
サード・パーティー・クッキーの廃止により広告事業と共に影響を受けるのが、第三者のデータを活用した顧客分析の支援事業だろう。第三者のデータには頼りづらいポストクッキー時代には、自社の顧客から取得できるデータ、すなわちファースト・パーティー・データがより重要になる。さらに、消費者の同意を得て意図的に取得するゼロ・パーティー・データと呼ばれる新たな概念が登場している。
広告主企業が顧客分析をするとき、往々にしてデータ不足に陥りがちだ。EC事業者なら購買データや自社サイト上の行動データは保有しているが、そのデータだけを使って顧客のライフスタイルなどを導き出すのは難しい。そうした課題に対して、サード・パーティー・クッキーで収集したデータを連携させる顧客分析サービス事業が活用されてきた。事業主体者が発行するファースト・パーティー・クッキーと、データ事業者が収集するサード・パーティー・クッキーの連携技術を活用した方法だ。
しかし、クッキー規制により、今後、サード・パーティー・データの取得は難しくなりそうだ。EU圏ではデータの取り扱いがより厳しく、GDPR(一般データ保護規則)ではデータ連携する際に、事前に消費者の同意を得る必要がある。将来的に日本の個人情報保護法が、同様の水準に引き上げられる可能性もある。
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第三者のデータに頼りづらいポストクッキー時代には、広告主が主体となって取得するファースト・パーティー・データを増やすことがより重要になる。「ビジネスの構造上、顧客データをしっかり活用する企業ほど、サード・パーティー・クッキー規制の影響を受けにくい」とデータ活用支援事業を展開するブレインパッド プロダクトビジネス本部の上川晃二朗プロダクト開発部長は言う。
近年「D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)」と呼ばれる新しいブランドづくりが脚光を浴びているのは、顧客データを主軸に置いた商品開発や商品改善、顧客との関係性強化を成長の源泉としたビジネスモデルに注目が集まっているからだ。D2Cは顧客理解のためのファースト・パーティー・データが事業の根幹となる。
逆に新規顧客を広告で取り続ける焼き畑農業的なマーケティングを実施している企業ほど、サード・パーティー・クッキー規制の影響を受けやすい。「デジタル広告は効率が下がっており、伸びしろが少ないところで争っていては事業成長は難しい。大半の企業は売り上げの8割を、1割から2割の顧客がつくっている。つまり、8割以上の新規顧客が離脱している。この離脱率を5ポイント下げるだけで、大きな売り上げ増が期待できる」。こう提案するのはデジタルマーケティング支援を行うチーターデジタル(東京・港)の加藤希尊副社長だ。いよいよマーケターは顧客理解から目を背けられなくなっている。
「ゼロ」と「ファースト」の違いとは
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