
スーパーマーケット各社がネットスーパーへの取り組みを強化する一方、コンビニ最大手のセブン-イレブン・ジャパンも店舗からの宅配サービスの拡充を急ぐ。「近くて便利」なコンビニの機動力と、弁当を中心とした商品力を生かした「セブン-イレブン ネットコンビニ」は、食品ECの新地平を開けるか。
「セブン-イレブン ネットコンビニ」は、2017年から北海道の一部エリアでテスト展開しており、19年11月に広島県、20年7月には東京都に進出。現在は、北海道120店、広島151店、東京79店(中野、世田谷、杉並、品川、目黒、太田区)と、それぞれの一部エリアの計350店でサービスを展開している。
利用はサービス導入店舗のおよそ半径500メートル圏内が対象。セブン-イレブンの実店舗にある商品の9割以上、約2800種類を取り扱い、スマートフォンから注文できる。配達場所は自宅でも職場でも自由に設定可能。スマホで最寄りの対象店舗を指定すると、注文を受けた店舗スタッフが商品をピックアップし、配送は物流大手のセイノーホールディングスが設立したセブン専門会社、GENie(ジーニー)のスタッフが担う仕組みだ。
現在のところ、1000円(税別)以上の注文から受け付け、配送料は1回330円(税込み)かかるが、配送時間は注文確定から最短30分と驚異のスピード配送が最大の売りだ。最終の配送時間も、一般のネットスーパーが20~21時ごろまでとするところ、セブンのネットコンビニは23時までに設定されている。
コンビニ業界では、ローソンがウーバーイーツを活用した宅配サービスに取り組んでいるが、取扱商品は約300種類と少ないのがネックだ。独自の配送網を持ち、かつ高密度に配置された店舗の在庫をネット上に解き放つ最速宅配サービスとして、セブンのネットコンビニが持つ独自性は際立っている。全国約2万店を有するセブンにとっては、いまだテスト展開の域を出ないが、「首都圏を中心に展開エリアを広げ、21年度中には1000店体制を目指す」(セブン-イレブン・ジャパンのラストワンマイル推進部マネジャー、安達到氏)と話す。
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ここで生まれる疑問は、急拡大するネットスーパーとのすみ分けだ。大手なら2万点以上を扱うネットスーパーに対して、生鮮品を中心にネットコンビニの品ぞろえの幅は遠く及ばない。しかし、約3年にわたる試行錯誤の末、実はすでにネットスーパーとは違う新市場と強みが見えてきている。
「最短30分」で見いだした新市場とは?
鍵となるのは、これまで最短2時間だった配送時間を20年12月に最短30分へ短縮したことだ。これにより、売れ筋商品の変化と客層の拡大という2つの好循環が生まれた。
例えば、最短2時間での配送を行っていた北海道でのテスト展開時は、重くてかさばる2リットルのペットボトル飲料のケース買いや、ビールの6缶パックなど、高単価の商品がよく売れていた。これは当時、3000円以上の注文で配送料無料という設定をしていたことも影響しているが、これではネットスーパーと同じような使われ方だ。
それに対して、最短30分を実現したところ、「いわゆる即食ニーズも捉えられるようになった」(安達氏)。現在の売れ筋は、カウンターフードの揚げ物や弁当、サラダ、総菜、スイーツなどが目立つという。これらはセブンの強みとなる商品群であり、ネットスーパーというよりもウーバーイーツなど食事宅配サービスに近い使われ方だ。在宅勤務中に食事を作る時間も買いに行く時間もない、そんなニーズを捉えた。
もちろん、弁当を注文した人は、飲料やスイーツを組み合わせて購入することも多い。家族の夕食用に揚げ物のまとめ買いや、アルコール、日用品などのついで買いも発生する。大手ネットスーパーほど品ぞろえは多くないが、必要とされるアイテムはしっかりそろうし、すぐ手に入る。実は、ネット上でも「近くて便利」なコンビニのポジションが存在していたということだ。客層についても、「最短30分にすることで明らかに20代など若年層の利用が増え、購入頻度も上がった」(安達氏)という。
さらに興味深いのが、ネットコンビニ利用者の購入データを分析すると、「利用前と比べて、リアル店舗を含めたセブン-イレブンの利用回数や利用金額が増えている人も目立つ」(安達氏)という。ネットコンビニがあるから店舗に行かなくなるのではなく、普段の利用と合わせてプラスアルファの購入が発生しているのだろう。例えば、これまでなら帰宅して着替えが済んだ後にアルコールやつまみの総菜が欲しくなっても、わざわざ店舗に行くのはおっくうで結局諦めるという人は多いはずだ。そうしたシーンでも気軽に頼めるのがネットコンビニで、ついでに翌朝の食事を調達することもできる。
また、毎週のように投入される新商品は店頭でもPOPなどを使って訴求しているが、利用者がすべてを把握するのは難しい。その点、ネットコンビニではトップ画面の一覧で新商品を訴求しており、認知を獲得しやすい。それがネットコンビニでの注文のみならず、店頭を訪れたときの購買にも影響している可能性がある。
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