ベンダーに言われるがまま、過大な投資をしていないだろうか。DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)の活用に関しては、効果予測が困難にもかかわらず、企業の財布のひもは緩みがちだと、デジタルガレージCDO(チーフデータオフィサー)の渋谷直正氏は指摘する。なぜ企業は過大投資に突き進むのか、その理由に渋谷氏が迫った。

DX(デジタルトランスフォーメーション)がバズワード化し、効果を精査しないまま必要以上にコストをかける事例も……(写真/Shutterstock)
DX(デジタルトランスフォーメーション)がバズワード化し、効果を精査しないまま必要以上にコストをかける事例も……(写真/Shutterstock)
[画像のクリックで拡大表示]
本日の「データドリブン」のツボ!
  • 効果を精査せず、見積額に合わせて投資額をつくり出している可能性
  • ベンダー任せになり、本当に必要なシステム以上の過剰な投資になっているケースも
  • まずは、コストを抑えたスモールスタートから徐々に大きく育てる
  • 見積もりの適正さを査定できるリテラシーを持った人材は必須

前回(第2回)はこちら

 データドリブン化がうまくいかない要因は、「戦略」「コスト」「データ」「人材」の4つに分けられると、前回の記事でまとめた。今回は、その中でも極めて深刻な失敗事例が多い「コスト」、つまり費用対効果の問題に切り込む。一言で言えば、実現したいこと(=解決したい課題)に対して、かける費用が見合っていないということである。

 既に一定程度の投資を行い、DXが一見うまくいっているように思える企業でも、その企業自身が気づいていないケースも含め、実は費用対効果がマイナスになっていると思われる事例が散見される。そもそもコスト削減を目指したDX施策ではそのようなケースは少ないが、販促系・広告宣伝系の施策では、「その投資は本当にペイできているのだろうか?」と疑問を感じるものがある。

 例えば、数億円の初期費用をかけてDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)やレコメンデーション、メルマガ配信システムを構築し、そのシステムの維持管理に毎年数千万円程度の費用を投じている場合などがその代表例だ。というのも、それらの施策を通じて獲得した「利益」(売り上げではない)を積み上げたとき、システム費用や日々のオペレーションコストまで考慮すると、実際に手元にどれだけ残っているのかをしっかり見極める必要がある。

 これらのデジタルマーケティングは、効率的に実施できるように見えて、実はきめ細かい施策を行わないと最大の効果を得られない場合が多い。メルマガにしても、顧客ごとの関心を反映したいわゆる「出し分け」を実施しようとすると、多様なクリエーティブを準備したり、出し分けロジックを組み立てて正確に運用したりする必要がある。施策を細かくすればするほど一般的にコンバージョンレートは上昇するものの、オペレーションコストも上昇するので、どこまでこだわって実施するかの最適点を見いだすのが難しいのだ。

妄信的なDX・デジタル信仰が安易な過大投資を生む

 データ分析も同様だ。やればやるほど細かいセグメントを志向する傾向がある。その過程で日々のオペレーションコストは意識されるものの、初期費用や維持管理費用として既に投下された数億円規模の開発コストは無視されがちだ。結果、1件のコンバージョンで見かけ上3000円の利益が得られても、初期費用も含めた総コストで考えると5000円かかっていて、差し引き2000円のマイナスになっている、なんてこともざらにある。実際、ある企業のデジマ施策担当者にヒアリングしたところ、本人はそのことにうすうす気づいてはいるのだが、多額の費用を投じてしまった後で、「収支は実はマイナスになっています」などとはとても言い出せないと打ち明けてくれた。

 この辺りは、マーケティングの領域でよくいわれる「その宣伝は本当に効果があったのか?」議論よりも深刻である。宣伝効果についてはそれを正確に把握することは非常に困難であり、ある程度の割り切りも必要だとの共通理解が浸透している。だが、ことDX関連の投資になると、経営陣を含め、これをやって効果が出ているのだと皆が信じて疑わない点に危険性がある。DXやAIブームがもたらした妄信的なデジタル信仰が、費用対効果を考えることを妨げてしまっていないだろうか。

このコンテンツ・機能は会員限定です。