2021年4月に放送を開始したオリジナルのTVアニメシリーズ「オッドタクシー」。緻密な伏線や会話劇の妙で放送中盤から加速度的に注目を集め、最終回の意表を突く展開で、放送終了後からさらに人気を伸ばした。22年4月1日には『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』も公開。脚本を手掛けるのは、漫画『セトウツミ』(秋田書店)や映画『ブラック校則』の脚本で知られる此元和津也氏。注目の作家に脚本執筆の裏側を聞いた。
──受注生産形式で販売したBlu-rayボックスの受注数が6000を超えるなど、「オッドタクシー」は放送終了後からさらに人気を伸ばしています。脚本家として、視聴者の熱狂の理由をどのように捉えていますか?
当初は、回を追うごとに小さな謎を積み上げていく「オッドタクシー」の物語構成について、今どきのはやりからはズレているのではないかと懸念がありました。けれど蓋を開けてみれば、多くの人が謎を考察しながら楽しんでくれた。各回のストーリーは特に「引き」を意識し、先の展開がどうなるのか、作者にもはっきりとは分からない状態で書き進めていました。その中で最後の着地がうまく決まったことが、放送終了後の盛り上がりを生んだ一番の要因ではないかと思います。初期の放送を逃した人も、配信で一気見できる環境が整っていたのも大きかった。
──ポップな動物の姿で描かれるキャラクターたちの見た目の印象とは裏腹に、現代社会のひずみや犯罪といったダークなテーマを扱う点も注目を集めました。
「見た目と内容のギャップを狙いたい」という意向は、木下麦監督からも当初から聞いていて、そのうえでどこまでシリアスに踏み込むべきか、バランスを取りながら書き進めていきました。キャラクターをすべて動物で描くという基本コンセプトや、各キャラクターの原案は監督が先に準備や作画を進めていて、そのイメージを基に設定や物語を構成していく部分からが僕の仕事でした。
そもそも、なぜ動物の姿をしたキャラクターたちが人間と同じように社会生活を営んでいるのか? その前提の部分に引っ掛かりを覚えていました。だって、腑(ふ)に落ちないでしょう? どうして主人公はセイウチで、セイウチがタクシーの運転手をしているのか(笑)。
最終的にストーリーの中に組み込むにしろ、組み込まないにしろ、現代的でリアルな物語を展開するなら、「なぜ動物なのか」という疑問に対する世界観の設定は必然だと、最初の時点で思いました。
──22年4月1日から、『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』も公開となります。
映画版の制作に当たっては、TVアニメ版の再構成部分に対して「ただのダイジェストにはしたくない」という難しいオーダーがあり、映画の尺の中でいかに情報を整理し、面白い見せ方ができるかに挑んでいます。TVアニメ版のファンが見ても、構成や展開の意外性を楽しんでもらえる作品になっていると思います。
「僕は死にかけているんじゃないか?」
──現在は脚本家としても活躍する此元さんですが、創作活動は2006年に「月刊アフタヌーン」(講談社)のアフタヌーン四季賞に入選し、漫画家としてスタートしています。そもそも漫画家を目指したきっかけは?
当時、僕には漫画家を目指していた友人がいて、その友人から「お前も漫画を描くのに向いていると思うから、やってみたらどうか」と勧められたことがきっかけでした。
──絵の経験はそれ以前からあったのですか?
正直に言うと、それまで絵や漫画をまともに描いたことはありませんでした。初めて描いた漫画で入選し、漫画家デビューをして、その後はしばらく、原作のある作品のコミカライズの仕事をしていました。作画は最初から割とスムーズでしたが、オリジナル作品を描くまでは少し時間がかかりましたね。
──自身の創作の原動力はどこから来ていると思いますか?
とにかく人間が好きというのは根底にあるかもしれません。人間性に興味があって、人の感情が動くのを見たい。怒っている人を見たりするのも好きなので、そういう点では僕は性格が悪い(笑)。
創作中、必死で作品に向き合っていると「もしかして、僕は死にかけているんじゃないか?」と思ったりします(笑)。考えていると頭がどんどん痛くなってきて、「この痛みがこのまま続いたら死ぬな……」という状態になってくる。その痛みから抜け出すために、死なずに生き続けていくために、物語のアイデアを生み出しているのではないかと。
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