イノベーションとは、社会課題の本質に気づき、その課題解決に果敢に挑戦する過程で生まれるもの。この実現に有効なのが、デザインマネジメントという考え方だ。この連載では3回に分けて「デザインマネジメントがイノベーションに必要な理由」「事業創造のための2つの視点はデッサンで養う」「イノベーションに不可欠な『自己再定義』とは何か」を解説する。本講座を読み、さらに興味を持った読者向けに、筆者による「デザインマネジメントによるイノベーター育成講座」も4月からオンラインで開講する。

 「デザインマネジメント」という言葉をご存じだろうか。以前に比べれば、「デザインマネジメント」は日本のビジネスシーンにおいて、かなり理解を得られてきたと感じている。「デザインとは、ただ色や形を整えることではない」ということは、すでに多くの人が理解していることであろう。

 では、そもそも、デザインマネジメントとは何なのだろうか。 連載初回では、その肝の部分をお伝えしたいと思う。

デザインは社会と密接につながっている

 まず前提の話をしよう。

 日本においての大きな課題は、教育体系の中にデザインという文脈での教え方がないことだ。海外に見られるデザイン教育は、デザインというよりリベラルアーツや宗教も含めた根底教育のようなものが基本にある。美学であるとか、人は何を信じて動くのかなどといったことが、実は社会と密接につながっているということを学ぶのだ。しかし日本では、そういった実感がないままなので、自分たちは何を大切にすべきなのかということになかなか目を向けることができない。

慶応義塾大学大学院の田子學・特別招聘教授。アートディレクター、デザイナーとして、イノベーションの実現を目指す企業へのデザインマネジメント導入を進めている
慶応義塾大学大学院の田子學・特別招聘教授。アートディレクター、デザイナーとして、イノベーションの実現を目指す企業へのデザインマネジメント導入を進めている

 日本は、ものづくりは巧みなのだが、どこかでフィロソフィーが抜け落ちてしまった。本質的な価値は何なのかという起点になるべきものが欠落してしまっているのだ。そのような中で、経営の効率化ばかりを追い求めた結果、ものを大量生産できる技術立国にはなったが、コピーしやすい製品ばかりが出来上がってしまった。今、アジア各国にいろいろな意味で追い上げられてしまっている原因はここにあるだろう。

 アートとデザインの違いをみなさんはどう考えるだろうか。アートとは、もともとは芸術家が創造した価値が、王や当主に認められることによって資産になっていくものだった。しかし、現代社会はそれほど単純にはできておらず、多くの人の多様な価値観によって社会が形成されている。デザインはそういった社会背景を捉えながら、必ず複数人でチームを組んで価値創造をするものなのだ。このような原理さえも、日本の教育ではなかなか教えるところがない。

 このような状況の中、デザインマネジメントが目指すものは何か。それは、本当の根底的な価値、そこに宿る価値をどう形成すべきかを考えることだ。デザインマネジメントとは、1つのプロダクトを作って終わりではない。そのプロダクトに介在するものすべてを含めた上で、関係性をひもときながらデザインしていくという考え方なのだ。

関係性をひもときながらデザインする

 例えば、あなたが中堅パンメーカーのマーケティング・マネジャーだとしよう。パンは小麦からできているが、その80%以上は海外から輸入されているものだ(※1)。そのうち米国からの輸入が約半分を占めているが(※2)、その栽培地である米国中央部では近年、干ばつが多発し問題となっている。大量の地下水を使って小麦を栽培し世界中に輸出しているため、水が不足してしまっているのが原因だ。

 輸入小麦の大量消費国である日本は、小麦を育てるために必要な水も輸入しているのと同様と捉える、いわゆるバーチャル・ウオーター(仮想水)の消費国でもある。パンメーカーはこうした問題に目を向ける必要があるだろう。

 国内産小麦を使うのか、はたまた自社で小麦を栽培するのか。国産小麦を打ち出すことで、そこに社会貢献としてのメッセージが生まれる。しかし、国産の小麦を使えば、おそらく商品の価格は上がることになるだろう。それでも、その背景にある本質的な価値を見いだし、その価格でも満足して買ってくれる人がいるかどうかがとても重要になってくるわけだ。その価格では売れるわけがないといったこれまでの常識は、ここでは一度破壊しなければならない。

ブランドを育てるためのマネジメント

 このように、全体の価値というものを、いかにマネジメントしていくかという考え方がとても重要。ブランドを生むためには、こうしたマネジメントが必要不可欠だ。テクノロジーは優秀なのにブランドが育ちにくく、高付加価値なビジネスが成功しにくいのは、こうした考え方が浸透していないからだ。

 では、ブランドとは何だろうか。それは、企業と個人の約束だ。お客様との信頼関係を長期的にどう築いていくのか、それこそが企業が努力すべきことなのだ。

 まず、強烈なファンを1人つくる。すると、その人が口コミで友人に話してくれるだろう。そしてその友人がまたその友人に、というふうに情報は広がっていく。この最初の1人がとても重要で、その後に続いてくれる人を増やすのは、複利で資産を形成していくこととよく似ている。私がよく「デザインは資産になる」と発信するのはこのためだ。どうすれば強烈なファンをつくれるのか、という視点でものづくりを考えることが大切なのである。

 以上のことを踏まえると、デザインマネジメントとは下の図にあるようなことだといえる。

デザインマネジメントが担う役割
デザインマネジメントが担う役割

 この図にあるように、検知→破壊→創造→一貫というサイクルを回すことがデザインマネジメントの神髄なのだ。

 デザインとは、そもそも本質的な価値とは何かを問うところから始まるものだ。これまでそれを教わってこなかった日本において、デザインを活用しきれていないのは非常にもったいないと感じている。これまでデザインを学んできていない人たちにも、ぜひ、この連載や講座を通して、デザインの意義や価値を伝えていきたい。

※1 令和元年度、カロリーベース自給率17%、農林水産省
※2 2019年、日本の主要農産物の国別輸入割合、小麦の46%を米国から輸入、農林水産省
【4月13日開講 日経クロストレンドカレッジ・特別講座】
 「視点」を変えて事業を創る
 デザインマネジメントによるイノベーター育成講座・田子塾
本連載の筆者・田子學さんによる「デザインマネジメントによるイノベーター育成講座」を実施します。事業創造に必要な「モノやコトのつながり」を見つける新たな視点、新たな視点で得た価値や気づきを「視覚化」してアウトプットする力、視点と気づきをアウトプットすることでイノベーションを起こす力、これらを得るための実践方法を学びます。

日時 4月13日、4月27日、5月11日(全3回) 13時から18時まで(予定)
会場 すべてオンラインによる授業 (パソコン、スマートフォン、これらを接続できるインターネット回線が必要です)
価格 18万円(税別)
詳細、お申し込みはこちら

(構成/橋本 史郎)

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