
Webブラウザーのサード・パーティー・クッキー廃止の動きが加速している。その影響はデジタル広告事業を直撃する。とりわけ、リターゲティング広告と呼ばれる追跡型の広告は壊滅的な打撃を受けかねない。米グーグルが第三者も利活用可能な代替技術の開発を進めているが、業界からは不満の声も聞こえてくる。各社は事業存続をかけ、3つの方向性で独自の技術開発を進めている。
「サード・パーティー・クッキーは当社の事業そのもの。このまま手を打たなければ、事業が立ち行かなくなる恐れもある」
DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)事業者の代表格であるインティメート・マージャーの簗島亮次社長はこう危機感を募らせる。インティメート・マージャーはサード・パーティー・クッキーを用いて、幅広くデータを取得。そのデータをDMPと呼ぶデータベースを介して、広告主に広告配信のエンジンとして提供してきた。サード・パーティー・クッキーの廃止は、事業の根幹を揺るがしかねない。
【第2回】 Google本社の責任者が告白 クッキー代替技術「FLoC」開発の裏側
【第3回】 リタゲ広告に壊滅危機 広告会社が生き残りかける3つの方向性
【第4回】 アップル「IDFA」変更で広告業界騒然、フェイスブック猛烈抗議
【第5回】 ディノスが脱クッキーでデータ戦略推進 カタログとアプリを融合
【第6回】 ポストクッキー有力候補か ゼロパーティーデータの利点と課題
【第7回】 米大手メディアで始まる脱広告プラットフォーム、GAFA対抗なるか
【第8回】 米広告業界に突如巨大ライバル、ウォルマートがデジタル広告内製
【第9回】 ラコステがゼロパーティーデータ活用へ アンケート回答率2倍に
【第10回】 グーグルの“ライバル”がクッキー廃止に新技術、COOが戦略語る
【第11回】 グーグルが個人追跡型広告と決別宣言 オラクルが反発を表明
リターゲティング広告は、特に大きな影響が予想される。Webサイトの訪問をトリガーとして、訪問者に再訪問を促す広告を配信する広告商品だ。広告主サイトの訪問履歴がある消費者を対象に配信するため、不特定多数にアプローチするより顧客化につながる見込みが高い。検索連動型広告やディスプレイ広告でサイトに誘因し、購買に至らなかった消費者にリターゲティング広告を当てるといった組み合わせでより効果を発揮する。
これを進化させたのがダイナミックリターゲティング広告。訪問者が閲覧した商品などをリアルタイムに解析して、広告クリエイティブに表示する商品画像などの情報を動的に変える手法だ。ECサイトで閲覧した商品画像が、別サイトで広告として表示されていた経験はないだろうか。それがダイナミックリターゲティング広告だ。
リターゲティング広告はサード・パーティー・クッキーを使うことでブラウザー単位でサイト訪問履歴や閲覧した商品を識別し、広告を出し分けてきた。その根幹となるサード・パーティー・クッキーが廃止されれば、仕組み自体が機能しなくなる。リターゲティング広告に頼っていた広告主は、広告のパフォーマンスが大幅に下落する懸念がある。そこで、広告会社は3つの方向性で対策を進めている。
1つ目は特集の第1回で解説した「米グーグルが開発を進める代替技術の利活用」だ。グーグルは第三者も利用できるネット広告取引の標準仕様を目指して、新たな仕組みの開発を進めている。媒体社向けに広告管理ツールを提供するfluct(東京・渋谷)取締役CTO(最高技術責任者)の鈴木健太氏は「プライバシーサンドボックスで扱える識別子を、枠を買い付ける広告主側のツールに受け渡せるように対応していく」と開発方針を語る。
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