オールドマシンをよみがえらせたガイアフロー

 16年、静岡市に蒸留所を開設したガイアフローディスティリングの社長・中村大航氏も、アイラ島に魅せられた一人だ。精密部品を作る会社を経営していたが、今は同社の副社長でもある妻との旅行で現地の蒸留所を回り、世界で自社製ウイスキーを売ることを夢見て参入を決めた。

 こだわったのは、どこの蒸留所も行っていない独自性だ。一つは、ファンが多かったものの、12年に閉鎖されたウイスキー「軽井沢」の蒸留所の設備の復活。長年放置されていたため、蒸気で加熱するタイプの4機の蒸留器は朽ち果てていた。だが、それぞれから使える部品を抜き出して再構成し、再生器として1機を見事によみがえらせた。

軽井沢時代のオールドマシンをよみがえらす
軽井沢時代のオールドマシンをよみがえらす
「ガイアフロー静岡蒸溜所」は、ウイスキー「軽井沢」の蒸留器(写真)に加え、麦芽を砕くミル機も再生

 もう一つは、世界では例が無い、まきを使った直火で加熱する蒸留器で本格生産を行うことだ。試行錯誤の末、巨大なまきストーブを蒸留器の下に設計する作りで実現させた。「まきを使うのは、おそらく最も古いウイスキーの蒸留方法。香りや味が穏やかで、優しい味わいになる」(中村氏)。

 20年12月、最初の商品として軽井沢の蒸留器を使った「ガイアフロー シングルモルトウイスキー静岡 プロローグK」を限定5000本で発売し、即完売。21年初夏には、直火蒸留器で生産した「プロローグW」を投入予定だ。今後はKとWのブレンデッドモルトも出す計画で、話題に事欠かない。

ガイアフローディスティリング/ガイアフロー シングルモルトウイスキー静岡 プロローグK
ガイアフローディスティリング/ガイアフロー シングルモルトウイスキー静岡 プロローグK
参考価格8943円(700ミリリットル・税込み)

 一方、一度は撤退し、再度参入を図ったのが本坊酒造の洋酒ブランド「マルスウイスキー」。11年に停止していた長野県の信州蒸留所を再稼働させ、その後に設備を増強。16年には鹿児島県南部に津貫蒸留所を新たに設立し、加えて屋久島に貯蔵庫を新設する3拠点体制でリベンジに打って出た。「信州、津貫、屋久島という全く気候が異なる土地で、風土を生かした熟成酒を造れるのが強み」と、同社の本坊和人社長は話す。20年4月には津貫から「シングルモルト 津貫 ザ ファースト」が発売され、完売。各拠点のシングルモルトの他、3拠点の原酒を混ぜたブレンデッドモルトの生産も期待される。

マルスウイスキー(本坊酒造)/シングルモルト 津貫 ザ ファースト
マルスウイスキー(本坊酒造)/シングルモルト 津貫 ザ ファースト
参考価格1万2100円(700ミリリットル・税込み)

 興味深いのは、いずれの蒸留所も、「イチローズモルト」を手掛けるベンチャーウイスキー社長の肥土伊知郎氏が相談相手になっていることだ。「聞けば何でも教えてくれる。蒸留器メーカーとの橋渡し役を担うなど支援も惜しまない」(樋田氏)。肥土氏は、新蒸留所の誕生にも大きな貢献を果たしているのだ。

(写真/小西範和)