
サード・パーティー・クッキーの規制とマーケティングに与える影響を探ってきた本特集。第6回ではポストクッキー時代の新概念「ゼロ・パーティー・データ」を取り上げた。この新たな概念にいち早く取り組むのが、ポロシャツで知られるアパレルブランドのラコステ ジャパン(東京・品川)だ。同社は2021年1月から自社の顧客データ基盤を見直し、ゼロ・パーティー・データの取得に乗り出した。
ラコステが取り組むのは「ゼロ・パーティー・データ」と呼ばれる、既存の顧客接点だけでは取得しきれないデータの拡充だ。ラコステがこのゼロ・パーティー・データの取得に乗り出したのには大きく2つの理由がある。1つ目は「販売チャネルとしてのECサイトの急成長」だ。
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、大打撃を受けた業種の1つが小売店だ。緊急事態宣言下では、多くの店舗が営業を自粛した。その間、売り上げを支えたのがECサイトだ。EC化が遅れているといわれていた国内でも、販売チャネルとして急速に存在感を増している。
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ラコステ ジャパンにとってもまさに20年はECサイトが急成長を遂げた1年だった。従来は販路の8割を実店舗が占めており、ECサイトはあくまで店舗の補完という位置付けにすぎなかった。これがコロナ禍以降は大きく変わった。第三者との接触を避けたい消費者がECサイトに流れ込んだ。
ところが「現状ECサイト利用者の8割が1回の購入で終わってしまう。コロナ禍で利用者が拡大する今、顧客分析を強化して再利用を促すことで、売り上げ増加が期待できる」とラコステ ジャパンのマーケティング部CRM部門マネージャーの青野功治氏は言う。その理由として考えられるのが、店舗とECサイトのUX(顧客体験)の違いだ。
購買データだけでは接客活用に限界がある
ラコステの代表商品といえば、言わずと知れたポロシャツ。ECサイトの初回購入者の大半はまずポロシャツを買う。次に買う商品は何かというと、実は2回目もポロシャツを買う人が多い。「そういった購買データを真に受けると、永遠にポロシャツやTシャツなどをレコメンデーションで薦めるべきという結論になってしまう」と青野氏は言う。ECサイトの購買データを基にした“接客”の限界だ。
チャットやチャットbotを活用した、疑似的なWeb上の接客も導入が進む。だが、こちらはデータの蓄積よりも、会話を通じた商品の絞り込みが目的になることが多い。商品検索の手助けという側面が強く、やりとりのデータの活用について事前に同意を得るケースは少ない。
一方、店舗であればもっと柔軟な接客ができる。テレワークで体裁的に襟付きの服を探しているといった商品の用途、あるいは購入の目的など、販売員が来店客との会話を通じて顧客を理解し、適した商品を薦められるからだ。さらに優秀な販売員は会話の内容を記憶しておき、次の接客にも生かす。店舗では当たり前のように行われている接客体験が、ECサイトでは不足していた。ECサイトのアクセスログや購買履歴からは、こうした商品選びにまつわる深い情報は得られない。
店舗の顧客がECサイトに流れる傾向は、当面継続しそうだ。「今後は店舗で購入するのを好んでいた顧客に、ECサイトでも買ってもらうことが重要になる」と青野氏は言う。店舗と同等の接客体験をECサイトで提供するためには、直接顧客に聞くのが早いのではないかと考えた。このことが、ゼロ・パーティー・データ取得を始めた発端だ。
2つ目の理由は特集の本題でもある「サード・パーティー・クッキーの規制」にある。ECサイトのマーケティングにデジタル広告は欠かせない。ラコステでもリターゲティング広告や広告効果の分析などで、今後規制が強化されるサード・パーティー・クッキーを活用していた。これまでであれば店舗が主体のビジネスだったラコステにとって、サード・パーティー・データの規制による影響は軽微だったかもしれない。だが、先述した通り、ECサイトが事業の中心になろうとしている中、このまま対策を施さなければ影響を無視できなくなる可能性がある。
ラコステが強化を始めたゼロ・パーティー・データについては第6回で詳しく解説したが、改めて簡単におさらいしたい。ゼロ・パーティー・データは広告主からの対価と引き換えに、消費者が同意した上で意図的に提供するデータを指す。事業主体者が取得するデータという点で、ファースト・パーティー・データと同じだが、アクセスログやECサイトの購買履歴など受動的に集まるファースト・パーティー・データに対し、ゼロ・パーティー・データは能動的に顧客に働きかけ、同意を得て収集するデータを指すのが一般的だ。ラコステは毎月、顧客が参加したくなるキャンペーンを実施することで、ゼロ・パーティー・データを取得することを目指す。
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