
世界的な人口増加で食肉需要が高まり、将来的にたんぱく質不足が懸念されるなか、「植物肉」や「培養肉」などの代替肉への期待が高まっている。家庭用の植物肉を2020年に発売した食肉国内最大手の日本ハムでは、培養肉も早期実用化を目指して研究を進める。パートナーは、15年創業のインテグリカルチャー(東京・文京)だ。
「食品製造に使えるほど大規模かつ低コストで動物の細胞培養を達成した例はない。培養できたとしても食感や味などを再現するための技術開発も必要で、実用化に向けては様々な課題がある」。日本ハムの中央研究所(茨城県つくば市)の西山泰孝研究員は、こう指摘する。
そんななか「細胞培養の低コスト化につながる技術を持っていた」(西山氏)と日本ハムが目をつけ、培養肉の基盤技術確立を目指して共同で研究開発を始めたのが、インテグリカルチャーだ。同社は神奈川県藤沢市の研究開発拠点で、動物の体内に似た環境を人工的に作り出す装置を使い、動物細胞を低コストで大量に培養する研究を進めている。
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これまで培養肉は基本的に食品ではない研究用の培養液を使って生産されてきたため、食べることはできなかった。インテグリカルチャーはアミノ酸やビタミン、ミネラルなど市場にあるものを混ぜ、すべて食品で構成された独自の培養液を使用している。
動物の可食部の細胞を「バイオリアクター」と呼ばれる大型のタンクに入れ、培養液に浸す。ただ、それだけでは細胞に「増えろ」という指令がいかない。動物でその役割を果たしているのがホルモンだ。一般的に、牛の肝臓の細胞を培養するためには牛の肝臓のホルモンなど特定のホルモンを調達する必要がある。
インテグリカルチャーが開発した複数のバイオリアクターを制御する「カルネットシステム」では、セットする時にホルモンを作る細胞の構成を変えることで、タンクの中でホルモンを作り出して細胞の培養に使える。羽生雄毅CEO(最高経営責任者)は、「どの細胞を何度でどのぐらいの期間培養すればいいかは秘伝のタレの世界。理論上、動物や細胞の種類を問わずに培養できるのが強み」と語る。このシステムにより、牛や鳥といった動物の細胞は1.5~2日で2倍に増えるという。
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