
ネットサービスに比べ、小売店舗では消費者の行動データを把握しにくいといわれる。その壁を打ち破るべく、体験型店舗「b8ta(ベータ)」への出品を決めたのがカインズ(埼玉県本庄市)だ。AI(人工知能)カメラで消費者の動きを追う最新店舗で得たデータを、既に商品づくりや店舗改良、マーケティング施策に生かし始めている。出品の狙いと効果に迫った。
さまざまな履歴データを蓄積できるネットサービスに対して、リアル店舗で集められるデータは限定的――。それが常識だった。利用できるものは、基本的にID-POSなどの実際に購入に至った場合のデータ。自社アプリに登録した会員であれば、アプリの閲覧・利用履歴などを組み合わせることもできるが、消費者の行動を把握するのは困難だ。
だが現在、AIカメラを取り付け、店舗内での人の行動を追うなど、リアルな場所でさまざまなデータを取得する新技術が生まれている。そんな中、店舗に多数のカメラやタブレット端末を設置する、小売りDX(デジタルトランスフォーメーション)の象徴ともいえる最先端の店舗が東京で話題を集めている。体験型店舗と銘打つ「b8ta」だ。
b8taは、2015年に米シリコンバレーで創業し、20年8月に有楽町と新宿に店舗をオープンして日本に本格上陸を果たした。b8taの収益モデルは斬新で、商材を展示する区画(約60×40センチメートル)を月額30万円前後(税別)で貸し出す。企業向けのサブスクリプション型であり、「RaaS(リテール・アズ・ア・サービス)」と呼ばれる新しいビジネスモデルだ。
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同店舗には、最先端のガジェットやベンチャー企業の最新商品がずらりと並ぶ。だが、b8taの日本上陸当時、場違いともいえる企業がブースを出していたことはあまり知られていない。その企業とは、ホームセンター大手のカインズだ。
カインズは、b8taの基本である小区画ではなく、より広い半個室の区画「エクスペリエンスルーム」に出品。有楽町店では、Googleのルームの隣に陣取り、取っ手が取れるフライパンや菜箸といったキッチン用品から、ハンガーやランドリーラックといった日用品、キャットタワーなどのペット用品、さらには折り畳み自転車まで、16種類のプライベートブランド(PB)を並べた。
なぜ、最先端の小売り“実験店”に、ホームセンターで売れ筋の日用品を並べようと思ったのか。
商品ごとに消費者の興味関心の高さを数値化
カインズが出品した狙いは大きく分けて2つある。1つは、マーケティング調査による認知度向上のためだ。
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