福岡市長として、スタートアップ支援政策をはじめとする行政改革を進め、人口増加率や市政税収の伸び率1位を実現。2022年11月に福岡市で過去最多票を獲得して圧勝し、4期目の再選を果たした高島宗一郎氏が、12月12日に自筆の絵本を出版した。空を飛ぶことを夢見るアヒルの子供が起業家と出会い、夢をかなえてビジネスを立ち上げるストーリーだ。現役市長はなぜ異色の「起業絵本」を書いたのか。
根性論だけで夢はかなわない
──福岡市は2012年に「スタートアップ都市」を宣言して以来、国家戦略特区への認定による法人税の軽減、起業支援施設の整備などを通じ、開業率が4年連続で政令指定都市で1位になるなど着実に成果を上げてきました。高島さんは市長として、市の"経営”を通じて得た知見をこれまでにも著作にまとめていますが、今回、子供向けに「起業」をテーマに絵本を書いたのはなぜですか?
10年間、福岡市でスタートアップを支援する政策を行ってきた中で、若い経営者をどのように育てていけばいいかを考えたとき、次世代を担う子供たちはもちろんのこと、その親世代にも直接メッセージを伝える必要があると考えたのです。
『アヒルちゃんの夢』は、自力では空を飛べないアヒルの子が、どうすれば空を飛ぶ夢をかなえられるのか試行錯誤した結果、想像もしなかったような方法にたどりつく。そこからクラウドファンディングで資金調達を行い、夢をかなえていくという物語です。
絵本を通じて「起業」という選択肢を知ってもらうとともに、自己実現にはそもそも様々な手段があることを伝えたかった。絵本の中では、空を飛べずに悩んでいるアヒルの子供に「羽をバタバタさせる練習をしよう」「何事も気合いだ!」などと、昔ながらの根性論を説くキャラクターも登場します。いくら努力をしても、やり方が間違っていたら夢は実現できない。技術やサービスが進歩している今の時代では、最適解を1つだと決めつけてがむしゃらに努力をするよりも、目標を達成するためにどのようなアプローチをすべきか、多角的に考える力が大事だと伝えたかった。仕事だって行政だって、様々な課題に対する正解は1つじゃありません。
こうしたメッセージを絵本に込めた背景には、日本の教育を変えるにはかなりの時間がかかるという危機感があります。今の日本には起業しやすい環境も整いつつあり、経営者は税制面でも優遇されている。しかし、いまだに日本の教育は企業に就職する将来を想定した内容に偏っていて、自ら事業を起こす人材を輩出しにくい構造がある。絵本の中で根性論を押し付けてくる大人たちのように、「労働者」として汗水垂らして働くことのみを美徳とする、古い価値観も染み付いています。
このままでは日本から成長企業は生まれず、優れた人材は海外に流出してしまう。新しいビジネスを立ち上げる発想力や、企業や組織を成長させていくためのコミュニケーション力など、今後の日本を生きていくうえで必要となる能力は何かを子供に伝えたい。さらに親世代にとっても、自分たちが当たり前だと思ってきた教育や働き方が、今の時代にはもうフィットしないのではないかと、再考するきっかけになればと思い、絵本をつくりました。
「クラウドファンディングって何?」と子供から聞かれてほしい
──児童書の中に「クラウドファンディング」や「起業家」といった言葉が出てくるのは斬新です。
実は「クラウドファンディング」などのキーワードは、意図的に物語に登場させています。絵本の中に知らない言葉が出てきたら、子供は親にどういう意味なのか聞きますよね。大人でも完璧に説明するのは難しい言葉を、あえてそのまま入れておくことで、親子で一緒に調べてもらうきっかけをつくり、大人側にも起業に対する理解をアップデートしてもらうことを狙っている。当初は「Web3(ウエブスリー)」や「DAO(分散型自律組織)」なども組み込めないかと模索しましたが(笑)、最終的に親子で調べれば理解ができる範囲にとどめました。
──本作は絵も高島さんの自筆ですね。
正直に言うと、私は昔から絵を描くのは下手だったんです。中学校の美術の成績は10段階中の2でしたから、落ちこぼれですね。それが21年、現代アートにはまって若い作家の絵画を購入するようになったことをきっかけに、自分でも30年越しに描いてみたくなった。そこで、ホームセンターで水彩画セットをそろえて、昔からなぜかよく描いていたアヒルのキャラクターを、絵の具でちゃんと描いてみたんです。そしたら意外とかわいらしい(笑)
大人向けのビジネス書として書くと、それはあくまで「高島宗一郎の主張」ですが、絵本であれば、キャラクターが代弁してくれるので説教くさくならず、普遍的なメッセージとしてストレートに伝えることができると思ったのです。
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