ポッドキャストの人気歴史番組「COTEN RADIO(コテンラジオ)」。パーソナリティーを務める深井龍之介氏がこれまで番組で語ってきた内容を再構成した『歴史思考』(ダイヤモンド社)が2022年3月末に刊行され、既に2万部を増刷するなど注目を集めている。歴史上の人物や出来事によるケーススタディーを通じて、教養の価値を説く内容だ。深井氏が提唱する「歴史思考」とは何か。執筆の背景を聞いた。

深井氏は、人類の長い歴史を知り、俯瞰(ふかん)的な視点を身に付ければ「自分一人の悩み」から解放されると言う
深井氏は、人類の長い歴史を知り、俯瞰(ふかん)的な視点を身に付ければ「自分一人の悩み」から解放されると言う
COTEN代表 深井 龍之介 氏
ふかい・りゅうのすけ。1985年、島根県生まれ。九州大学文学部社会学研究室を卒業後、大手電機メーカーの経営企画部門に配属。2011年に独立後は、複数のスタートアップ・ベンチャー企業の経営に参画し、16年にCOTENを設立。世界史データベース「coten」を開発中
深井龍之介『歴史思考』(ダイヤモンド社)、2022年3月発売
深井龍之介『歴史思考』(ダイヤモンド社)、2022年3月発売

──初の著作となった『歴史思考』、キリスト、孔子、マハトマ・ガンジーからカーネル・サンダースまで、歴史上の様々な人物や出来事を扱ったケーススタディーを通じ、教養を持つことが現実の生活や人生設計、ビジネスにおいていかに重要かが語られています。

 「歴史思考」とは簡単に言えば、教養によって視野を広げ、人類が経験してきた歴史的事例を知ることにより、既存の常識や価値観にとらわれない考え方を得ることです。少しニュアンスは異なりますが、心理学用語では「メタ認知」と呼ばれるような、物事に対する俯瞰(ふかん)的な視点の持ち方を、僕はこう呼んでいます。

 現代は、そのような俯瞰的視点の必要性が高まっている時代です。なぜならかつてのように、社会や文化によって敷かれたレールから外れなければ幸せになれるという人生の定型が無くなり、すべてを自分で決断することが求められる時代が来たからです。自分はどのような価値観を持ち、どのような選択をして生きていくべきなのか。生き方を考えていくうえで、何が時代の新しい概念で何が古代から連綿と続く概念なのか、系譜を知ることにより、自分の悩みや迷いについても大きな視点から捉え、未来を選択することができるようになります。

「なぜ武士は戦う?」を説明するため、歴史を800年遡る

──各章で取り上げられている歴史への考察は、ポッドキャストの人気ランキングで上位を獲得し続けている歴史番組「COTEN RADIO」で、深井さんがパーソナリティーとして語ってきたことがベースとなっています。実際にリスナーの人気を実感し始めたのはいつごろですか?

 「COTEN RADIO」はもともと、18年秋にCOTENの広報番組として配信を開始しました。ある時期から急に人気が出たというよりは、ずっと右肩上がりの状態が続いて今まで来たという感覚です。最初の期待値はとても低かったんです。始めた当初はリスナーが100~200人程度で、それでも「結構聴かれているな」と感じていた。今では1カ月でコンテンツを聴いたリスナーの数が、20万人に上るまでになりました。

「COTEN RADIO」は毎週月・木曜日にポッドキャストなど様々なプラットフォームで配信。深井氏、COTENの広報担当で中国四川省出身の楊睿之氏、BOOK代表の樋口聖典氏がパーソナリティーを務める
「COTEN RADIO」は毎週月・木曜日にポッドキャストなど様々なプラットフォームで配信。深井氏、COTENの広報担当で中国四川省出身の楊睿之氏、BOOK代表の樋口聖典氏がパーソナリティーを務める

──ここまで人気になった要因は何だと考えていますか?

 リスナーからの一番多い感想は、「人生の捉え方が変わった」「考え方がフラットになった」「ものの見方が変化した」というもの。番組を通じて自分がとらわれていた常識から解放される感覚を持つリスナーが多いと感じます。それが、「COTEN RADIO」の内容を再構成した、今回の著作『歴史思考』の主題にもつながっています。

──広報手段として、なぜ「聴く」コンテンツを選んだのですか?

 実は偶然です。「COTEN RADIO」の立ち上げメンバーで、番組の聞き手も務めている樋口聖典さんが、もともとCM音楽を手掛けていたり、ローカルラジオのDJだったりと、音声コンテンツとの親和性が高かったんです。そこでポッドキャストを試してみたら、意外と相性が良かった。

 僕自身はいつもインプットはテキストからのみで、ラジオにもテレビにも触れてこなかったのですが、それが結果として、今までにない番組の雰囲気を生み、多くの人に興味を持ってもらえたのかもしれません。

──サイトでは多くの参考書籍も公開されています。番組はどのように制作していますか?

 毎回、僕がテーマを選び、そのテーマに沿った書籍をまず一気に80冊くらい購入します。 その中で、概論的な書籍から読み始め、骨子をつかむ中で浮かんできた疑問を洗い出します。例えば、今取り組んでいる「日露戦争」というテーマなら、「どうして日本とロシアは戦う必要があったのだろう?」という大きな問いを立てる。その問いの答えを見つけるために、さらに書籍を読み込んで情報を増やしていき、最終的に、自分たちが立てた疑問を、おおむねは解決した状態へと持っていくことを目標に番組を作っています。

 織田信長をテーマにした際は、「なぜ武士は死にたくないのに戦っているのか?」という問いを立てましたが、これについて調べていくと、800年前くらいまで遡らないと説明できないことが分かりました(笑)。基本的にはひたすら書籍に向き合い、地道に調べて番組を作っています。

「COTEN RADIO」では各回の参考文献のリストを公開
「COTEN RADIO」では各回の参考文献のリストを公開

難解な専門書と単純化するYouTube講座の「間」が必要

──「COTEN RADIO」では、ウクライナ戦争の勃発を受け、3月に特別編として「ウクライナとロシア」編が6回にわたり配信されました。このテーマで番組を作るに当たっては、どのような問いを立てましたか?

 「なぜロシアは複数の選択肢の中から侵略行為を選ぶに至ったのか?」という疑問が根幹にありました。「プーチンが残忍な人間だからだ」と考えるのは簡単ですが、歴史上、有事を自分が理解可能な範囲だけで捉えて解決に導いた者は1人もいません。

 分かりやすく、のみ込みやすい善悪二元論は、歴史思考の反対側にある思考や行動です。歴史思考的なものの捉え方では、しばしば「よく分からず、スッキリしない」という状態にもなるので、それに耐えうる忍耐力も必要になります。「ウクライナとロシア」編は番組を終えた今も、僕自身スッキリしません。それでも、短絡的に結論を決めつけるよりは、迷っているくらいの方がいい。悩みながら、その時々に最適だと思う選択をしていくしかない。

 両国から物理的距離のある日本は、西洋諸国に比べて冷静になれる立場を意識し、客観的に考えるべきだと思います。当事者同士では究極的に解決できない問題に対し、第三者は必要です。他方、国同士の問題においては、脅威は脅威として現実的に捉えておく必要もある。その現実的感覚と歴史思考による俯瞰的感覚をバランスよく保つことが重要ではないでしょうか。民主主義にはそもそも、その両者のバランスを持った人たちが集まり、知恵を絞って社会をつくっていこうという考えが根幹にあると僕は捉えています。

──歴史・教養系コンテンツは近年、動画サイトでも流行していますが、分かりやすさを売りにするものが多い中で、複雑な話題にもしっかりと解釈を交えて踏み込む番組という印象です。

 実際、「分かりやすくし過ぎない」ことはとても重視しています。単純化がもてはやされて浸透しすぎた結果、深い知識を求める人のためのコンテンツや情報が市場から無くなりつつあると感じています。非常に難しい専門書か、すごく簡単なYouTube動画に二極化している。僕たちが目指しているのはその中間なんです。

 情報の分かりやすさを追求し、解像度を粗くし過ぎた結果、伝える内容に嘘が混ざったり別物になってしまう例は世の中にあふれています。「COTEN RADIO」は決してそうならないよう、細心の注意を払って番組作りを行っています。

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