分析人材を見つけ、A/Bテストや小さな予測モデルの構築にチャレンジしたら、いよいよ全社的にデータドリブンを広げていく段階に入る。そのために必要なのが全社横断のIT部門の参画だと、デジタルガレージCDO(チーフデータオフィサー)の渋谷直正氏は指摘する。ただ、導入タイミング次第では逆効果の可能性もあるというが、その真意は。
- 現場での分析の成功事例が口コミで他部署にも広がっていく「ボトムアップ」を意識
- IT部門が主導する大規模な分析環境への投資は、機が熟してから
- データドリブンのカギを握るのは、「データマートの整備」「データカタログの整備」「分析ツールの導入」
第6回では、データ分析を社内で始めるにあたり、最初の一歩としてやるべきA/Bテストや小さな予測モデルの事例を紹介した。今回は、それらを皮切りに、分析やデータ活用を全社的に拡大するためのプロセスを解説していく。
前回紹介した当社のマーケティング部門での予測モデル構築プロジェクトの事例では、他の部署からも「自分たちの部署でもデータを使った新しい施策をやってみたい」という相談が来るようになった。社内の口コミで評判が広がり、データを使う機運が波及していったのだ。
同様の事例は私の前職でも経験しており、データ分析が全社に広がっていく良い兆候と捉えている。私はこのような広がりを、草の根的な「ボトムアップの拡大」と呼んでいる。トップダウンで大規模に進めるよりも、小さいけれど各現場単位での自発的・単発的な取り組みのほうが成果や小さな成功がつくりやすく、スピード感もあり、何より現場にデータ分析の価値が納得感を伴って定着する。
その際に必要になるのは、高度な分析でも高価な分析ツールでもなく、気軽に相談できる専門家の存在だ。「課題はあるが、どうやって分析したらよいのか分からない。かといって、外注してまでやるほどではない」という初歩的なものから、「分析はしてみたものの、結果を正しく解釈できているのか不安」という相談まで、社内には小さな分析ニーズが意外と多い。分析専門組織の役割は、まずはこういう細々としたニーズに丁寧に応えられる身近な相談相手となることであり、現場と小さなプロジェクトを回していくのが結果的に近道といえる。
しかし、現場単位でシチズンデータサイエンティストが増え、小さなプロジェクトの成果が出るようになっても、より大規模かつ全社レベルでのデータドリブン化に進むためにはジャンプが必要だ。それが、IT部門の参画による投資や分析環境の整備である。
現場レベルではどうしても扱えるデータ量や種類に限界があり、大規模なIT投資も難しい。そこにIT部門が入ることで、現場もシステム化によって手作業から解放されたり、大規模で幅広いデータを利用できたりするようになるメリットがある。1部門では導入が難しいツールなども、複数部門で共有すれば利用可能になる。
IT部門を入れる正しいタイミングとは
ここでポイントとなるのは、IT部門が参画し投資を進めるタイミングだ。分析をする土壌が何もない状態でIT部門主導で投資をしたり分析環境をつくったりしても、肝心の分析をするユーザー側のリテラシーや利用ニーズがないと、結局は使われない状態になってしまう。前述のように現場の小さなニーズから草の根的に分析プロジェクトを回し、社内に分析やデータ活用による価値がある程度浸透した段階、いわば機が熟したところで、ITを入れて一気に進めたほうが近道だ。
IT部門を入れて投資を行う際には、次の3つを特に重要視する。(1)データマートの整備、(2)データカタログの整備、(3)分析ツールの導入だ。
この記事は会員限定(無料)です。