
2020年12月、衝撃的なニュースが世界を駆け巡った。米イート・ジャストが、シンガポール政府から世界で初めて培養肉の販売認可を受け、一般消費者向けにレストランで培養チキンナゲットの提供を始めたのだ。同社は日本の鳥山畜産食品と「培養和牛」も開発中。その最前線を追った。
米イート・ジャストは、緑豆から抽出したたんぱく質を主原料とする完全植物性の“液卵”や“卵焼き”の「JUST Egg(ジャストエッグ)」を主力商品とする、2011年設立のスタートアップ(創業時の社名はハンプトン・クリーク)。代替肉に関しては、既に市場投入が進む植物性ではなく、動物をとさつすることなく採取した細胞を増殖させる培養肉に焦点を絞って開発を進めてきた。
その理由を、イート・ジャストで研究開発に携わる滝野晃將(あきひろ)氏は、こう説明する。「より環境負荷が低く、おいしく安全で持続可能な“肉”をつくるには、最終的に細胞培養のアプローチも必要になる。そこに先行して挑戦している。事実、従来の工業的な畜産に対して培養肉なら温暖化ガスの排出量を90%超も減らせるし、家畜由来の病原体が発生する心配もなくなる」。
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今回、世界で初めてシンガポールで販売認可を得たのは、培養鶏肉に植物性たんぱくや調味料を加えた培養チキンナゲット。新たに冠したブランド名は「GOOD Meat(グッドミート)」で、環境や動物、人間にとっていい肉であることを示す。培養肉(直訳ではカルチャードミート)という名称には得体の知れない“怖さ”を感じる消費者もいる中で、グッドミートは世界中の誰でも直感的に分かりやすく、かつ親しみやすい。このネーミングでいち早くブランディングできるのは、トップランナーの大きなメリットの1つといえる。
培養鶏肉の製造に当たっては、まずイート・ジャストが厳選した鶏から細胞を採取し、1200リッターの大型バイオリアクター(生物反応槽)を使ってアミノ酸や炭水化物、ミネラル、脂肪、ビタミンといった栄養素を供給しながら増殖させる。約2週間で1キログラムほどの培養鶏肉が製造可能で、その生産イメージは「ビールの醸造工程が近い」(滝野氏)という。では、培養チキンナゲットの味はどうなのか。
気になる培養鶏肉の味は?
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