『YAWARA!』『MONSTER』『20世紀少年』など、数々のヒット作を生み出してきた漫画家・浦沢直樹氏。現在は「週刊ビッグコミックスピリッツ」で連載中の『あさドラ!』で、戦後生まれの女の子・浅田アサを主人公に女性の一代記を描く。インタビュー後編では、新しい試みに踏み出す際の考え方や流儀、漫画家の創作の現場をテレビ番組で紹介する狙いなどを聞いた。
──新しい作品を生み出していくうえで、障壁となるものはなんでしょう?
出版社は基本的に前例主義なんです。「今までこれで成功してきた」という過去の成功例にのっとって物事を決めるから、なかなか新しい冒険ができない。『YAWARA!』がヒットした時、編集部からは、バルセロナ五輪のクライマックスを描いた後も連載を続けてほしいと何度も説得されました。でも、絶対に嫌だと断ったんです。
『YAWARA!』はもう7年をかけて描き切っていて、これが終わったら、次はずっとやりたかったミステリー作品をと思っていた。でも当時の漫画界ではミステリーものって売れたためしがなかった。編集部からは「ミステリーだけはやめてくれ!」と懇願され、とにかく女の子を主人公にしたスポーツものを頼むと言われました。オリンピックで金メダルを目指す話はもう描き尽くしたので、それなら、スポーツで賞金稼ぎをする女の子の物語ならと『Happy!』を始めた。
けれど、自分でも『Happy!』は『YAWARA!』が到達した地点には届かないなと分かっていました。「それでもいいんですね?」と念押しをして連載を始めた。実際、やはり『YAWARA!』には数字では及ばなかったけれど、『Happy!』は大好きな作品なんです。それは、自分の中で「これだったら描きたい」と思えるものを描いたから。
その後、1994年に満を持して『MONSTER』でミステリーに打って出たら、やっぱりドーンと売れた。世の中は待っていたんですよ。でも、その「気配」を編集部は感じ取っていなかった。僕はずーっとミステリーだと言ってたのに!(笑)
新しい試みは「ポップな装い」で出す
──表現者として描きたいものと、そうしたビジネス面や読者の目線との折り合いはどのようにつけるのですか?
世の中に広く受け入れられる、ある種「ポップ」な感覚というものがあると思います。例えば、ビートルズが初めて世に出てきたとき、「なんだこれ!」と最初は多くの人が面食らったけれど、彼らは根幹にポップさを持っていたからこそ、どんどん実験的なところまで踏み込んでいくことができた。
読者の目線に合わせてしまうことはしませんが、描く内容はどんどん新しい表現を試したり、前衛的になったとしても、それを届ける時にはポップな装いをさせ、入り口を広くしておくのは大事だと思っています。僕自身、ポップなものが好きだというのもある。主人公がかわいければ、それだけでも読んでくれる人は増える。『MONSTER』のような難解なミステリーでも、美形のキャラクターが出てくれば女性ファンも増える。装い方の工夫で、新しい試みにも読者がついてきてくれるのではないかと思っています。
この記事は会員限定(無料)です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー

【最新号のご案内】日経トレンディ 2023年4月号
【巻頭特集】資格・転職・副業の新しい地図
【第2特集】安く買う&高く売る リユース攻略ワザ
【第3特集】即効! 節電グッズ18選
【SPECIAL】櫻井 翔インタビュー
発行・発売日:2023年3月3日
特別定価:750円(紙版、税込み)
■Amazonで購入する