
総合スーパー大手のイオンリテールとイトーヨーカ堂が、2020年にネットスーパー事業で相次ぎIT企業との連携を始めた。イオンはZホールディングス傘下でレシピ動画サービス「クラシル」を提供するdely(東京・港)と組み、ヨーカ堂はネットスーパー構築のクラウドサービスを開発する10X(東京・中央)と専用アプリを開発。コロナ禍で需要が急伸し、小売りDX(デジタルトランスフォーメーション)の本丸ともいえるネットスーパーにIT企業はどう切り込むのか。
delyは2020年8月にシステム開発不要でネットスーパー立ち上げを支援する「クラシルリテールプラットフォーム」を発表。同12月からイオンリテールが運営する「おうちでイオン イオンネットスーパー」と連携を始めた。イオン九州やイオン東北、マックスバリュ東海とも提携を進め、クラシルアプリでレシピ、献立を決めて、それに必要な食材をイオンネットスーパーでシームレスに買えるようにした。
「ネットスーパーの課題の1つは、継続的なユーザータッチポイントが少ないこと」。こう話すのは、delyのCTO(最高技術責任者)、大竹雅登氏だ。加えて、多くのネットスーパーは注文完了までの平均所要時間が30~40分もかかるといわれ、ユーザーにかなりの負担を強いている。この2点を一気に解消できることが、イオンを振り向かせた核となる部分だ。
クラシルは16年から提供を始め、アプリの累計ダウンロード数は2800万、掲載レシピ数は4万2000件に上る国内最大のレシピ動画サービス。クラシルを使うと毎日の献立を考える手間を省けるから、多くのユーザーは週に2~3回以上、高頻度でアプリを利用している。また、クラシル経由ならあらかじめ作りたいメニューが決まっているため、ネットスーパーで膨大な食材一覧を眺めて途方に暮れることもない。イオンからすれば、連携によって顧客接点を飛躍的に増やせるし、極めて快適な購買体験のルートを確保できるというわけだ。
実際、20年12月からの連携スタート後、「クラシル経由でイオンネットスーパーを利用した月間平均ユーザー数、購入額ともに2倍以上に拡大しており、クラシルユーザーの購買頻度も一般のネットスーパーより高い」(大竹氏)と、順調な立ち上がりを見せている。しかも、クラシルは約9割がアプリ経由の利用で20~30代女性が多いことから、イオンにとっては新規顧客の獲得にもつながりやすい。また、レシピが購買行動の起点となるので、おのずと利益率が比較的高い生鮮品や冷凍食品の注文がメインとなる。
クラシルアプリから注文までの流れはかなりスムーズだ。好みのレシピを選んでから、必要な材料一覧の上にある「スーパーで検索」アイコンをタップすると、自宅近くのイオンネットスーパー対応店の商品リストが提示される。米なら1袋5キログラム入りのものからパック米飯まで、ネギでも1束からパックの刻みネギ、チューブタイプまでが並び、必要に応じて商品を選べる。もちろん、家庭にストックがある食材は選択不要。商品をカゴに入れたら、お届け日時の選択に進み、イオンのサイトに遷移した後クレジットカードなどで決済するだけだ。
秀逸なのが、電子チラシとの連携。delyは「クラシルリテールプラットフォーム」の一環として、電子チラシサービスを20年3月から展開してきた。クラシル上の「チラシ」タブで登録した近隣のスーパーの電子チラシを確認できる上、自動抽出されたお買い得食材の一覧からレシピを探せる。このレシピにもイオンネットスーパーがひもづいており、近隣のイオンがチラシを配信している場合は、メニュー決めが一層しやすくなる。
購入した食材を基にレシピを自動提案
イオンネットスーパーとの連携では、クラシルはレシピ閲覧から購入商品、配送日時の選択まで対応し、注文の確定処理、決済、発送はイオン側が行う。つまり、クラシル会員の購買データはdely側で把握できる仕組みだ。これを活用してdelyは、「21年中にレシピ提案のパーソナライズ化を進める計画」(大竹氏)という。
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