
米グーグルによるサード・パーティー・クッキーの廃止とほぼ並行し、大きな論争を巻き起こしているのが、米アップルの端末を識別するIDである「IDFA」のポリシー変更である。これに猛然と抗議するのが、米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)であるが、2021年の早期に変更が実施される見通しとなった。一体何が起きていて、どう備えるべきか。
事の発端は2020年6月。アップルが年次の開発者会議でIDFA(Identifier for Advertisers)の情報をデフォルトで誰でも利用できる状態から、承諾が必要なオプトインに変更すると突然表明したのだ。これに困惑したのがIDFAをアプリ上の広告などに活用していたネット広告業界とアプリ開発者である。
IDFAはサード・パーティー・クッキーのように使うことで、収集した行動情報から利用者のプロファイルを分析したり、アプリ上にパーソナライズした広告を表示したりできるからだ。アプリのダウンロード購入を促すリターゲティング広告にも使われている。IDFAは英数字の羅列のIDであり、個人情報は含まれていない。ただクッキーと同様にIDFAを収集してビッグデータとして行動を分析することで、そのIDFAの持ち主がどのような嗜好を持つのか高精度に推定できる。アプリの開発者や発行者は、無料で使ってもらう代わりにアプリ内に広告を出すことで収益を上げている面もある。
【第2回】 Google本社の責任者が告白 クッキー代替技術「FLoC」開発の裏側
【第3回】 リタゲ広告に壊滅危機 広告会社が生き残りかける3つの方向性
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【第8回】 米広告業界に突如巨大ライバル、ウォルマートがデジタル広告内製
【第9回】 ラコステがゼロパーティーデータ活用へ アンケート回答率2倍に
【第10回】 グーグルの“ライバル”がクッキー廃止に新技術、COOが戦略語る
【第11回】 グーグルが個人追跡型広告と決別宣言 オラクルが反発を表明
FBのザッカーバーグCEOが“激怒”
こうしたアップルの方針に激怒するのが米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)だ。20年12月には米大手新聞に「中小の広告事業者のビジネスを守るべきだ」とアップルの方針を批判する意見広告を掲載。21年1月末には、20年度の通期決算の発表と同時に出した声明で「プライバシーを主張する多くの競合がいるが、それはしばしば間違っている。多くの中小企業がターゲティング広告をできなくなる。アップルは人々を助けるためにやっているというのだろうが、明らかにアップルの競争上の利益を追求している」と痛烈に批判した。
スマホアプリやWebブラウザーの「Facebook」やアプリ上の広告には、フェイスブックが運営するアドネットワークである「オーディエンスネットワーク」が使われる場合がある。アプリ内に出てくる広告枠への出稿や、Facebookのタイムラインに出てくるゲームを紹介する広告などがこれにあたる。これを多くの中小の広告事業者が利用しているという。フリーランスの個人もいるだろう。フェイスブックは20年8月に出した文書で「アプリのインストールの広告を対象としたテストでは、パーソナライズをしないと(広告やアプリの)発行者の収入が50%以上減少した」と主張した。
アップルのアプリ経済圏はそこでの物販なども含めて巨大だ。アップルが20年6月に発表した調査によると、アプリに関する広告の売り上げだけで19年に全世界で450億ドル(約4兆7000億円)にも達する。44%がゲーム内で発生しているという。アプリのダウンロードを促す広告もある。
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