを紹介する連載の第3回は、「外部評価を獲得する」ことの重要性について。

(イラスト/Han Yun Liang)
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 前回の記事では、「ビジョンを語る」ことについてお話ししました。ビジョンを語ることで、「思い」に共感して協力してくれる仲間やパートナーを得ることができ、ブランディングにおいても「Ontenna」の世界観を形成してメッセージを強く打ち出すことができました。こうして少しずつ共感の輪が広がっていく中、Ontennaの製品化に向けて意識的に行っていたことがあります。それは、「外部評価を獲得する」ことです。

 社内の人たちにビジョンを語り、共感してくれる仲間を集めることはとても大切です。ただ、それだけでは、数字で判断する上層部や、リスクを恐れる層からの圧力により、プロジェクトが潰されてしまう可能性もあります。

 そこで、私が意識して行ったのは、社内ではなく社外に向けてプロジェクトを積極的に発信し、評価を獲得することです。「Ontennaは富士通のプロジェクトである」というイメージを社会に広めることで、社内に「Ontennaのプロジェクトを続けることが当然」というムードをつくっていこうと考えたのです。

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「Ontenna」は、振動と光によって音の特徴を体で感じるアクセサリー型の装置。髪の毛や耳たぶ、えり元やそで口などに付けて使う。特徴は、音の大きさを振動と光の強さにリアルタイムで変換し、リズムやパターン、大きさといった音の特徴をユーザーに伝達できること。さらに、コントローラーを使うと複数のOntennaを同時に制御でき、ユーザーごとに任意にリズムを伝えることも可能。

 社外評価とは、単に有名な賞を獲得するというだけではありません。年齢、性別、国籍の違いを超えた多くの人たちに知ってもらい、「共感を獲得する」ということです。そのために、国内外の展示会への出展、企業訪問、SNSでの発信、取材対応など、外部へのアピールを意識的に行いました。

 外部評価獲得のためにチャレンジした2016年の「グッドデザイン賞」では、グッドデザイン特別賞[未来づくり]を富士通で初めて受賞。それに伴い、社内でプロジェクトの“市民権”を獲得し、「個人のプロジェクト」から「組織のプロジェクト」に少しずつ変えていくことができました。

 さらに、国内外での評価が伴ってくると、社内の役員たちが自らのプレゼンでOntennaを紹介してくれるようになりました。トップダウンの動きにより、Ontennaが認知されるスピードが格段にアップしました。

 特に有効だったのは海外からの評価です。国内の評価はもちろんですが、海外での評価が社内の共感を生む大きな後押しになると感じました。「海外の人たちも評価をしてくれていますよ。グローバルにも通用する取り組みですよ」というムードをつくり出すことも意識して取り組んでいたことの一つでした。やはり、デザイン思考やメイカーズムーブメントなど、海外ではやったものを取り入れようとする日本企業独特の雰囲気があるような気がしています。

 そこで今回は、入社して1年半の間に意識的に行った「外部評価を獲得する」ということについてお話しします。社内での共感をさらに生み出すためにも、内からではなく外から攻めることの有効性について、これまでの海外展示会やデザインアワード出展などの事例を中心にお伝えしようと思います。

「グッドデザイン賞」授賞式の様子
「グッドデザイン賞」授賞式の様子
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初の海外出張、サンフランシスコでの展示会

 16年の「富士通フォーラム」以降、社内の認知度も少しずつ高まり、グループ会社の展示会やビジネスパートナーの講演会に呼んでいいただける機会も徐々に増えました。呼ばれた展示会では、手当たり次第にOntennaのパンフレットを配布し、あいさつをして、できる限り多くの人と名刺を交換し、Ontennaを知ってもらおうと必死に行動しました。

 そんな中、富士通フォーラムでOntennaの説明を聞いて感銘を受けたという別の部署のチームから、「J-POP SUMMIT」に一緒に出てみないかというお話をもらいました。J-POP SUMMITは、09年に米サンフランシスコで始まった米国最大級の日本のポップカルチャーイベントの一つです。音楽・IT・テクノロジー・ファッション・映画・トラベル・フード・アニメ・アート・ゲームなど日本の最新コンテンツを幅広く全米および世界へ紹介するフェスティバルです。

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